昼休みの騒がしい教室の中、話し声や笑い声が飛び交っている。
窓側の一番後ろの位置は、全て見渡せられるところだ。
もうすぐ冬だというのに、この暖かい日差しは何なのだろうか。
ブレザーを脱ぎ腕をまくったままぼんやりと宙を見ながら、綱吉は思った。
(アレだ。天使がオレを呼んでいるのだぜ)
「ツナー、だいじょぶ?頭」


いきなり視界が山本いっぱいになり、綱吉はぱちりと瞬きをひとつした。
「・・・・・・・あれ」
「声に出てたぜ」
笑いながら、山本は前の席に座ってきた。
何となく、綱吉は窓の外を見た。
二階から見える景色はそれなりに遠くを眺めることが出来、この教室からはグラウンドの向こうにある何かの鉄塔まで見える。
「オレ、午後寝そう」
「あー、俺も。次なんだっけ」
「何だっけ・・・。世界史?」
「うげっ、最悪」
「あっ、数学だ」
「もっと最悪」

ぜってーわかんねーもん、とぼやきながら、山本は教室の中に顔を向けた。
普段山本を取り巻いている女の子たちが過敏に反応し、「きゃっ」と小さな悲鳴をあげたのが綱吉の耳にも届いた。


「なー、ツナってさー」
「んー」
「天使とか、信じてんの」
「・・・・・・あー、さっきの?」
「そう」
「や、別にそういうわけじゃ」
「ふーん」

山本の「ふーん」が嫌に耳に残り、綱吉は前を向いた。
端整な横顔が目の前にある。綱吉は思わず呟いた。
「かっこいー」
「は?」
いきなりこちらに顔を向けたので綱吉はちょっとだけビビったが、普通に返した。
「いや、かっこいーなーって」
「・・・・・・・誰が」
「山本武十七歳」
「・・・・・・・へー」

その反応はないんじゃないの。

「なんか最近、冷たくない?」
「気のせい気のせい」
言いながらも目を合わせない親友にちょっと苛立ったけれど、そういうのを見せたくないし、それほどの事じゃないのかも。
と言い聞かせ、綱吉はぽろっとこぼした。

「天使じゃなくて、悪魔なら知ってる」
「誰?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・リボーン」
「ハハッ!確かになー、小僧は容赦ねーよな」
「あと、ひ、のつく風紀委員長と、電波なパイナップルと、たまにG寺さんも」
「G寺!てか今日居なくね?いつもなら昼休みは絶対来るのに」
「あー、なんか里帰りだって」
「ふーん、大変だなあいつも」
感情が全く篭っていない声で山本は呑気に呟く。
「天使はなー、やっぱ」
「『京子ちゃん』?」
「ちょっ、山本、声デカいっ!」
「ハハハ、聞こえないって」
「めっちゃ恥ずかしっ!」
一生懸命に山本の口を押さえようとする綱吉の手を避けて、山本はその白い腕を掴んだ。
「俺は?」
「へっ」
「俺はどっち?天使?悪魔?」


いきなりの質問に、綱吉は戸惑った。

冗談めかしては聞こえるけれど、声は僅かに真剣味を帯びている、気がする。
真っ直ぐに見つめる山本の目が、僅かに揺れた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・えーと、」
「うん」
「・・・・・・・手ェ、はなして」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

なんだか不機嫌になった山本を横目で見ながら、綱吉は教室の方に顔を向けた。
途端、一人の女の子と目が合う。恐らく、先ほど悲鳴をあげた数人のうちの一人だろう。
彼女は綱吉と目が合った瞬間、何とも複雑な表情で顔ごと逸らした。

「・・・・・・・・いやいや、それは傷つくから」
「傷ついてんのは俺だっつの」

俯いて綱吉の腕で遊びながら、山本が拗ねたように言う。
うーん、何だかオレが悪いみたいになってるのはなんでだ。
綱吉は理不尽さを感じた。

(山本は、天使とか、悪魔とか、ピンとこないんだよなあ)

(どっちかっつったら)


「あ」
「・・・・・・・・・」
「わかった、アレだ、山本くん」

きょとん、とした山本を、掴まれていないもう片方の腕を上げ、綱吉は指差した。


「ヒーロー」

「・・・・・・・・ヒーロー?」

「ん、」

「山本は、オレの、ヒーロー」


綱吉は、ニカッと笑った。
言葉に出せば、まさにぴったりの表現だ、と納得し。
山本も喜んでくれるだろうと思いながら。


予想に反し、全く反応が返ってこないことに、綱吉はだんだんと眉を下げた。
ヒーローは無表情でこちらを見ている。
(・・・・・・・え、なんか、間違った?)


「・・・・・・・そっか、あんがとな」
「うん」

ゆっくりと優しく笑った顔に、綱吉はホッとした。
「てか、そろそろ放してって。くすぐったい」
「えー。やだ」
「やだ、っておい」
「ツナの腕、なんか気持ちいんだもん。すべすべしてる」

そういって、腕の内側に手を滑らせたとき、

「ふぁッ」

と、綱吉は声をあげた。

「もー、くすぐったいってば!」
綱吉が慌てて手を振り解き、「あー変な声出た」とぶつくさ呟いている。

固まった山本武、十七歳を残したままで。


そんなヒーローに気付く事無く、綱吉は再び自分の世界へと入っていった。



(あー、ヒーローって単語、お兄さんにも合うよなあ)
















G寺さんは都合良い感じで違うクラス設定です