とうとう、空が泣き出した。
慌てて軒下に非難する。幅が少し狭い其処は内雨を許し、綱吉の足はすぐにびしょぬれになった。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
大丈夫だろうか。先ほど別れた少女のことを思う。
『ありがとう』
あの台詞にどういう意味が込められていたのか、綱吉には計りかねた。
天から落ちる大粒の涙は、容赦なくアスファルトを叩きつける水の槍へと変貌してゆく。
綱吉のいる軒下は不思議なことに、もの凄い音を立て始めた数メートル先の現実とは隔離されたように感じた。
別れた。
京子ちゃんと、リボーンが。
その現実がようやく、胸の底にすとんと落ちてきた。
アイツは、傷ついたのだろうか。
苦しんでいるのだろうか。
だとしたら、オレはきっと、
(茶化して、慰めの言葉をかけて、)
(そんで)
(『次があるさ』と、あいつの肩を叩いて、)
それが『兄』として出来ることだ。
(なのに何で)
なんでだろう。
背中が少し、むず痒い。
(だってこれは、)
(・・・・・・・・・・・オレって最低)
好きだった人の哀しい笑顔に、ほっとする自分。
肩の力が抜けて、安堵している自分。
(だって、戻ってきたから)
誰が?
「おい」
ゆっくりと顔を上げた。
「何してんだ、お前」
困惑した顔。
激しく落ちる滝のような雨の中でも、リボーンは凛と佇んでいた。
悠然と。周りに立ち昇る小さな水の粒子が、その存在を祝福しているかのようだった。
(神様みたい)
「・・・・・・・・ばっかじゃねえの」
「ハア?・・・・・・・・ぶっ殺されてえようだな」
「エッ、ちょっとタンマああああ痛ててててギブギブっ!!」
あっという間に距離を詰められ、首に腕を回されて。
当たり前に触れるその体が、無性に綱吉の心を揺さぶった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・り」
「あれっ、リボーンじゃないッ?」
空気を裂いた甲高い声。綱吉の頭の上で、小さく舌打ちが響いた。
「やだあぐうぜーん、何してんのー?」
綱吉はそろりと顔を上げた。同じクラスの女子だ。やたらと派手な格好で声が大きくて、目立つタイプ。
リボーンにも物怖じする事無く、よく話しかけている。京子と付き合う前も付き合った後も、彼女がリボーンを狙っている事は有名だった。
彼女はちらりと綱吉の方をみて「ああ、ツナじゃーん、いたんだ」とだけ言った。
顔はすぐにリボーンを向いて、少し大袈裟に上目遣いをする。綱吉には顎に少し寄った肉が見えた。
「雨とかサイアクだよねえ、今から帰ろうと思ってたんだけどコレって超偶然ー!ウンメイ?すごくない?」
何も言わないリボーンとマシンガントークの女。唾が綱吉の額に飛んだ。
「もしかして帰んの?リボーンち行ってみたーい!イイ?」
女の腕がリボーンの肩に回った。キツめの香水の匂いが、鼻をついた。
(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・無理。)
「―――――おいッ」
拒絶したかった。媚びて纏わり付くあの女も、無言に受け入れたままの弟も。
だって、あんなに簡単に触らせて。
オレを触ったくせに。
最初に、オレを、
オレは、
(どうしよう)
どうしよう、
苦しいのは何故。
そんなのとっくに気づいていた。目を逸らしていただけ。
一気に背負ってしまった現実。思わず額に手を当て、綱吉は呻いた。
冷えた体と相反して、心臓は熱く鼓動を打ち始める。
このまま加速し続けて、いっそ壊れてしまえばいいと思った。
全部。