車を運転しながら、男はバックミラー越しにちらりと後ろを見た。
「何だ」
「!いえ、何でもアリマセン!」
めっちゃ怖ええー!と震えながら、男は前を見た。
「ところで、もう一人の方は置いてきても良かったのか?まぁ、すぐに掴まるようなマヌケなヤツかもしれないけど・・・」
「黙れ」
「ひいい!ゴメンナサイィ!」
男は完全に縮み上がる。リボーンは男の頭に突きつけた銃を下ろした。
「くそ、赤だ」
やや前の方に止まっているトラックで、信号が見えにくい。
男は舌打ちした。
「でも、もしかしたら追いかけてくるかもしれないッスね」
完璧に敬語になった男に、リボーンはふんと鼻を鳴らした。
「アイツが来れねえように、足止めのヤツらを回しておいた。すぐには着かないだろうよ」
「え、何でそこまで・・・」
「アイツが来たら、」
リボーンは言葉を切った。
「・・・・・?どうかしましたか」
尋ねた男も、ふと口を噤む。
遠くから、何か低い音が鳴り響いてくる。
(・・・・・、バイク?)
――――ッドゥンッ!!!!
男は窓から上を見上げた。
ちょうど信号の上に掛かっている道路から、何か飛び出してきた。
(マジでか)
バゴォォッ!!
ズガ!グシャッ!ドスッ!!
しゅうしゅうしゅうしゅう・・・・・・
男は思わずドアを開けて飛び出した。
前方にあるトラックの上に、バイクが落っこちてきたのだ。
トラックのコンテナは見事に潰れ、何だか煙が吹いている。
運転手が出て来て怒鳴っているが、バイクに乗っていた男の手刀を首に受けて倒れた。
「うわ、かわいそう」
思わず呟く男の後ろに、リボーンが立つ。
その視線はただ、バイクの運転手―――綱吉に注がれていた。
リボーンは携帯を取り出し、電話をかけた。 数秒で繋がる。
「おい、足止め出来てねえじゃねえか」
『す、すいませんリボーンさん!三人がかりで押さえつけたのですが、いきなりあのヤロウが俺らの素性やら人様に言ったことも無い
弱みやら言い当てて、家族や上司にバラすって脅かしてきたんですよ!思わず手を緩めた瞬間、逃げられちまいました!本当にすいませ』
リボーンは携帯の電源を切った。
綱吉はゆっくりと車に歩み寄った。
彼にしては珍しく、眉間の縦皺が深く刻まれている。
ギンッと睨み付ける眼光に、男は一瞬後退った。
「偶然だねお二人さん」
「いや、偶然てアンタ」
男の突っ込みは風に溶けて消えていった。
二人は対峙した。
リボーンはこれ見よがしに溜息をついてみせる。
綱吉の眉間の皺が一本増えた。
「何でオレを置いてった」
「時間が無かった」
「それだけか」
リボーンはもう一度溜息をついた。
「薬吸っちまったんだろ?そんな状況でまともに仕事が出来るか。後遺症があるかもしれない」
リボーンの言う事は正論かもしれない。
だけど。
「オレを使う方が、絶対に効率が良い」
綱吉の自信に、男が目を丸くした。
が、綱吉の能力を当たり前に受け入れるリボーンは何も言わない。
目を合わせたまま、静かに答えた。
「お前がいると、気が散る」
――――気が、散る!
そんな言葉で、片付けられた!
「な、んだ、それ・・・」
綱吉は拳を固く握り締めた。
「言葉通りの意味だ」
「・・・・・あの、お取り込み中大変申し訳ないのですが」
「CIAの人は黙ってて」
「!、何で、それを」
「へえ、CIAの人間だったのか」
「おいお前、何者だ!組織の人間でさえ」
「うるさい」
「スイマセン」
「おい、連れてけ!」
「ダメだ」
にべも無い言葉に、綱吉は唇を噛み締めた。
視線を地面に落とす。 リボーンの顔が、まともに見られなくなった。
そんな。
オレは、もう・・・・?
「じゃ、ま・・・?」
リボーンは一瞬目を見開き、クシャリと頭を掻いた。
「・・・・・何も、そこまで」
「言ってんじゃん!オレの脳にはハッキリそう刻まれたぞ!」
綱吉は視界がぼやけるのを感じた。
怒りで支配され、自分がぼろぼろと涙を流すのを止められない。
くそ、何でこんな思いを。 悔しい。
「大体な!お前、オレと話すとき絶対壁つくってるよな!」
リボーンは、ポカンとした顔で綱吉を見た。
「何考えてんのかわかんない時もあるし!何か距離あるし!オレ、お前のことよく知らないし、」
ダメだ、こんな事を言ったら子供っぽいと思われる。嫌だ。
思うが言葉は止まらない。
「お前にとっちゃガキかもしんないけどな!一応お前の相棒なんだよ!もっと、」
そこまで叫んで止まる。
あれ、オレ、結局リボーンにどうしてほしいんだ?
「もっと、・・・・・理解し合いたい、というか、その、近付きたいと、言うか・・・・・?」
ん。なんか違うような。
いや、合ってんのか?
よくわからなくなってきた。
男二人が間抜けな顔で綱吉を見ている。
「まあ、とにかく!そんなわけだ」
綱吉は無駄に胸を反らした。
ああ、思ってたことを吐き出すと、気持ちいいな。
大分スッキリした気がした。
リボーンを見ると、その場にしゃがんで頭を抱えている。
男がポツリと呟いた。
「・・・・・・天然?」
「おい、結局どうなんだ!連れてくのか、連れてかないのか!てか連れてけ!」
こんなに元気だぞ!と証明するかの様に、腕をぶんぶんと振り回す。
しゃがんだまま、リボーンは顔を覆っていた手の隙間から、チラリと綱吉を見やる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・もし倒れたら、その場で置いてく」
「ああ」
「変なヤツに絡まれても、付いていかない」
「三歳児かよ!当たり前だろ」
「俺の傍に、居とけ」
綱吉は目を見開き、次には笑顔で応えた。
「とーぜん」