「まあ、ギリギリ合格だぞ」
思わず、声のした方に顔を向けた。獄寺君も。
貯水タンクの上に見える小さな黒い影。我らがコスプレヒットマンだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・今、合格、って言ったよな、こいつ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・リボーン・・・・・・・・・・」
この時オレは、生まれて初めて地の底を這うような自分の声を聞いた。
「ま、今回のは我ながら少し悪趣味だとは思ったんだけどな」
「初めて人を殺したいと思ったよ、可能性はおいといて」
「出来るもんならやってみな」
ニヤリ、とニヒルに赤ん坊は笑う。
「今回のソレはな、ちょっとしたテストだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ボスと部下の絆の強さの?」
「それもあるがな」
「ほんとあくしゅみだ…」
「まあ聴け」
「嫌だ」
「まあ聴け」
ズドン!
「はいすいませんでした」
「今回は、てめえの人に対する執着度を測ったんだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・??」
黒衣の子供は、淡々と言葉を紡ぐ。
「お前はややこしい人間関係を避けて生きてきた。けれど、今は違うし、これからだってそうはいかねえ。実際に人間関係に摩擦が生じた時、
ボスとしてどのように対処していくかは重要なんだよ。 ただプロセスをこなすだけじゃなくて、しっかり自分の気持ちが入った行動が、な」
今までのテメエだったら、面倒だと思ったら即投げてただろう?ツナ。
うん、そうかも。
オレは、今回のこのぐっちゃぐっちゃしたのを「めんどくさい」とは思ったけど、「どーでもいい」に変換することはなかった。
この関係に執着して、元に戻すのに必死になっていた。
「・・・・・・・・・・・手紙は」
「ああ、オレが書いたんだよ、お前の字を真似てな。ちなみに一週間前から仕込んであったぞ」
「嘘だろ!陰湿だよ!」
「気付かなかったお前は本当ダメだな」
「・・・・・・・・・てゆうか、一週間の間に気付いてたら何事もなく今日を過ごせたのに…」
「まあ」
「何」
「ドンマイ」
「うるせえ!!」
疲れた。無駄に疲れた。
もう、帰りてえ。はあ。
ゆるゆると顔を上げると、獄寺君とまた視線が合った。いつの間にか座り込んでいた。力が抜けたんだろう。
『獄寺君と視線が合った』ってこんなに意識したのって、今日が初めてだ、と思った。
てか、なんて顔してんの。
獄寺君に近づいた。びく、と動いた。が、そのまま座り込んでる。
オレが近づかなければ。ゆっくり、ゆっくり。
今回の獄寺君は一番の被害者だ。
「ごくでらくん」
オレ絶対今変な顔してる。
「・・・・・・・・・・・」
目を合わせたまま。座り込んで。
「辛かったねえ、ごめんね」
その途端。声をあげて泣き出した。
「よしよし、いいこいいこー、なんて、変だなこれ」
「うう、ぶ、ふぅ、っ、ひっ、うっ、うう、じゅ、じゅう、うう」
「うん十代目はここにいますよー」
わかったから。そんな、しがみつかないで。
制服絶対鼻水と涙だらけだ。
ああ、もう、獄寺君はほんと手がかかる、と胸の中で呟いてみた。弾んでいた。
銀色の頭を抱え、撫でながら、このまま屋上で二人座り込んで、今日が終わって。 そしてまた明日を迎えて。
獄寺君も、山本も、京子ちゃんもハルもビアンキも、フゥ太もランボもイーピンも、ディーノさんも雲雀さんもお兄さんも。
母さんも。 (どこかにいる父さんも。)
リボーンも。
皆一緒だ。 幸せだ、オレって世界一幸せな男だな。と思った。