「うん、まあ、・・・・・・・・・、うん」
この青年はこーいう人柄なのだ、其れは長年共に戦ってきた同志であり何よりも親友である(照れる)のだからよーっくわかっていた。はずだ。
・・・・・・・・・・・彼は天然なのだ。(どっかで吐いた台詞)
綱吉は広々としたエントランスで山本武と遭遇した。無駄に広いホールの入り口正面にはデカデカと『祝★ボス、祝言!〜遅咲きの青春〜』の垂れ幕が掛けられている最中であった。達筆だ。だがしかし非常に余計なお世話だ。馬鹿長い脚立の上から「よっ」と朗らかに挨拶を投げてくる男には全く悪気のカケラも見当たらない。ていうか日本語で書いて理解出来るのって一部の人間だけだと思う。いや違うだろオレ、突っ込みどころは其処じゃねえ。祝言て何だ祝言て。ボスってオレだよなオレのことだよな。しつこいようだけどもう一度言おう、祝言てなんだ。ていうか隅っこに書かれているあのグッチャグッチャした塊みたいな絵は(本当に絵か?トイレットペーパーに包まれた老犬みたいに見えるんだけど)、もしかしなくてもオレとどなたかの、・・・・・・・・いやよそう。
「山本さん」
「どーしたツナ、具合でも悪いのか?滝のような汗が流れてるぞ」
「何か、多大なる勘違いをしていらっしゃるような気がするんだけれど・・・・・・・・・ていうかそれ、書いたの山本?」
「お前、愛は猪突猛進で行くくらいがちょうど良いんだよ!信念の下!」
「いや、・・・・・・・・・・・・うん、」
俺に任せとけ!とでも言いたげに親指を立てる親友。ウインクからスターが飛び出した。そう言われてみればそうかも・・・・・・・いや流されるなオレ!
かなり勢い込んでいたところに『祝言』の文字が目に飛び込んできて、綱吉はちょっとだけ、いや、とても怯んでしまった。正直其処まで考えてなかった。いや普通は考えないだろ!ていうか男同士なんだけど!何でそんな受け入れちゃうかな!あれ、ていうかオレ、山本にカミングアウトも何も全くしてないはずなんだけど!?
やり過ぎな親友の謎で頭を抱えた綱吉からはこの時、最早リボーンのリの字も吹き飛んでいた。
「十代目ェェェ!貴方の獄寺隼人、只今帰りましたァァー!」
(・・・・・・・・・・・ややこしいのが来ちゃったよ!)
「ご、ごくで」「!!!!!!!」
振り向いた綱吉は、獄寺の表情に思わず口を噤んだ。どっからか引っ張ってきた稲妻に雷鳴のオプションつきで恐ろしい形相になってしまっていたのだ。バックに『ピッシャーン!』とか背負っているその原因に思い当たって、綱吉は青褪めた。そうだ、このボス思いなもう一人の親友は、時たまその直情的な性格故―――色々暴走してしまったりする。
「―――――――あの、その、コレは」「十代目」「はいっ」
予想に反し平坦な声色に冷や汗が出始めた。何か、何かめっちゃ怖い。(ひええええ・・・・・!)
「とうとう、気付いてしまったんですね。この俺の、秘めた思いに」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は」
「いや何も仰らずとも!貴方と俺は一心同体なのですから!わかっていますそのお気持ち!とうとう気付いてしまった俺の思いうんぬんかんぬんピーヒャララ」
「・・・・・・・・・・・」
壊れたオーディオと化した右腕。かける言葉すら見つからない。とりあえず、薔薇色に染まった頬と飛び散りそうな唾、あと両肩をガッキと掴んでいる手をどーにかしてほしい。と、綱吉はグッと拳を握り締めた。思わず血管が浮き出ていた。
「ちょっと待ったァァ!」「ああ゛?」「獄寺。非常に残念なのだが、ツナの相手はお前じゃない」
(や、やまもと・・・・・・・・・・・!)
パァァァ・・・!と視界が開ける音。今まで何度か窮地を救った男であるが、最も頼りになる、と実感した瞬間ではなかろうか。
「ツナが好きな相手は・・・・・・・・俺なんだよ!」
「ななななな、何ィィィ!?」
「そうだそうだー!・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・っておい」
綱吉はずっこけた。さっきのウインクは『俺にまかせとけ!』じゃなくて『俺と幸せ築いてゆこうぜ!』とかそんなんだったのかァァ!!無駄にカッコいいとか思っちまったじゃねーかァァ!!と気付いても今更遅い。
「野球野郎・・・・・・・。テメーとはいい加減、決着をつけなきゃなんねーみてえだな」「こーいうとこだけ気が合うのなあ、俺ら」
バックには雷鳴が轟いている。
獄寺が中指をおっ立て、山本は親指を下に向けた。
「――――ぶっ潰す!」
「出来るもんならな」
「あれどっかで見たことあるこの光景!」
いや言ってる場合か!こうなったとき、綱吉には止めることは不可能だ。だってこの男たち全く聞く耳持たねーんだもん!誰か、誰か・・・・・・・!
バリィィィン!!
「かみさま!」
窓を割って侵入してきたどなたかに、綱吉は涙目笑顔で振り向いた。が。
「クハハハハッッ!」「「―――六道骸!」」「・・・・・・・・・ないない。お前はない」
笑いが一向に切れる気配がない六道骸登場。だがその不自然な体の動きに、眉を顰める綱吉。何だか、顔が真っ赤な気がするのは果たして気のせいなのだろうか?
「おいお前、熱あるんじゃ」「沢田綱吉」
遮り男は肩を掴んだ。後ろから「アー!」だとか「近付くな!」だとか不満げな叫びがハモって聞こえる。綱吉は嫌な予感と共に溜息を吐く。どーしてオレの周りには、人の話を聞こうとするヤツがいないんだろう。
「まさか君がそんな事考えていただなんて、知らなかったですよ。全く、素直に吐けば可愛げがあったものを」
ピンクな頬っぺが獄寺並に似合わない。ぞぞぞっ、と粟立つ肌は治まりそうにもない。そして南国変態は爆弾を投下した。
「そんなに好きだったんですか。僕のこと」
「おっ前ふざけんなよ、十代目は俺と結ばれる運命にあるんだよ!」「おいおいおいだから人の話を聞けって、ツナは俺、俺が好きなの」「クハハハ何も聞こえないですねこの下等生物共。僕はちゃーんと聞いちゃったんですよ、あの雲雀恭弥の口から。沢田綱吉が。この僕を愛してるって」「幻聴じゃねーのそれ」「そーだそーだ、鳥の言葉なんて信用できるか!」「あれっそんな事言っちゃいますか、言っちゃうんですか。六道輪廻の餌食になりたいんですか」「この俺のボムで―――!」「俺の時雨金時の味を――――!!」「―――――――!」「―――――――――!!」
何だ。このカオス。
いい加減(突っ込み担当で)付き合うのも疲れてきたので、綱吉は背を向け歩き始めた。エントランスに出来た真っ黒で中が見えない台風はいまだその勢力を保ったまま止むことを知らない。
大体皆、おかしいだろう。男なんかに好かれて嬉しいわけがないし、そもそも何故そのような勘違いをしてしまったのかも理解出来ない。
首を傾げながら遠ざかってゆくボスに、台風は全く気付く事無く、勢いを増していった。