可愛いものは好きだ。それがおバカな餌をおびき寄せるための手段だとしても、どんなに中身がスーパーブラックホールでも、見た目が可愛いとどんな人間だって騙される。

だって、人間なんだものォォ!

 

 

なので、沢田綱吉はうろたえていた。

自室のベッドを傲岸不遜も逃げるような態度でちゃっかり占領して熟睡していらっしゃる、ハイパーな家庭教師を目にして。

忘れていた。この地球外生命体的な赤ん坊は、忘れていたが赤ん坊なのだ。『一人で出来るもん』的でも赤ん坊なのだ。

目をカッチリと開いて鼻ちょうちんを膨らます様は少しばかりSFチックではあるが、綱吉はやわらかそーな白いほっぺに釘付けになっていた。

可愛い。いや可愛いてオレ。

慌てて思考を否定するも、その大福を思わせる色や柔らかなフォルムは思わず『あーよちよちいーこでちゅねーどーちたんでちゅかー』とか口走っちゃいそうなアレだ(普段のコイツを忘却してしまえば)。ウチの父親を彷彿とさせる。変態だオレ。

ここで綱吉は、視線を少し移動させた。させた後、更なる衝撃に白目を剥いた。

(――――――――!!!ゆ、ゆ、)

赤ん坊の指の魔力がこんなにも強いものだとは…!

そのちっちゃな、ちっちゃーなて、いや、おてて、そう、おてて。言っちまった。もうだめ。どーにでもして。

 

何だか危なげな雰囲気になってきた綱吉は、ここで普段は滅多に見せない勇気の片鱗を出そうとちょっと決意してみた。

触ることが出来ない、この赤ちゃん(あっ赤ちゃんって言っちまった、あの『リボーン』に赤ちゃんって言っちまった)に思い切って、触ってみよう。

 

恐る恐る、人差し指を伸ばしてみる。チラリと顔を見る。リボーンは起きない。

コイツ、こんなに熟睡するヤツだっけ。オレの前で。

オレの、前、だから?

震え始めた人差し指が、ついに目的地点に到達した。ちっちゃい、小指に。

 

寝息が止まる。

 

綱吉の心臓も止まった。

そのままの姿勢で赤ん坊の顔をガン見するも、30秒くらい経っても何も起こらなかったので、静かに息を吐いた。

(何なんだ、このミッション)

更に、恐々と指を進めてゆく。手のひらに触れる。柔らかい感覚。全神経が、手の先に集中している。

そして、

 

きゅ、

と、指を軽く握り締められたとき、

 

綱吉は、あ、オレ今死んだ、と、脳みそのどこかで呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ってこともあったなあ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・十代目、勇者ですね」

「うん、あの頃のオレ、若かったから」

若気の至りって怖えーね!と笑いながら、ボンゴレ十代目は机に肘をついて頬っぺたに手を当てていた。乙女がよくポージングをキメるあの要領で。

似合ってしまうのがさすがだと妙な感心をしながら、獄寺は尋ねる。

「その後どうなさったんですか?」

「怖くなって逃げた」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「あー、可愛かったよなー」

「何が?」

「や、あのもみじのようなおててがさあ、こうさあ、何とも」

「へー」

「もうだめ、オレあん時死んだ。あいつが可愛いって思えたのは後にも先にもあの時だけ」

「ほー」

「だからさー、逆に今はちょっときついってゆーか、小生意気さが増すばかりで・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、・・・・・・・・」

段々と顔色を失ってゆく綱吉を見て、獄寺は同じく顔色を失いながら叫んだ。

「わあ、十代目!そのグラデーション技お見事です!」

「君もだよ!」

同じく叫びながら体を横に翻すも、華麗な足技によりそれは断念された。

「ぐふぼっ!」

「へーそんなことがあったんだー、僕ちん全然知らなかったあー、気安くさわんじゃねーよこの駄目糞童顔タンコブ優男」

「なんで!可愛いもんは可愛い!オレのどこが悪い!」

頭を擦りながら開き直った綱吉に、唐突に出現したリボーンはカッと目を見開いて叫び返した。

「テメー可愛い可愛い連呼すんじゃねェェ!今夜から毎晩ベビードール着て夜這いしてやろーか!?」

「何その不穏な単語の数々!嫌がらせ以外の何者でもねーよ!」

「うっせーこのショタ男!テメーは一生いたいけな新生児の写真でも見てハアハアしてろ!」

「なんだとコノヤロー!そのショタ男にお熱な十六歳はどこのどなたさんでしょうかねえ!」

「はああ?頭に虫でも湧いてんじゃねーか?ホウ酸ダンゴ作ってやろーか?手作りだぜ?殺傷力250%だぜ?」

「こないだもいきなり『腰揉んでやろーか?』とか抜かしやがった上に散々辱めやがって!あの後大事な商談に車椅子で行く嵌めになったんだぞ!」

「おい聞けショタ虫男」

「大体お前はいつも・・・・・・・・!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!」

 

 

(あれっ、これって、痴話げんか?)

 

マフィア界のツートップとも言える男たちの下らない、しかもよくわからない叫びを耳に入れながら、獄寺は何だか切なくなって眩しい太陽を見あげた。