三度目だ。



ぼんやりと思ったオレの呆然と顔を、男は一瞥した。
感情だとかいう色は一切見せない瞳で。


「行くぞ」

それだけ言い捨て、男は踵を返し、さっさとその場を後にする。
親戚の人間が何が起こったのかわからないといったポカンとした顔で男の背を眺めているのをいいことに、オレは立ち上がり、慌ててお辞儀をした。

「ツナくん!」

外に出たところで、後ろからの哀しげな呼び声に思わず振り向く。母親によく似た幼い顔が複雑な表情を浮かべている。叔母だ。亡き母の、妹。
何と言っていいかわからなかった。
ただ、ほんの少しのやせ我慢として、少しだけ笑って見せた。

(大丈夫。たぶん)














その男がオレの目の前に現れたのは、三度目だった。

初めは確か、五つの誕生日の日で。

二度目はあのクソ親父が死んだとき。


そして、三度目。

母さんがこの世から居なくなって二日目のことだった。










「ここがお前の部屋だ」

通された一室は簡素だった。ベッドが一つ、クロゼットは備え付けのものだ。それ以外は何も無い。
この場所だけ異空間みたいだ。
それが逆に、ありがたかった。まだ母親が亡くなったとは到底信じられない。現実が目の前に突きつけられるにしても、もう少しだけ猶予があっても良いと思う。

部屋に鞄を置いてリビングへと戻る。広い。ここにこの男が住んでいるのか、と考えて、何だか落ち着かなくなった。

「おい」

びくり、と震える。

男はこちらを見ていた。目が合う。

咄嗟に俯いた。心臓の音がやけに響いている気がする。手に汗が滲んでいる、と気付いた。

「礼も言えねえのか」

呟きに、体が硬直した。全身が冷えていく。動悸は段々と速くなってゆく。
ボソリと礼を言うと、男はフンと鼻を鳴らした。


「俺は仕事がある。夕食は勝手にやっとけ。金は置いていく」
テーブルにポンと万札を置き、男は立ち上がり身支度を始めた。

ちょっと待て。まだ、聞いていない。なぜ引き取ったのかを。オレを。

「あ、」

「・・・・・・・・なんだ」

男は律儀に止まってくれた。但し、背を向けたままだ。
「・・・・・・あの、」
「言っとくが」
遮り、怜悧な声が胸を刺す。

「お前が高校を卒業するまでだ。それまでは一緒に暮らす。嫌でもな」


扉が閉まる音が響いて暫くの時間が経ってから、オレはずるりと床にへたり込んだ。
昔、最後に見た男の顔が、脳裏に浮かんで離れない。



胸に溜まった重い塊を少しでも吐き出すかのように、息を出した。
これからの日々を考えると、かなり気が重い。
だが、あの人が自分と暮らすことを少しでも考えてくれた、という事実に少しでも縋りたいと思った。