海外ファミリーとの大抗争にでっかいケリの一発を落とし、くたくたになって私邸に帰り、柔らかいベッドにうずもれる感触を思い出しながら自室のドアを開けた途端。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はっ?」

家庭教師の真剣な顔にぶち当たり、思わず呆気にとられてしまった。

それは正に久しぶりの再会であったのだ。ちょうど、十年来の。

 

 

「遅せーぞ」

「なんだそれ!?」

激昂する綱吉に、リボーンは気だるい視線を向ける。綱吉はさらにムカッとした。

「何なんだいきなりキレて」

「何なんだ、じゃねェェ!何普通に会話しよーとしてんだテメェ!お、お前、何かオレに言うことないの!?」

「・・・・・・・・・・・・」

「考え込むな!いきなり姿消しといて散々人に心配掛けやがって!ファミリーの総力挙げてもお前の足取り掴めなかったんだぞ!?」

「俺は一流のヒットマンだからな」

「いばるなァァァ!!!お前は常識というものを知れ!『悪かった』とか『久しぶりだな』とか『元気にしてたか』とかあるだろ普通!」

「元気にしてたか?」

「うわ腹立つ!」

なんだコイツぅぅ!と頭を掻き毟るボンゴレ十代目。最強のヒットマンはぼーっとしながらそれを眺めていた。

「気が済んだか」

「ぜんぜん」

一通り掻き毟った後、憮然としながらもソファに腰を下ろす。夢を見ているような気がした。

これは現実か。

綱吉は目の前の男を睨みつけた。

リボーンは一瞬目を開き、ふい、と逸らす。

「・・・・・・・・・・・・そんなに見つめるな」

「――――――――――――!!!!??」

どうしよう。綱吉は青褪めた。

あのリボーンが、何だかオカシクなってる。妙に大人しい。目の前の頬を染める男は本物のリボーンだろうか。あの家庭教師なのだろうか。

 

久しぶり感もあまり醸し出さない雰囲気のなか、綱吉は自分が一仕事終えたばかりだという事実に気付いた。

「あの、リボーンさん」

「何だ」

「オレさっき帰って来たばかりなんですよ、だからもう寝たいんだけど」

「テメー、久しぶりの俺を無視して一人寝ようってのか。一人寂しくにゃんにゃんか。良い度胸してんじゃねーか」

「何そのにゃんにゃんて!?普通に寝たいだけだっつーの!ベッドからどけコノヤロー!」

不遜な態度に業を煮やした綱吉は、リボーンの肩を押した。ベッドに倒れる様を努めて冷徹な目で見下ろす。

「ほら、どけよ。寝るんだから」

「・・・・・・・・ツナは大胆だな。そんなに一緒に寝たいなら寝ようじゃねーか」

「ハッ!?」

「さあ来い。俺の胸はいつでもお前専用だ」

「おおおおおおおお」

「何だどうした。そんなにどもって。そんなに嬉しいのかそうか」

「お前、どっか打った?拾い食いした?可哀想な卵食べた?」

「お前何意味不明なこと言ってんだ」

「どうしようどうしようどうしよーーーー!!・・・・・・・・・・・ととととりあえず山本に電話」

取り出した携帯電話は、瞬時に宙に叩き出された。

「ちょっ何してんのォォ!?新調したばっかなんだけど!?」

「他の男の名前を出すな」

「偉そうにオカシなこと抜かしてんじゃねえぇ!な、もうお前どーしたの?ほんと、どーしちゃったの!?骸の陰謀か?XANXUSか!?最悪のコラボレーションだろーがァァ!!」

「ツナ、落ち着け」

お前のせいだよ!

 

と言いたかったが、急激に疲れが押し寄せ、綱吉はベッドの上――――に居るリボーンの上に倒れこんだ。

 

「おい」

「うっせ」

「起きろ」

「黙れクソガキ」

「犯すぞ」

「じょうとうだこのやろー・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

怒りよりも諦めが勝っていた。

久しぶりの再会によって込み上げてきた、泣きたくなるような、大声を出して必死に隠したくなるような、安堵感と共に包まれて。

(  くそ、 リボーンの、 においがする )

 

ぜったい、泣かねえ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「どーすっかな」

天井を見上げながら、ぽつりと呟く。リボーンは溜め息をついた。

胸の上に乗っかっている沢田綱吉はすやすやと寝息を立て始めた。少し重い。それでも、動かそうとは思わない自分。

教え子は久しぶりだと言った。こちらからしてみればそうでもない。こっそりと、何度も陰から見ていた。ストーカーと言う無かれ。そこは曖昧な境界線である。

けれど。

直接目をみて、直接会話をして、直接触れるのは。

何度も夢見て、叶わなかった現実が今、目の前にある。

胸元の、中途半端な長さの髪を弄りながら、リボーンは再び溜息をついた。

 

 

十年前、姿を消した時。

もう自分はいらない、と思ったのだ。教え子の周りには一緒に成長できる素晴らしい仲間たち。教えることは全て教えた。

自分の必要性を感じなかった。

 

違和感を感じたのは姿を消した翌朝だった。

あの間抜けな顔が見えない。あの情けない声が聞こえない。あの頼りない温もりが感じられない。

あいつが居ない。

 

気がついたら一週間経っていた。適当に取ったホテルの一室から一歩も出ていないことに気付いた。

この、俺が。指一本さえ、動かすことが出来ないなんて。

 

何たることだ。

 

 

 

 

 

「どーすっかな」

返事は無い。んごっ、といびきが聞こえる。ムードのかけらもない自分たちに少しだけ笑えた。いや、これこそ俺たちではないか。

十年間。

自分が結論を出すにしては、とても長すぎる期間だ。馬鹿みたいに、それこそ馬鹿みたいに考えた。

考えて考えて考えて、考えて。

今日やっと足を向けることが出来た。やってしまえば、こんなにも簡単で。

とても勇気のいることであった。終わってしまえば、残っているのはじわりと広がる、切なさ、静かな感動。

悩みに悩んだ末の結論を、明日存分に聞かせてやろうではないか。耳元で、囁いて、しっかりと捕まえて。

胸元から涙のにおいがした。思わず破顔。

取り合えず十年分の溝を埋めておこう、と思い、頭にひとつ。

そっと、キスを落とした。