『お前は、もう、死んでいる』






「げええええ!最悪だァァー!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

『You Lose!』の文字がデカデカと光っている画面を見ながら、綱吉はオーバーに叫んだ。
背景は両手を天高くつき上げた厳つい男、そして、血みどろになって倒れている禿頭。
綱吉の後ろでは、リボーンが優雅な仕草でコーヒーを飲みながら彼が悶え苦しむ様子を眺めていた。
その目は、やや虚ろに濁っている。だが綱吉は後ろの存在には構う事無く、再び取り掛かる準備をし始めた。




久しぶりの休みを獲得した二人の男のうち、かたっぽは真っ先に家に引きこもった。
溜めに溜めていたゲームを一気にクリアしにかかったのだ、それはもう鼻息荒く。

もう一人の男は特にしたいことも無かったので、ぶらりと何処かの怪しげな場所をうろついて情報収集してみたり、大きな声では言えない日頃のストレスを解消するために女のところへ通ってみたり、でもちょっと虚しくなって結局相方のところへ遊びに来てみたり、していた。

「お前、楽しいのか?」
本気でわからない、という風に尋ねてきたリボーンに対し、綱吉は前を向いたままキッパリと答えた。
「ものすごく楽しい」
「・・・・・・・・そうか」
置いてけぼり感による少しの寂しさを滲ませた呆れ声の後、リボーンは何となく溜息をついた。
先ほどから二時間ほどぶっ続けでトライしている格闘ゲームを止める気配も見せず、綱吉は首をコキコキ鳴らしている。ちなみにその二時間リボーンは、ほぼずっと綱吉を眺めていた。というか、ぼうっとしていた。彼には珍しいことだった。



このゲーム狂いの男を眺めるのにも飽きたな、とリボーンは立ち上がった。
「帰んの?」
出しかけていた足を止める。
まさか声をかけられるとは思っていなかったので、僅かに目を見開きながら「いや」と返した。
「片付けるだけだ」
「夕飯、食べてくだろ?」
コントローラーを必死で操りながらも、綱吉は当たり前のようにそう言った。

リボーンが無言で佇んでいると、徐に画面をポーズに切り替えて、綱吉は振り向いた。
「え、食べてかない?」
少しだけ不安そうな色を浮かべながら、綱吉は再び尋ねてきた。
「食う」
リボーンは、何とか言葉を搾り出した。こういう無防備さを出す不意打ちは、未だに慣れない、と思った。
「だよね!良かった!」
途端、パッと顔が明るくなる。
綱吉はリボーンの思考には全く気付く事無く、喋り続けた。
っつっても材料とか無いんだよねえ、あっピザとかでもいい?そーしよそーしよ、と女子高生のノリではしゃぐ二十七歳を尻目に、リボーンは肩を落とした。







「オレ、ここのポテト結構好きなんだ。在り来たりな味が何とも落ち着く」
「俺はもう少し辛い方がいいぞ」
「おい、ちょ、タバスコかけんなよ!無茶すぎるだろその量は!」
綱吉は、ああー、もう、馬鹿ヤロウ、と呟きながら赤く染まったポテトをつまんだ。
リボーンは何食わぬ顔でピザを一切れ掴み、途端、彼のポケットから流れた陽気な音楽に顔を顰めた。
その隙を狙って、リボーンの手からするりとピザを奪い取った綱吉が満足げにニカリ、と笑う。
リボーンがギロリと一睨みすると瞬く間に表情を一変させ、青褪め震え上がりながら、それでもしっかりピザに齧り付いた。
フンと鼻を鳴らして「覚えてろ」と呟き、リボーンは電話に出た。
「俺だ」



「やあ、元気か?」
『テメーか』
「つれないなぁー、元教え子にはもっと優しくしろよ」
『そんな法律は無いな』
「お前って・・・」
ディーノは溜息を吐きながらも苦笑した。
リボーンは昔から変わらず、確固たる自身を築いている。

「ちょっと頼みがあってな」
『なんだ』
「仕事を一つ、引き受けてもらいたいんだ」
『・・・・・・・』
「今度、ジャッポーネに行くことになった」
一瞬、電話の向こう側の空気が止まったが、ディーノは気付かずに続けた。
「向こうでちょっとした商談があってな、その護衛を頼みたいんだ」
『別に俺じゃなくても出来るだろうが』
「まー、そう言うなって。久々に顔も見たいし、行楽気分で行くつもりで、さ」
それに、とディーノは続けた。
「コンビ組んだらしいじゃねーか」
『・・・・・・・』
「ジャポネーゼなんだろ?どんなヤツなんだよ」
『詳細はまた後で連絡しろ』

ブヂッ!
ツー、ツー、ツー、


「何だ、アイツ・・・」
耳元で響く無機質な音を聞きながら、ディーノは首を傾げた。
なんだか機嫌を損ねてしまったようだが、仕事の話は蹴られることもなかった。

まあ、いいか。
会うのが、楽しみだ。

ディーノは鼻歌を歌いながら、デスクの上の書類と格闘し始めた。





「ふむ、おいひー」
呑気にピザを頬張る綱吉の向かい側、リボーンは携帯を片手に仏頂面を晒していた。
「どーしたの、何かあった?」
綱吉は何気ない風を装って、でも不安げな顔を隠すことが出来ずにリボーンに尋ねた。
「いや、大丈夫だ」
「・・・・・・・・・・・・何か、隠してないか?」
「別に?」
「ふーん」
綱吉は疑いの眼差しでリボーンを見つめたが、男は意に介さずポテトを口に運んだ。
「うまい」
「お前、舌オカシイよ絶対」
「ウルセエ」
「アッ、今日泊まってく?」
リボーンは、咀嚼していた芋を思わずブッ!と吹き出した。
「ギャッ!汚ねえ!」
ちゃんと食べろと愚痴りながらも、返事を待たず、風呂の準備してくるねえーとのんびりした声で綱吉は台所を後にした。
残された男は僅かに残ったポテトの辛さを噛み締めていた。
世の中って上手くいかないようでいってる。