登場人物 (高校生設定)

沢田 綱吉 : あだ名にダメがつくほどのアレな感じだが、一部の美形に異様にモテる等、ヒロイン的な性質も持つ。リボーンが好き。

リボーン : イタリア生まれの帰国子女。その名は並盛では雲雀恭弥と肩を並べるくらい知れ渡っている。モミアゲがぐるぐる。

雲雀恭弥 : 並盛高校の風紀委員長。並盛町の長。リボーンをライバル視。たまに台詞がかわいい。

獄寺隼人 : イタリア生まれの帰国子女。綱吉のクラスメイト。綱吉に一目惚れ、でも未だに声をかけることも出来ないシャイボーイ。山本に対して八つ当たり的な恨みを持つ。ストーカー予備軍。

山本武 : 綱吉のクラスメイト。屈託の無さと大らかな人柄で男女問わず人気を得、綱吉とも仲が良い。何かと綱吉を構っているので獄寺から恨まれているが、本人気付かず。さり気ないボディタッチが多く、その技量は一部から崇められている。

 

 

 

 

沢田綱吉はめったに見せることの無い引き締まった顔で、玄関の戸を閉めた。朝日が眩しい。清々しい空気と小鳥の声が、心を高揚させた。綱吉は拳を固めた。

(今日こそ、・・・・・・リボーンに告白するぞ―――――――!)

何ともアレな決意表明を胸の内で固め、鞄の中に収まっているピンクのラッピング(母親セレクト)を確かめて、鼻息も荒く歩き出した。
本日は2月14日。バレンタイン・デイ。

 

綱吉がリボーンに出会ったのは、入学式。桜吹雪の中でのロマンティックなものだった、少なくとも周りのシチュエーションは。
友達が居ない綱吉が一人、桜の木の陰で蹲っていると、上からリボーンが飛び降りてきたのだ。綱吉の真上に。
頭に靴跡をつけて地面にめり込んだ綱吉を見て、リボーンが思わず吹き出した。その笑顔に、綱吉はガガンと衝撃を受けた。

(こんなに綺麗に笑うひと、初めて見た)

桜吹雪がごうっと舞う幻想的な雰囲気の中、綱吉は恋に落ちた。


それ以降、ちょくちょくリボーンを見かけるようになった綱吉は、自分の中でもの凄い葛藤をぐるんぐるんと渦巻かせていた。

(オレって、ホモ?)
だが、中学校の時好きだった京子ちゃんの時よりも、動悸は激しいものであり。
寝ても冷めてもあの笑顔が出てくる。やばい。
起きて下着が濡れているのを見た朝は、本気で落ち込んだ。
だが、綱吉は元来深く考えない性質だったし、もう悩むのがめんどくさくなった。
(認めてしまえ。オレは、あの人が好きだ!)

その後は綱吉にしては積極的に動いた。
リボーンのクラスを調べて、時間割を覚えて(自分のクラスのは今だに覚えていない)、何気なく教室の前を通ったりなど、健気に努力を続けてきた。

しかし、言葉は一度も交わしていない。目すら合ってない。ただ、遠くから見てるだけ。
遠くから見るリボーンは無表情が多く、笑顔は何となくうさんくさげなニヒル笑い。かっこよく見えるのは末期症状だなと思った。
女の子に取り囲まれるのも一週間に五日の割合で見ており(つまり学校がある日全部)、女の子にはある程度丁寧に対応している姿を見て(さすが!)と溜息をついたり、その女の子がうらやましいと何度も思った。
ホモなんて、テレビの中だけ、だと思ってた。こんなに辛い思いをするなんて。
一年近く悩みに悩んだ挙句、結論に至った。

(力いっぱい告白して、思いっきり玉砕しよう・・・!)
意を決して母親にカミングアウトすると、なぜか嬉々として協力してくれた。生まれて初めて母の偉大さを実感した綱吉だった。

 

(・・・風紀って、チョコとかの取り締まりもするんだろうか)
綱吉の懸念は当たっていた。
校門にはリーゼント集団が腕を組んで仁王立ち、よりによって最強の委員長までいる。
何度か遅刻してお世話になっており、既に顔見知りも何人か居るが、だからといって通してはくれないかもしれない。いや無理だな。
綱吉は青くなりながら、挙動不審に近付いた。
(来るな、来るな、来るな)

「ねえ、君」
「―――ハ、ハイィィィ!」

目の前には風紀委員長、雲雀恭弥。何かと声をかけて来てはボコボコにして去っていく、綱吉にとっては理解し難い人物。
鋭い目を光らせながら、雲雀は綱吉を睨んだ。
目の前に手を突き出され、思わず「ひっ」と目を瞑る。

何も、起きない。
恐る恐る目を開けると、雲雀は気難しい顔で手のひらを見せたまま、「ん」と言った。
「・・・・・ン?」
「ん!」
再度手のひらを突き出される。何だこの子供みたいなの。

何か強請るような仕草と、本日のイベントが、脳内でカチリと組み合わさって、綱吉は頭が真っ白になった。
もしや、この人は。
・・・・・・・・・・・・・・欲しいのか?

確か予備を何個か作ったはず、と思いながら、鞄をごそごそとあさぐった。透明なセロハンに包まれた、丸いいびつなチョコ。
「ど、どうぞ・・・?」
「通ってよし」
満足そうな顔で受け取った雲雀を恐々と伺い見ながら、すたこらと駆け出した。

 

教室に入ると、数少ない友人の一人が声をかけてきた。
「よー、おはよー!」
「おはよー。山本、顔がみえない・・・」
「あはは、みんな優しーよなー」
机の上に積まれている色とりどりの箱やら袋やらを見て、綱吉は崩れ落ちないかとハラハラした。
クラスの人気者は学年でも人気者だ。
「なー、ツナもらった?」
「や、オレは全然!」
むしろあげる方です。
とは言えず、呑みこむ。
山本は何か言いたそうにあーとかうーとか唸っていたが、意を決したように顔をキリリと締まらせた。

「ツナからも欲しいかも」
「まだ食べるの!?てか食べれるの!?」
「おお、俺大食いだから!」
あははと笑った笑顔が眩しい。チョコ好きなんだなあ覚えとこうと思いながら、鞄の中からセロハンの袋を取り出した。
「んん、どーぞ」
「えっ!」
ガダン、といきなり立ち上がったせいで、机の上のチョコがバサアーっと散らばった。
「や、やまもと!」
「マジで、くれるん?」
「え、うん、全然あげるけど、てかチョコ」
「サンキュー!」
いやあ言ってみるもんだなあと言いながらガバッと抱きついてくる人気者をいなしながら、大量のチョコが誰かに踏んづけられないだろうかとハラハラした。
(オレなんかのチョコでこんなに喜んでくれるなんて、いいやつだなあ)

(リボーンは、喜んでくれるだろうか)

「山本ォォォ!!!」
銀色ヘッドのモデル顔男がめっさ険しい顔で近付いてきて、綱吉は恐怖のあまり腰を抜かした。山本に凭れ掛かる形になる。
ソレを見て更に獄寺が眉間に皺を寄せてギンッと山本を睨む悪循環の切なさよ。
「ははは獄寺今日も元気だなあー!!」
キラッキラと光を飛ばして笑顔を振りまく山本に、獄寺は怒鳴り声で返した。
「テメー何もらってんだよしかも沢田さんからこのクソやろう!」
「ご、ご、ご、」
綱吉を見て獄寺は固まった。目が合う。顔がトマト色になるのを綱吉は固まりながら見ていた。
大抵目が合ったときは、眉間に皺を寄せているか顔が湯だっているかどっちかだ。しかも無言。嫌われているのだろうか。
「獄寺君も、チョ、コ!どーぞ!」
「え」
咄嗟の綱吉の判断は功を奏した。獄寺は静かになった。倒れたから。
「・・・・・・・・どうしよう」
「ほっとけほっとけ、そのうち起きんだろ」
綱吉は哀れみの目でそっとセロハンの袋を顔の上に置いた。
床に飛び散っている赤い液体は、見なかったことにした。

 

 

リボーンが見付からない。
休み時間ごとにこまめに教室を覗いてるのに、一向に姿が見えない。
小耳に挟んだ情報(リボーン親衛隊より)によると、どうやら面倒を避けるため授業をサボっているらしい。
綱吉は頭に岩が落ちたかの如くショックを受けた。どうしよう。渡せない。せっかく、決心したのに・・・!
あっという間に放課後を迎え、落胆した綱吉の頭を山本がニコニコ顔で撫でていると、男子生徒が飛び込んできた。
「風紀委員長がリボーンにまた決闘を申し込んだらしいぜ!」
「マジで!!」
綱吉の声が教室中に響いて、周りの生徒は驚いて注目した。何かダメツナが生き生きしてる。
「場所は!?」
「え、体育館裏の桜の木の下・・・」
「サンキュ!」
教室を飛び出す。手には桜色の箱。
後ろからツナァ!と聞こえた気がしたが、足は止まらなかった。

リボーン。リボーン。

あの笑顔が、体中を支配していた。

 

 

「今日こそ相手してもらうよ」
「無駄な体力は使いたくねーぞ」
十分な距離をとって、男と男が対峙。
両方ともあまりにも有名な御仁たちだ。
遠巻きに見詰める生徒たちの様子といえば、この世の終わりのような恐ろしげな表情と「リボーン様、ステキ・・・!」「恭弥先輩の方がカッコいいに決まってるじゃない!」といった第二の戦争で埋め尽くされていた。

「行くよ」

愛用のトンファーをチャキッと構え、雲雀恭弥が地を蹴った。

その時!

「ちょォォォッと待ったァァァ――――!!」

何やらちんたらと駆け寄ってくる人間、一人。
雲雀はチラリと視線を走らせ、僅かに目を見開いた。
だが人間、咄嗟に止めようと思っても止まれるものではなく、しかも雲雀の場合は勝手に体が動いてしまう。

いつもの癖で排除するかのように、雲雀の前に両手を広げて止めに入った綱吉を、雲雀は思い切り殴り飛ばしてしまった。

ズゴシッ!!

「ギャアアアアァァァ・・・!!」

「・・・・・・・・・・・」

ズザザザザと痛々しい音を立てながら、綱吉は反対側のリボーンのところまで吹っ飛んだ。
朦朧とする意識の中、綱吉は手に持ったチョコの箱を見た。ボロボロだった。

「おい、お前」

ああ。
あの人の声だ。

色んな意味で震える手を掲げ、綱吉はチョコを差し出した。

「こ、れを」

手元から箱の重みがなくなったのを確かめ、綱吉はホッと安心した。
よかった、受け取ってくれた。
脳裏に浮かんだあの笑顔。
綱吉は頬を緩ませながら、白目を剥いて意識を飛ばした。

 

リボーンは足元で倒れた男を見た。
この茶色の髪は、どこかで見た記憶がある。茶色、後ろ頭。
ボロボロになったピンクの箱を開ける。
中から出てきたのは、見事に真ん中から割れたハートのチョコレートだった。
「・・・・・・・・ギャグか?」
ひとかけら、口に入れる。バリンと大きな音を立てて、ほろ苦い味が口の中に広がった。
もぐ、もぐと噛み締め、一通り食べ終えると、箱をぐしゃりと丸めて足元の男の上にぽいと捨てた。
「うーん、30点だな」
なぜか立ち尽くしている雲雀をもの珍しげな目で見て、リボーンはくるりと踵を返した。

「また今度遊んでやるぞ」

フェンスを優雅に飛び越えて去っていった姿を、何人もの女子生徒が溜息をついて見送った。

 

雲雀恭弥は苦々しげな表情で沢田綱吉に近付いた。
白目を剥きながらも気持ち悪い笑顔の男は、未だ目を覚ます気配は無い。
「とりあえず、コレ応接室に運んどいて」
近くに居た風紀委員に告げ、こちらもくるりと踵を返し校舎に向かって歩き出す。
風紀委員は哀れんだ目で倒れている茶色頭を見つめた。