遊園地に行こう!

目をキラキラさせながらそんなことを言われたものだから、勢いで頷いた後、(しまった!)と己の失態に気付いた。

「あっ、あの」

「やったああああ!マジで!?マジで!?」

「うあ」

「夢みてえ・・・・・・・何着てこう」

「あああああ・・・・・・・!」

 

やっぱやめよう、なんて、とてもじゃないけど言えない。

 

 

 

 

 

 

 

 

にこにこした親友(かどうかはここの所微妙だ)の隣に立ちながら、ぼんやりと入り口を眺めた。

ゲートの向こうにはきらびやかな世界がある。でっかい城も見える。おおきなネズミさんもどきも居る。

その向こうへと向かう人ごみはチラチラと綱吉の隣に視線を寄越し、時折「かっこいー」だの「かわいー」だの「誘ってみるー?」だの、黄色い声をあげているのが聞こえる。だがその声も遠い。

来るんじゃなかった。

だが、

「行こーぜ!!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

徐に手を引っつかみ、山本は歩き出す。

「ちょっ、手ぇ!?」

「最初は何乗る?」

聞いてない。振り返った満面の笑顔を見て、綱吉は切実に思った。

(帰りたい・・・・・・・・!)

 

 

 

ズッギュウウウウウウウン!!

「ぎゃああああああああああああああああああああ!!!」

「うっひょおおおおおおおお!!!」

 

びゅんんんんンンン・・・・・・・・!

「のひぃぃいいいいいいいいい!!!?」

「あああああああああああ!!!」

 

ランラランラランラランラ・・・・・・・!

「あのリス、ツナに似てね?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

 

 

「あー楽しかった」

「んん」

初めの憂鬱は消え、それなりに満足した綱吉。最初から絶叫系を選ぶあたりはさすが山本、と思ったものだ。

大体のアトラクションをめぐり、主人公のネズミさんともしっかり握手を交わし、写真も撮り、ワゴンのお菓子やチキンも食べ、最後にはイルミネーションパレードも見ている、という、何とも充実した一日。

何だかなあ、と複雑な心境である。山本と来るのは別に嫌じゃない、ただ、今の状況下、二人っきりで来る、というシチュエーションがまずいのだ。

ライトアップされた美しいお城を眺めていると、手に温もりを感じた。

「!」

「大丈夫、暗くて見えねーって」

(そんな問題じゃ・・・・・・・!)

暗い中イルミネーションに染められながらも、綱吉の耳が赤くなっているのを見て、山本はくすりと笑った。

指を絡め強く握ると、小さな肩がぶるりと揺れた。

 

 

 

 

 

「今日はありがとう」

「おお」

「しかも、わざわざ家まで・・・・・・・・」

「物騒だからな、最近は。最後まできっちりエスコートしなきゃ」

男に言う台詞じゃない。

告白を受けてから、綱吉に対しての山本の態度はちょっとずつ変わってきている。

転びかけた体を支えた後、「大丈夫かー」といいながら大らかに笑って頭を撫でられてたのが、頬に手を添えて「よかった」と言うオプションつきになったり。

屋上で昼飯を食べ終わって、下らない話をしてひとしきり笑った後、ちょん、と肘がついたのをきっかけに、手を握られたり。

そのたびに体を強張らせて、それでも拒否できない綱吉。

正直、嫌だと言いたかった。いくら親友とはいえ、男同士なのだ。僅かに過度だと思っていた友人としてのスキンシップも、告白の後ではそういう目でしか見れない。その度に鳥肌を立ててしまう。

けれど、相手は『山本武』。嫌悪感も吹き飛ばしてしまうほどの、大らかでマイペースで、笑顔が最強な男。

絆されてしまう。

 

(まずいぞ、これは)

 

「ツナ」

 

ゆっくりと伸びてくる腕を、綱吉は避けることが出来ない。

そっと唇に触れられた指。さらりと撫でられ、全身が熱くなる。それでもやっぱり肌は粟立つ。

 

だんだんと山本の顔がぼやけて、それが恐ろしくて、思わず目を瞑った。

 

 

 

 

 

ガゴンッ!

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

(見てたのか、お前・・・・・・・)

 

でもありがとう。サンキュー。助かった。

綱吉にとってそれはまさに、救世主の出現だった。

 

 

山本がゆっくりと肩から手をはずしていくのに、ほっと息をつく。

たった今家の中から出てきた弟は、蹴破ったドアがバィン・・・と跳ね返ってくるのを足で押さえ(お行儀が悪い)、いつかの日みたいに仁王立ちで立っていた。

逆光で顔は見えない。でも見えなくてよかった、と綱吉は思った。だってどんな顔すればいいのかわからない。

「じゃ、帰るな」

頭を撫でられた瞬間、空気が濃くなった、気がした。

山本はリボーンにも「じゃあなー」と明るく言って背を向けた。

自分に送られる視線に気付く事無く、綱吉は、遠ざかる背をぼんやりと見ていた。

 

 

 

 

 

「間一髪だった・・・・・・」

家の中に入ろうとしたら、目の前で扉を閉められた。ガン!と響いた音に隣んちのペスが反応してギャンギャン吠え出した。

「し、しーっ!」

ペスは厄介だ、このブルドッグは誰にでも愛想が悪い。隣のおばちゃんとリボーン以外には。なぜアイツにだけ懐くんだろう、もの凄く理不尽さを感じる。寒空の下、実の兄貴を放り出すような冷酷非道な男なのに。

逃げるように家の中に駆け込んで「ただいまー!」と叫ぶと、キッチンから「お帰りー」とのんびりした母の声が聞こえた。

「ツナ、ご飯は?」

「食べてきた、マック!」

「もっと栄養あるの食べなさいよ」

「風呂入ってくんね」

奈々はファーストフードが嫌いらしい。いや、ファーストフードを息子たちが食べる事が嫌いらしい。

早々に会話を切り上げ、風呂場へと向かう。早くすっきりしたかった。

頭が重い。

何なんだろう、この、罪悪感めいた感情は。

 

 

 

リボーンの部屋の前に立つ。

ノックしようと手をかざし、僅かに躊躇う。綱吉は足を竦ませていた。

何だか、嫌な予感がする。入らない方がいいのかもしれない。

(でも、さっきのお礼もしなきゃ)

意を決して、ドアを叩いた。

「リボーン」

 

 

部屋の中は何だか寒くて、思わず軽く肩を抱いた。そんな綱吉をちらりと見て、リボーンは手元の雑誌を再び捲る。

「えーっと、さっきはありがとう」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・あのー、聞いてる?」

「・・・・・・・・・・・・・ああ」

返事が来たことに少しほっとして、綱吉は喋り始めた。

「遊園地とか久しぶり過ぎて、すんげーはしゃいじゃったよ」

「・・・・・・・・・・・・・」

「あそこのさ、リボーンが好きなアトラクションあるだろ。あれ山本も好きでさー、オレ死ぬかと思った」

「・・・・・・・・・・・・・」

「今度、皆で行こうよ。久しぶりにランボたちも誘ってさ」

「うぜー」

「相変わらずだな、お前も・・・」

 

 

ふ、と沈黙が落ちる。

綱吉は所在無げに立ち尽くした。リボーンの様子がおかしい。

怒っているのかと思ったのだが、それにしては感情が読めない。いつもは、綱吉にはあからさまにわかる程感情をむき出すのだ。

ただ、その中に若干の拒絶を感じ取り、僅かに傷ついた。

理由がわからない。だから、理不尽だと思う苛立ちは余計に溜まってゆく。

(何なんだよ)

落ち着け、綱吉、オレは兄貴だ、こう見えてもお兄ちゃんだ、どんなに弟の方が容姿端麗で頭脳明晰でモテてそのせいでダイヤとカス的に比べられていても、オレはお兄ちゃん、何だか哀しくなってきた・・・と思いながら、

「じゃ、もう寝るから」

一歩ずつ、歩み寄って、

「・・・・・・・・・・・・・・・」

布団に手をかけ、

「風邪引くから、ちゃんと被れよ」

被せようとして、

 

肩に手が触れた。

 

 

「―――――ッ!?」

 

 

 

いきなり視界が反転。

 

 

一瞬後に理解できた。

全身に受けた衝撃と、半身を覆う柔らかな感触と、おかしな方向に曲がった腕。

「ちょっ、」

布団越しに捻られた腕はめっちゃくちゃ、痛い。

お前何すんだ!と非難しようと振り向いて、見上げた先の顔を見て、綱吉は固まった。

 

 

「えっ、」

 

「俺に触るな」

 

 

 

 

 

 

ざくんっ。

 

 

 

 

確実に裂かれた心臓を抑えながら、呆然と彼を見る。

リボーンは無表情だった。

けれど、その目が、

 

嫌悪に満ちた色で、

 

己を否定していた。

 

 

 

(リボーン、)