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海岸で子供たちと戯れる綱吉を横目で見ながら、リボーンはポケットで鳴っている携帯に手をかけた。

「ちゃおッス」

何か話した後、ポケットに戻す。 そして、砂浜に歩み寄った。

「ツナ!」

子供たちがリボーンを振り返ったが、綱吉は顔を上げて声のする方を頼りにするのみだった。

彼らは目隠しで鬼ごっこをしていた。鬼は当然、綱吉だ。

「仕事が入った、行くぞ」

「えええ!まだ全然遊んでないのに・・・・・!」

「また来ればいい」

はあー、と長い溜息をつきながら、歩き出す。

目隠しを取ろうとしたら、砂に足を取られて転びそうになった。

「うわあ!」

だが、衝撃は来ない。体が大きな腕に支えられている。

取れかけた目隠しの隙間から覗き見たものは、相方の呆れ顔だった。

「お前な・・・・・」

「あはは」

乾いた笑いを浮かべる綱吉の両頬を、リボーンは片手でムニリと挟んだ。

「む!」

無表情で見詰めてくる目の前の男を、綱吉はどう対処していいのかわからなかった。

一瞬の沈黙のあと、リボーンは「間抜け顔」と呟いて手を放した。

綱吉は、戸惑いを隠せなかった。

 

前の事件がきっかけで一緒に仕事をするようになってから、多少は信頼を得ている自負はある。

今の仕事に誘ってきたのは、他ならぬリボーンからだったのだ。

ただ、ふとした時にリボーンが見せる壁があるような気がした。

それは大抵、彼が無表情に自分を見詰めている時であった。

その深い闇色の瞳に見つめられると、綱吉は落ち着かなくなる。

自分の思考を全て見透かされそうであり、また彼が何を考えているのかわからなくなるのだ。

その度に考えてしまう。

『彼は、自分のことをどう思っているのか』、と。

せっかく一緒に仕事している間柄なのだ。仕事の面でもそうだが、人として信頼関係を築いていきたい、と思っていた。

 

 

「あ、ちょっと待って!」

綱吉が子供たちのところへ駆け寄る。

「お兄ちゃん、行っちゃうの?」

「今度はいつ来るの?」

「また一緒に遊べる?」

子供たちの質問攻めに綱吉は後退さったが、しゃがんで子供たちと目線を合わせ、たどたどしいディベヒ語で返した。

「ああ、必ず来るよ。今度はもっと大きなお城をつくろうな」

砂浜につくられた小さなお城は、貝殻や花で飾られていた。

「じゃあ、またね!」

「ああ、また!」

笑顔で手を振り、リボーンの元へ駆け寄る。なぜか渋い顔の男に、思わず眉を顰めた。

「・・・・・・・どうしたの」

「別に」

くるりと踵を返して歩き出す。慌てて綱吉も後を追った。

「もしかして、混ざりたかったとか?」

「冗談はその間抜け面だけにしとけ」

横顔は素っ気無い。綱吉は口の中で溜息をついた。

こんな時も、壁を感じるなあ。

 

 

 

イタリアへ渡ってから、綱吉は仕事の合間、相方から猛特訓を受けていた。

武術・体術や語学、多岐に渡る分野の知識、その他各界の細かな裏事情からなぜか花嫁修業まで全て教わった。

初めの頃は「騙された!」と悲鳴を上げながらすぐに倒れていた綱吉だったが、慣れとは恐ろしいもので、今では特訓の後にも

何とか軽口を叩ける余裕は出来ていた。

リボーンに言わせれば『まだまだの段階』だそうだが。

 

 

 

 

綱吉は、飛行機の中で一人落ち込んでいた。

先ほどの男に言われた『坊や』が思いのほかショックだった。

(この格好がいけないのかなあ)

自前のシャツとジーンズだったら目立たないかと思ったのに。

隣で優雅にエスプレッソを飲んでいたリボーンが、次の仕事の説明を始めた。

「さっき捕まえた男が入っていたファミリーは、向こうで全滅したそうだ。特殊部隊が潰したらしい」

「そっか」

綱吉は複雑な心境だった。

犯罪結社は許せないが、人が死ぬ事実をどう受け止めていいのかわからなかった。

「ただ、別ルートで逃げたやつが他にもいたらしい。そいつが、例の物を持っている、との情報を得た」

「!」

「ああ、あの薬だ」

リボーンは苦々しげに呟く。

 

モルディブまで逃げた男がケース一杯に入れていたものは、その男のファミリー内で新たに開発された覚醒剤だった。

体内でもより検出されにくくなっており、だが効果はすぐに現れてくる。

今までの覚醒剤との違いは、その効き目の速さ、そして効力の強さだった。

幻覚症状、極度の興奮状態、快楽。

その後に待っているものは、思考を放棄するということだ。

その覚醒剤はひっそりと、だが急速に流出されていった。

今回、警察がそれを一斉検挙し、元のファミリーを潰す事態までになったのだ。

その一環の依頼として、リボーンと綱吉は今回の仕事を引き受けた。

仕事を終えるまでは、イタリアの特殊部隊員の地位だ。

 

「で、アメリカに向かったってことか」

「そうだ」

「じゃあその男を捕まえに行くんだね。空港から先はどこへ?」

「愚問だな」

リボーンは綱吉を見てニヤリと笑う。

「そんなもん、俺の相棒が知っている」

綱吉は顔を赤くした。

たまに嬉しい言葉をくれる、こういうところがくすぐったい。

だが、何か翻弄されてる気がするのは気のせいだろうか。

少し前まで自分は平凡な一般市民だった。

元々住む世界が違っていた彼には、子供っぽく見られるのかもしれない。

自分だけこんな思いをしているのかと思うと、少し悔しかった。