夢かもしれない。
夢でもよかった。
こんな夢をみて死ねるなら、世界一幸せだと思った。
肌につく空気がさらりと揺れて、目が覚めた。
雨上がりの冷やりとした独特の空気だ。ゆるやかに息を吐いて、無意識に胸元のかたまりを抱いた。
「……………」
柔らかな髪に顎を乗せると、くちびるにかかってくすぐったい。
ぎゅう、と、心臓がしめつけられて、綱吉は再び目を瞑った。痛い。
リボーンは眠っているようだった。
綱吉の胸に頭をあずけ、背に手を回し、足を絡ませて、鼓動と体温を確かめるように。
小さい頃を、思い出す。
寄り添って、眠った。
大好きだ。
大好き。
リボーン、
と、切なさに浸っていたのも、初めの30分だけだった。
(……あつい)
そろそろ起きても良い時間になってるはずだ。ちょっとおなかも減ってきた。
絡みつく体は動く気配すらみせない。岩のようだと思った。肌にぴったりと張り付く感じは、綱吉を妙な気分にさせた。
「ねえ、」
小さい声は部屋の空気をかすかに揺らしただけで、顎の下にある頭を動かすには至らなかった。
「ね、起きて、リボーン」
「………」
「……だめだこりゃ」
どうにもならないと悟った綱吉は、自力で抜け出そうと試み始めた。体を起こそうにも、重さが半端無い。
「ん、」
しばらく動いていると、リボーンの腕が、体を僅かに締め付けた。
あ。
「……起こした?」
「………、」
「おはよ」
背中を軽く叩く。一瞬の間の後、巻きついた腕がゆっくりと、輪郭を確かめるように綱吉の背を滑った。
「そろそろ、起きてごはん食べよう」
「………うん」
「……母さん、いないから、洗濯しなきゃ」
「……ん」
「……………」
「……………」
「……………」
「……………」
「……………ねえ」
「…………………………ん」
「………起きようって」
「…………………………」
引き剥がそうとリボーンの肩に手を掛けたとき、くぐもった声が胸に響いた。
「何」
「……じゃねー」
「ん?」
「夢じゃない」
寝ぼけてるのかと思った。
どうしたの、と声をかける前に、小さな胸に顔を埋めたまま、リボーンはぼんやりと呟いた。
「……なあ、嘘じゃないよな、」
「、」
「お前、いるんだよな。………ここに。夢かと思った。また、夢見てるのかと思った。信じらんねえ。だって、起きたら、お前が居るんだ」
「……………リボーン」
綱吉の心臓は、静かに鼓動を加速させた。リボーンはそれに気づいているに違いなかった。それが、さらに綱吉の胸を締め付ける。
「………なあ、もう、はなれないで」
「り、」
「そばにいて。幸せにするから。幸せになろう。だから、お願い。………愛してる、ずっと。ずっと、綱吉だけだから」
リボーンは、お願い、と最後に呟いて、綱吉の体を抱きしめなおした。
絡みついた足を、さらに深くして。
綱吉は、ゆっくりと頬を伝う涙を流したまま、リボーンの髪を梳いた。
「…………」
「……………、」
何言ってんだ、とか、寝ぼけてんのか、とか、
オレも好き、と、
言えなかった。胸の熱い塊が邪魔をして、嗚咽が出そうだった。
こんなに真っ直ぐで、不器用で、必死で、愛しい言葉を聞いたことがない。
でも、こんなに幸せだと感じる朝も初めてで、愛しさを言葉で伝える代わりに、抱きしめかえすことしか出来なくて、せめて少しでもこの気持ちが伝わればいいと思って、綱吉は静かに泣きながら、腕の中のリボーンを包み込んだままだった。
そして、ふと我に返る。
母さんに何て言おう。