獄寺隼人と連絡が取れない。
電話しても繋がらないし、家に行ったが留守だった。
リボーンに聞いても何も返ってこなかった。
山本は励ましてくれるけど、オレは何だか落ち着かなかった。
いつも隣にいるのが当たり前、な存在なだけに、やっぱり何となく寂しく感じる。
のはそうなのだが、何となく、嫌な予感がした。
なんだろう?
何か、起こっているような。
「十代目」
「うわ!」
学校からの帰り道、いきなり背後に出現した男は獄寺隼人その人だった。
余りにも普通に話しかけられたため、オレは一瞬今までのことが夢だったのだろうか、と錯覚に陥った。
「長い間、不在にしててすいませんでした」
その台詞で、夢ではないのだと気付く。
「ご、獄寺君!大丈夫?!無事!?なんかあったの!??」
「いえ、十代目にご報告するような事ではありません」
その言い方にカチンときた。
「なんで!オレは君のこと、ずっと、心配だったのに!」
獄寺は目を丸くした後、柔らかく微笑んだ。
その笑顔が、初めて見たもので、まるで獄寺ではないようなものだったので、綱吉は黙ってしまった。
「少し、歩きませんか」
秋の風はもう十分に冷たい。
土手を元気よく駆け回る子供たちも、すこし肌寒そうだった。
日が少し地平線に懸かっていて、真っ赤に燃え上がっていた。
真っ赤。
綱吉が、その色を見て何か思い出しそうになったとき、獄寺が喋りだした。
「寒くないですか?」
「え、うん、大丈夫だよ」
綱吉は獄寺の顔を見た。夕陽に染められ、とても綺麗な色をしていた。
その綺麗な顔が、こちらを向いた。どきりと心臓が鳴る。
「十代目」
「はい」
思わず敬語になった。獄寺がくすりと笑う。
何だよ、その笑い方。獄寺君らしくないよ。
オレの知ってる獄寺君は、もっと短気で声が大きくて、すぐダイナマイト取り出して、全然大人気なくて、もっと
太陽みたいに笑う人だよ。
「オレ、十代目、沢田綱吉さんに会えて、ほんと幸せなんです」
「オレもだよ」
本当は、何でそんなこと言うの、と言いたかったけど、綱吉は思わず、自分もだと言った。
なぜか、そう言わないといけない気がした。
「十代目に会わなかったら、本当にダメなままで、温もりも知らずに生きていったんだと思います」
「何でそんなこと言うの」
今度は口に出した。
「本当に感謝してます」
獄寺は、ここで切って、綱吉に顔を近づけた。
綱吉は思わず目を閉じた。
また、くすりと笑い声が聞こえた。
唇に、何かが触れたように思った。
温かくて、柔らかい、何か。
「大好き、でした」
ありがとうございました。
「・・・・・・・獄寺君?」
目を開けると、 彼は消えていた。
「ごくでらくん」
何度呼んでも、返事が聞こえない。
「なんで」
頭が割れそうに痛い。だけど、気を失うわけにはいかない。
獄寺君を探さなくちゃ。
また、オレの前から消えてしまった。
彼は、
一体、どこに
綱吉は夕陽を見た。真っ赤な色、紅の色。赤。血。
(―――――――――――!)
綱吉は全て思い出した。
一ヶ月前、綱吉が車に轢かれそうになったこと。
それを庇って、獄寺が轢かれてしまったこと。
辺りが真っ赤に染まり、それを血の海のようだ、と思ったこと。
息が絶えそうな彼を泣きながら抱きしめて、彼が綱吉に微笑みかけたこと。
何か、最後に、オレに伝えようとしていたこと。
彼の最後の色が、あの綺麗な銀色ではなく、とてつもなく濁った、哀しい赤の色だったこと。
「ご、でら、く」
逝かないで、
綱吉はその場に崩れ落ちた。吐き気がした。嗚咽が喉から断続的に響く。
(オレは、こんなにも、彼に依存してた)
(なぜ、獄寺君が)
(オレのせいで)
(いやだ)
(ごくでらくん)
オレだって、君のこと、好きだったのに。
綱吉は手を硬く握り締めた。
血が出ていたが、痛みは感じなかったし、綱吉自身、感覚というものがあるようには感じていなかった。
思っていたのは、ただ、胸が裂けて死んでしまいそうだ、ということと、彼の人の笑顔ばかりだった。
助けて。誰か。
慟哭の叫び声が響き渡る。 すでに暗くなった土手には、綱吉以外、誰もいなかった。