ここ最近は、毎日がお花畑の中にいるようだった。

そんなことを親友に言ったら「アンタはまたぶっ飛んだことを・・・・・」と呆れられながらも、嬉しそうに微笑んでくれたのを覚えている。

その後、少しだけ顔が曇ったのが引っ掛かった。

「どうしたの?」

尋ねると、頼りになる友人はしばらく黙って、ポツリと呟いた。

 

「あいつって、」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ツナ君?」

「!」

「」

 

 

思わず声をかけたのは見覚えのある背中だった。隣の男の僅かな変化に、京子は気付かない。

そのまま駆け寄ると、沢田綱吉はいつも京子に見せる笑顔ではなく、どこか引き攣ったような笑みで振り向いていた。

「ツナ君、今帰り?」

「・・・・・・・うん、」

「そっかあー」

ほのぼのとした空気を無意識に出す京子。沢田綱吉は彼女にとって、不思議な存在であった。良き友人であり、普段はおっちょこちょいな感があるが時折とても頼りになる。そんな少年を、京子は好いていた。

「私たちもなんだ、一緒帰ろうよ!」

少女の何気ない提案に少年たちは固ったが、彼女は気付く事無く、天真爛漫に笑顔であった。

 

 

「雨上がってよかったねえ」

「ああ」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

仲良く話す美男美女二人の後ろで、よたよたと着いてくる少年はとても浮いていた。

綱吉はひたすら下や横を向いて、なるべく視界に二人を入れないよう努めているのが丸分かりだった。

リボーンはリボーンで、そんな綱吉の振る舞いに全く気付いていない態度で京子と会話をしている。

 

(最悪だ)

 

必死に消していた体の奥の黒いものが、少しずつ侵食してゆく。

 

 

「ツナくん?」「えっ」

 

顔を上げると、大きな瞳が目の前にあった。

「うわあああっ!?」

「あっ、ごめん、大丈夫!?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何やってんだバカ」

ほら立て、と、差し出される手。

何て醜態。真っ赤になりながら思い切り引っ張って立ち上がるも、リボーンはびくとも動かずにこちらを見ている。

地面が乾いていたことに安心しながらもちょっと腹が立った。

「カラオケ、行こうと思ってるんだけど、ツナくんも行かない?ほら、最近出来た駅前の・・・・・・・」

「コイツ誘っても面白くねーよ。あんま歌わねーもん」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・うるさい」

それでも、行きたくないのは当たっている。なるべく悪い印象にならないよう、綱吉は必死に言葉を紡いだ。

「あっあのオレ、補習の宿題が溜まっちゃって、片付けないといけないんだ・・・・・・・・ごめん」

「ううん。そっか、残念だな」

俯いた顔は本当に残念そうだ。綱吉は胸をきゅんとさせながら脳内で謝り倒していた。

ごめんよ京子ちゃん。嘘ついてごめん。でも、二人のラブラブな様子を視界に入れたくないんです。ものすごく頭が痛くなって吐きそうになるんです。

 

「あっ」

という小さな悲鳴と、体が引かれたのは同時だった。

一瞬後に水の音。車がブオオオンと横を通り過ぎて行った。

「危なかったね、かからなくて良かったー」

綱吉の腕を咄嗟に引っ張ったリボーンのおかげで、僅かに残っている水溜りのしぶきを避けられたのだ。だが。

さすがリボーン君!と目を輝かせている京子を見て、綱吉はがっくりと肩を落とした。踏んだり蹴ったりだ。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ありがと」

「別に」

 

 

 

ふと、背に回されている手が気になって、京子は瞬いた。

手を引かれたままの綱吉はぶつぶつと何やら呟いていて、頭一つ分抜き出たリボーンは、まるで抱え込むようにして傍に立っている。

別に普通だろう。ましてや二人は、兄弟で双子なのだ。私は何をそんなに気にして―――――

 

「、」

 

つんと立った茶色の髪の中、僅かに顔を埋めて目を閉じたその顔。

京子は息を呑んだ。

恐らく気付いた彼はこちらを見、そして、僅かに目を細める。

 

「―――――、や、っぱり、今日は帰るね」

 

「えっ?」

「気をつけてね、じゃあ、また明日」

 

変に思われただろうか。でも足は止まってくれない。京子は混乱していた。

何なの、今の。

まるで、

 

 

 

 

 

親友の言葉が頭を過ぎる。

 

『なんだか薄ら寒い、たまに』

 

(信じて、良いんだよね)

 

あの時、付き合ってほしいと言われたあの言葉を、あの顔を、あの声を、必死で脳裏に反芻させていた。