綱吉とリボーンは、何となく、本当に何となく、目の前の男の目から十数センチほど上を見た。
たった今コクピットから、恐らく騒ぎを聞きつけて出てきたであろうヤツらのリーダーらしき男は、見た目からしていかにもな風体で絶句している。唯一、頭上を覗いて。
頭のバーコードが寂しげに揺れた。風もないのに。



「・・・・・・・・・ツナ。将来俺がああなっても、ずっと傍にいてくれるか?」
「安心しろ。オレは一生、お前の味方だ」
「・・・・・・・・・・・お前ら、ホモか?」
何を言われているか悟った男が怒りで顔を真っ赤にしながらも、若干引き気味に聞いてくる。
わかってない、と綱吉は思った。
仕事の合間だからこそ、こーいう下らないノリが大切なのだ。

「おい、かわいそうな頭。大人しく降伏しろ」
「断っっ固拒否する!」

目の端を光らせながらこちらに銃を向ける男。綱吉はちょっぴり同情した。
リボーンは負けじと銃をつきつけて、僅かな膠着状態になっている。
その中で綱吉は、何か違和感を感じていた。
目の前の三流悪役ではない、何か、でも嫌な感じというよりも。


その時、後方からどたどたと騒がしい足音が聞こえ、乗客たちが恐怖に怯えている中、その声は場違いに、陽気に響いた。

「おーい、何かあったのかー?貨物室居ても暇でなー」


「――――――――!!!!!、や、やっ」

「ツナ!久しぶり、ってか、お前全然連絡取れなかったんだけど何でだよ!」

「・・・・・・・・・・・?」




乗客たちが固唾を呑んで見守る中、シートの最前列前。

思い切り固まった男と思い切り花を飛ばした男、そして困惑した男二人。



綱吉たちの目の前に現れた、男は。

山本武、四捨五入して三十路。綱吉と同い年。

高校卒業後日本プロ野球界からオファーが殺到、某チームに所属を決める。
それからは怒涛の勢いで各試合において好成績を残し、最近ではメジャー進出を噂されている。
持ち前の明るさと甘いマスクでデビュー時からあっという間にお茶の間の人気者になり、人気俳優並に若い女性のファンが多い。しかもその性格は男性にも愛され、まあようするにめっちゃ人気者なのだ。



「・・・・・・・・・え、知り合い?」
ハゲ頭が困惑気味に長身の男に問いかけ、聞かれた男はそれはもう嬉しそうに答えた。

「親友なんっスよ!」
「てか、何でいんの?てか、えっ、どーゆーこと!?悪の道に走っちゃったのか!?短距離でブッちぎっちゃったのかァァ!!」

朗らかにのたまう山本武に、綱吉は涙目で詰め寄る。
「あーそうそう、この顔!懐かしーな!涙目もかわいんだよなー」
「びゅ、かほつまふなっへ」


「おい」


ひゅっ、と乾いた音、そして綱吉にとってようやっと聞き慣れてきた、物騒な重い音。



銃を向けられた山本は動揺するでもなく、ただ静かに相手を見ている。
リボーンは無表情に見返し、綱吉は一層青褪めた。

「ちょっ、リボ、何やってんの!」
「お前、こいつと知り合いなのか?」
「友達なんだよ、日本の!」
「おいおい、友達は友達でもただの友達じゃねーぜ。『親友』なのな、俺ら」
「し、し、親友…、だよ!」
「ああー、照れちゃってかわいー」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

ズガァン!

リボーンは、山本に向かっていきなり発砲した。
後方に乗っている乗客達が悲鳴をあげ、綱吉は真っ青になって叫んだ。
「おいいいいッッ!?」
「まーまー」
「いやそこで宥められる意味がわかんねーから!」
「おい危ねーなー小僧、いきなり何すんだよ」
「・・・友達は友達に可愛いなんて言わねーんだよ、普通」
「俺らは親友だからそれが普通なの」
「・・・・・・・・・・・・・・・おいっ!」
声は予想外のところから上がった。
「何だ、三流。今取り込み中だ」
「三流言うなァ!ていうか無視すんじゃねェ!」
「パターン野郎」
「もっとへこむわ!おい、山本さんに銃なんて向けんな!」
「・・・・・・・・山本『さん』?」
「あー、この人、何か俺のファンなんだって」
いぶかしんだ綱吉に山本は答える。未だそのほっぺを触りながら。
「あー、このひと野球好きなんだ…」

なるほど。読めてきた。

恐らく、偶々同じ飛行機に乗り合わせてしまった山本を、ファンであるテロリーダーが目ざとく見つけ、興奮しながらも何とか言いくるめて安全な貨物室辺りに移動させた、ってところか。


「お、お前…!なぜそれを…!」
「えっまじで!?適当に思ってみただけなのにっ!」
「おっさん…!あんたたち、悪いヤツだったのか?俺を騙したのか…!?」
「気づけよ!モロだろ!そこは押さえとこうよ!」
「くっ、すまねえ、山本さん…!あんただけには、知られたくなかった…!」
「アンタも何本気でショック受けてんだよ!ていうか馬鹿じゃねーの!あーもうみんな馬鹿じゃねーの!?」
「・・・・・・・ツナ、怒った顔もかわいー」

綱吉は激昂し、山本がニヤニヤしながらその頭を撫でようとした時、リボーンは足を動かしていた。

ガキィィィン!!

「・・・・・いい加減にしろよ」
「おっ、やるか?」
「だから何でケンカしてんだよー!」
「くそっ、こうなったら…!」

おっさんはなにやら一大決心した顔で、徐に綱吉を引っ張った。
リボーンと山本はそれぞれ足と腕を交差させながら睨み合っていたので、反応が遅れてしまった。

おっさんは、綱吉を抱えながらいきなり非常口を開けた。

ビュオオオオ!!


「ぎゃ、ぎゃああああ!」
「うるせえ!騒ぐんじゃねえ!」
「おいオヤジ、今すぐソイツを放せ。頭の上で靡いているそのバーコードが頭皮ごと無残な姿になるぜ」
「色々抉るなァァ!!」
もはや完全に涙目になったおっさんは、一歩後ろに後退して――

ずるっ。

「あれっ、」

間抜けな音、間抜けな声、一瞬の浮遊感。

視界に入ったリボーンの顔は見たこともないような間抜けな面で、綱吉は自分の状況を把握しようとする前にニヤリと笑ってしまった。














「じゃだばだばばばばばばば!!!」
「うるへんぐほッッ!し、したかむぐ」

顔から様々な液体を流しながら、二人の男は向かっていた。
ものっそい速度で。

地上へ。

(や、やばい、この状況を何とかしないと―――!)
綱吉は枯れる事無く涙を流しながら、必死に考えた。調子こいて笑ってる場合じゃなかった。
コクピットを占拠していた男――騒ぎの原因の筆頭であった、テロリストの実行犯トップである――は、風圧で変わった顔にも頓着することなく、何だか悟りを開いたような顔になっていく。頭上に靡く黒い線が一層の哀愁を漂わせていた。
「お、いッ、あ、あきら、めんなァ!オレは、まだ、しに、たくねェェ!!!」
「…坊主、人間、散り際は潔い方がいいってモンよ。俺みてェに悪行連ねてきたならなおさら、なァ」
「勝手、に、人を、巻き込ん、どい、て、何、抜かしとんじゃ、ァァ!!、て、かアンタ、よくフツー、に、喋れる、ねッ!?」

空を飛ぶ(というか落ちる)なんて滅多にない体験だ。
この恐ろしく強い風圧も、慣れてくるとなんだか透き通る空の青が自分を優しく包み込んでいるような気がしてきた。
(そうだ、オレは今――大空と一つになっているんだ―――)

「ってアホかァァっ!」
思わずトリップした自分に突っ込みを入れ、綱吉は現状を打破すべく必死に考えた。
考えた。
考えた。

(―――――!)

「おいっ、おっさんッ」
「なんだ」
「こっちに来いっ」
空中で何とか体勢を整え、綱吉は地上を見据えた。
どこの国かはわからない、美しい緑色が広がっている。
おっさんのポジション不明な髪が顔にかかりながらも、綱吉は必死に体を動かす。
ジャケットを脱ぎ捨て、ついでにシャツも脱ぎ捨て、下から着ていたやや厚めの防弾用ベストに下がっている、二つの紐を引っ張った。


バンッッ!



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・止まった・・・・・・・・・・・」
「ふー、なんとか」

おっさんは綱吉に抱えられながら、呆然と空を見つめている。
綱吉は頭上に広がったパラシュートを見上げた。ドッと疲労が押し寄せる。
最近開発したと自慢げに言っていた相方の顔が脳裏に浮かんだ。


(・・・・・・・・・・・・・・・さんきゅ)