鍵を差込み、回す。ドアを開けて勢いよく閉めた。

やばい。絶対に追いかけてきている。確信はあった。

(やれば出来るじゃんオレ!)

あのリボーンに追いつかれないなんて、死ぬ気になればなんでも出来るもんだとちょっとだけ驚いた。

のも束の間。

 

ガチャッ!

 

「――――――――ッッ!」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、ッ、」

 

息を呑みながら駆け込んできた美麗な顔。綱吉は一瞬見惚れた。

が。

「・・・・・・・・・・・・・・テメェ・・・・・・・・」

「・・・・・・・・ヒェェェェ!!」

瞬時に変わった鬼の形相に慄き、慌ててキッチンへと逃げ込む。

誰も居ない。

(そ、そうだ、二人っきりだったああああ!!)

 

ガッ!

 

腕を掴まれて、綱吉は足を止めた。

心臓が飛び跳ねている。止まらない。走ってきたからだ。きっとそれだけ。

「――――なんで、逃げた?」

「っ、」

止まらない。

「はなせ」

「・・・・・・・・・おい、」

(ドク、ドク、ドク、)

ヤバイ。

「いい加減に」

 

体の向きを強引に変えて、綱吉の顔を見たリボーンは、そのまま動きを止めた。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「お前、」

言葉が出てこない。

綱吉は、揺らぐ視界の中、必死に涙を堪えた。

けれどそれは耐えれば耐えるほど込み上げてきて、ああ、自分はどうしようもない、と、そっと何かを諦めた。

リボーンが困惑している。

重苦しい空気をどうにかしたくて、でも、出てきた台詞はかなり間抜けで、情け無いものだった。

「・・・・・・・・・・・くせに、」

「・・・・・・・・・・・・・・は?」

「あんな・・・・・・・・、かんたんに、触らせて、・・・・・・・・・・・ばかじゃねーの」

 

バカなのはオレだ。

 

こんな子どもじみた、女よりも女々しいくらいに醜い、ぐちゃぐちゃの気持ち。

押し付けるだけで。一人、被害者面で。

 

 

 

 

リボーンは最初、理解に苦しむといった顔で眉を顰めた。

だが数瞬後、ゆっくりとその表情を変えた。

驚きと、そして、信じがたいといったような、宇宙人を見るような目で、綱吉を見た。

「、」

(やめて、)

見るな。

 

腕を放して、先ほどの女のところへでも、京子のところへでも、どこでも行ってほしかった。

ただ、その目で自分を見てほしくなかった。哀しすぎる代償。自分はもう、兄弟なんて言える資格なんて無い。

気づかなかった自分の気持ちが降り積もって気がつけば無視出来なくなっていた事に、無性に腹が立った。

 

 

腕を掴んでいた手が、緩んだ。

綱吉は体の力を抜いた。言い逃れは出来ない。だって、絶対に気づかれただろうから。

感情に人一倍敏感な彼は、もう、オレの弟にはならない。

 

 

空になった心臓を持て余して見上げた先には、じっとこちらを見続けるリボーンの顔があった。

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん?」

 

リボーンは表情を変えないまま、ずっと黙りこくっていた。

だが綱吉を見るその目が、何だか予想とはちょっと違うような――――

 

「・・・・・・・・・リボーンさん?」

「―――――――――――――、」

 

 

何で、キラキラしてるんだろう。

 

 

妙な予感がして、綱吉は体を引いた。

が、肩を掴まれる。視線は絡まったまま。

 

「おまえ、」

声が遠い。少し上擦ったような、掠れた声。らしくない、と思った。

 

瞳の奥に、見えたのは。

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うそだ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いや、マジ」

「うそ」

「マジだって」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いやいやいやいや」

「本気」

 

 

待ってくれ。

 

 

そんな奇跡、あるわけがない。

あってはならない。

いけないのだ。

 

 

震える声。切れる息。狂い踊る鼓動。堪えきれない涙。

 

 

押し寄せる、歓喜。

 

 

 

頬にそっと、手が触れた。

腫れたところとは反対側。痛いほどに、痺れが走る。

 

眩暈がした。