(・・・・・・・・・・・・・・・・・)

ガスッだのゴスッだの不穏な音が扉の向こうから聞こえる。

けれど綱吉は指一本すら動かす気が無かった。いや、動かせなかった。

(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・動けねぇ)

はらへった。

天井をながめ、シミをみながら、ただ寝転がっているオレ。昨日食べたパン、あれが最後の食料。次振り込まれるのいつだっけ、三日後。金。金がほしい。ていうかはらへった。今日何日だっけ。あ、金曜か。講義はなかったな。一日アルバイト、なんかないかな。はらへった。あ、冷蔵庫にじゃがいもあったような。じゃがいも。あったっけ。はらへった。こないだ誰かからもらったアメが確かコートのポケットに。あ、そういえば食ったんだ。ていうか洗濯しなきゃ。はらへった。ドンドン。うるせえ、何がドンドンだよ。こっちははらへりすぎて体うごかねーんだよ。「沢田さーん」昨日食べたパンっつっても百円クリームパンの半分しかなかったっつーの。「さーわーだ」財布にいくらあったっけ。たしか、さんびゃくろくじゅう「無視してんじゃねえ!」

ドガッ!

という荒々しい音と共に入ってきた男は、部屋の真ん中で仰向けに倒れている青年――沢田綱吉を見て固まった。

「・・・・・・・・・・・・何してんだ」

「・・・・・・・・・・・・・生きるということについて、真剣に考えていました」

「ああ?聞こえねーよ」

うるさい。はらへってんだよ、デカイ声なんて出るかよ。

言うのも面倒で、綱吉はとりあえずズボンの裾を掴んでみた。再び凄んでみせた男。生憎恐怖は空腹に勝つことはなかった。

盛大に響く腹の音が物悲しい。

じとっ、っとした目で見やると、コロネロの顔が段々歪んできた。

「・・・・・・・・・その、顔やめろ。腹立つ」

「ぐボッ!は、腹は反則・・・・・・・胃が・・・・・・あっ・・・・・・ダイナマイト・・・・・!」

「ダークアウトだ」

妙な声出すんじゃねえ、と舌打ちし、男は踵を返した。

 

(えっ、帰っちゃうの)

 

拍子抜けだ。

 

 

 

(・・・・・・・まあ、普通そうだよな)

(金貸しだし、取立てる相手のことなんて、一々、)

(・・・・・・・・・・・・・・前はカフェ、連れてってくれたのに)

(うまかったな、あのパフェ・・・・・・・・アンド、ケーキ三種セット)

 

(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

ぐすっ、と洟を啜る音。

 

(あれ、誰だセンチメンタルジャーニーに泣いて、え、泣いてる?えっまさかオレ?いや無い無い無い)と思った瞬間と同時にオンボロ扉は開けられた。

ズガスッ!

「おら、買ってきてやったぜ!糞ったれ、なんで俺がわざわざコンビニまで」

「ブノォォォォォッッ!!!」

「へ、おい、コラッ」

 

 

いや寂しかったとかでは決してない。有り得ない。純粋に、人間の三大欲求に従った結果である。

だから、オレががっちりとした男に必死になってしがみ付いているのも、死にそうなくらい腹が減っているからだ。それだけ。号泣とかしてない。