比べられるなんてことはよくあることであった。物心ついたときからそうだ。

友人、親戚、その他周り。視線はいつもオレを通り越して後ろ、隣、要するにアイツだった。

両親は公平に育ててくれたが、ふとした時に比べられる何気ない一言はオレの中で蓄積されていった。

家族という温かい籠の中から抜け出せば、泥々はもっと溜まっていく。

態度を変えられるなんてのはザラで、露骨に視線や表情で嫌悪されることもしばしばである。

それでもオレを見てくれるのは、周りの視線を集めるアイツ自身であった。

乱暴な言葉を投げつけた後に必ず差し出される手を、オレは知っている。

黙ってそれでも傍に居て、哀しい思いを少しでも和らげようとしてくれる思いやりを、オレは知っているのだ。

 

だから、別に良い。

アイツが幸せになってくれたら。

それで。

 

 

 

 

「よっ、ツナ」

「山本」

ぽん、と肩に置かれた手。幾分か大きなその手は日に焼けている。

黒い、と思いながら綱吉は思った。

(誰と比べてんだ)

「今日ヒマ?店が定休日だからさ、オヤジがぜひ御馳走したいって」

「えっ、マジで!?」

思わず笑顔がこぼれる。山本は目を細めた。滅多に見せない満面の笑みは貴重なのだ、という事実は、本人の知らぬところであった。

「あ、でも」

リボーンも一緒でも?

と伺いを立てる前に綱吉は思い出した。

片割れは彼女が出来たのだ。

 

「でも?」

「・・・・・・・・・いや、何でもない」

 

どうせ、二人で居るに決まってる。付き合いたてなのだからなおさら、邪魔をしてはいけない。

教室の入り口で綱吉は頷いて、中の気配を意識の外に締め出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

竹寿司の戸をくぐり、夜風に当たる。少し寒い。申し訳程度に腕を擦った。

見送った山本の顔がまぶしかった。少し歩いて、戸が閉まる音を聞いて、振り返る。

漏れている光が柔らかかった。

 

「いいなあ」

 

ぽろりと漏らした自分の言葉を聞いてハッとした。

なんで、羨ましがる必要があるんだ。

 

 

 

珍しく星の見える夜だ。

星座なんてよくわからないけれど、純粋に綺麗だと思った。

昔はよく星を見た。テストで点が悪くて怒られた日の夜、体育でミスって皆から責められた日の夜、ドジって笑われた日の夜、二階の奥の使っていない部屋のベランダで。古いマットを敷いて寝転がって。

黙って空を見上げて、たまに涙が零れて、馬鹿なオレはいつの間にか寝てしまって。

気付いたらいつも部屋の中に居た。隣にはリボーンの寝顔。

体格差もそんなに無かったはずなのに、翌朝拳固と一緒に文句も絶対言うのに、必ず部屋まで移動させてくれていたのだ。

「ふへへ」

思わず笑いが零れた。

 

リボーンは自慢の弟だ。俺様で独特で腹黒で何考えてるのかたまにわからないときもあるけど、本当にたまに、とってもカッコいい。

言わないけど。

だからいいのだ。これで。

 

 

 

遠くに街灯がぽつんと立っている。

その下に影を見つけて、綱吉は思わず足を止めた。何か、怪しい。

(ふ、ふしんしゃ?)

止めた足を叱咤して、勇気を出して一歩、また一歩。

段々と見えたその影は、近付くにつれ安堵と複雑さを生み出した。

 

「遅せー」

 

「ご、ごめん」

何だか不機嫌そうなリボーンは、一瞬だけ目が合うとすぐに踵を返した。

マイペースに歩く歩幅は大きい。コンパスの差が哀しい、と思いながら、綱吉は駆けた。

 

 

 

「・・・・・・・・・・今日、」

「あ?」

「・・・・・・・怖えーよ」

 

 

「今日、一緒だった?」

「誰と?」

「決まってんだろ、・・・・・・・・京子ちゃんだよ」

「・・・・・・・・・・あー、・・・・・・・・・・・ああ」

「・・・・・・・・・・・・・・へー」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・オレは寿司食ってきた」

「知ってる」

「えっ?」

「聞こえた」

「・・・・・・・・・・・・・なんだ」

「今度からちゃんと言え、この馬鹿」

「痛でッ!蹴んな、ばか!」

「うっせー馬鹿」

「うっせーばか!」

「ばーか」

 

本当に馬鹿みたいなやり取りが、こんなに安心するなんて。

 

変わってしまった自分たちに綱吉は泣きたくなった。