恋って何だ?

愛って、何だ?

口に出せば確実に馬鹿にされる、変なものを見る目を向けられるようなことを、本気でずっと考え続けている。

誰かを好きになることは多々あった。それは決まって心に柔らかな灯がついて己をあったかくするような、見ているだけでほわんと幸せになれるような、そんなものだった。

自分から好きだなんて言ったこともなくて、奥底に大事にとっておこうと決めていたその気持ち。その思い。

恋とは『幸せの象徴』だ、と思い込んでいた。

 

 

 

「ボス」

「・・・・・・・・・・・クローム」

可愛らしい顔で歩み寄ってきたのは、クローム髑髏こと凪であった。

小さな顔。さらさらの髪。パッチリした瞳。桜色の唇。

(かわいい)

その魅力に、改めて気付かされる。

だがそれだけだ。かわいい。それだけ。

「・・・・・・・・・・・・うおおおおおおおお」

「ボス?」

「オアアアアアアアアア―――!!!!!」

「っ!?」

綱吉は突然窓を開け放ち、驚いて凪は仰け反った。

我らがボスは窓枠に掴まり、身を乗り出し、絶叫している。

「ボス、どうしたの、拾い食いでもしたの」

「馬鹿ヤロオオオオオオ――――――ッッ!!!!!」

 

 

 

 

何でだよ。

世の中に人間はたくさんいるっていうのに。これまでの軌跡の中で、出会いはたくさんあったっていうのに。

気付けばあいつだった。オレは、あいつしかいない事に気付いたんだ。

 

 

「ボス」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

再び廊下に降り立ち、項垂れる綱吉に、凪は恐る恐る声をかけた。

「なんかさ」

「え?」

「オレ、最近、すっげーガキみたいなんだ。体の奥から何か込み上げてくんの、熱い塊みたいなもんが。責任とか命懸けてるもんとか、そういうのよりも、先に体を支配しちゃうっつーか。ダメだって思っても押さえらんないんだよね。無理。苦しくて、切なくて、それでも」

「ボス」

「すっげー、気持ちイイんだよなぁ・・・・・・」

一つ瞬いて、凪は目の前の男を改めて見つめた。

そこに居るのは、マフィア界のトップに君臨するボンゴレ十代目ではなく、ただの男だった。

ただの、沢田綱吉だった。

 

 

「おっし」

頬を叩いて気合を入れ、綱吉は凪に笑みを向けた。

「ちょっと、愛の告白をしてくる」

「そ、うなの」

それでこのテンションか。軽く納得し、凪は頷く。そして、柔らかく笑んだ。

「頑張って」

「おー!」

去る男の背中が、何だかたくましく、そして少し切ない。

それがとてつもなくカッコいい、と初めて思った。

 

 

 

 

 

『あー、テステス』

「?」「なんだ」「どうした」「敵襲か」「・・・・・・!?」

唐突に響き渡った館内放送に、屋敷内の人間は驚いた。

本来ならば非常事態時にしか使用を許されていない。しかもこの声は、どう聞いても聞き間違えるはずの無い、我らがボスの声である。

エントランスで台風を起こしながら納豆並に粘ついた口論を繰り広げていた守護者たちも、屋敷内のとある拷問部屋でトンファーを駆使し新たな技を開発中だった守護者も、庭の一角で仕事終わりのティータイムに勤しんでいたお爺さんも、その他諸々も、皆が一斉に聞き耳を立てた。

 

『えー、っと、あの』

「・・・・・・・・何だ?」「ボスだよな」「どうしたんだ」

『り、りりりりりりりりりぼーんさん、し、し、執務室に来てくだ』ズビシッ!『ゴフッ!』

 

 

シーン。

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

 

ボスの仕事部屋で繰り広げられた光景が、耳にした者全ての脳に思い浮かんだ。

「ボス、・・・・・・・・・・・・・・・・・ドンマイ」

部下の一人がぽつりとこぼした言葉は、一日一度は屋敷内で聞こえる台詞であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「何すんの・・・・・・・・・・・・」

「こっちの台詞だ。勝手に放送使うんじゃねーよ」

「だってお前、ケータイ取るの気まぐれじゃん」

それが自分限定のことだ、と綱吉は知っている。他の人間と比べて、自分の扱いは本気で適当だ。だがそれが彼なりの甘えた部分だとも気付いている。

「で?わざわざ非常用放送までしてこの俺様を呼び出しといて、大した用じゃなかったらハエ叩き100の刑に処すぞ」

「不気味なこと言うのやめろよ!」

綱吉は本気で鳥肌を立て、リボーンから少し離れた。

黒い瞳が言葉を促している。

体が熱くなるのを感じる。息を吸おうとして、唇が震えているのに気付いた。

(落ち着け。頑張れ)

 

コイツとの関係が崩れると解っていても。

この一言の危うさを知っていても。

ダメなんだ。

ダメなんだよ、リボーン。

 

しっかりと視線を絡ませ、綱吉は空気を震わせた。

この言葉に、全ての想いを込めてと願いながら。

どうか、伝わってほしい、と願いながら。

 

 

「好きだ」

 

 

お前だけなんだよ。