オレは沢田綱吉、通称ダメツナ。
何をやってもやらせてもかわいそうな結果にしかならず、その駄目っぷりから結構なはみ出し者だ。
もっとやる気出せ、だって?いやー、無理だろ。
そんなダメダメなのも年季が入ってきているので(なんせ十四年も駄目ライフぶっ続けなのだ)もはや諦めの境地だからだ。
いきなり脳内で自己紹介を始めた沢田綱吉(14)は、モノローグを終えたと同時に首を傾げた。自分の思考回路が不明だ。
(・・・・・・・疲れてんのかなあ)
今日はいつも以上にとことんツイていなかった。
返ってきたテストはいつも以上にまっかっかで皆の前でお説教されるわ、体育の授業のサッカーでは顔面シュートでオウンゴールをキメてしまいチームのメンバーから鬼の形相で迫られるわ、何もないところでいきなり転んでそれを愛しの京子ちゃんに見られるわ(通算37回目)、もう散々だったのだ。
綱吉は溜息をついた。傍をランニング中の野球部員が通った。一番後ろの背の高い少年がチラリと綱吉を見たが、綱吉は全く気付いていない。
だが綱吉は、ネガティブではあるが忘れるのは早かった。これだけ駄目なことが重なった日には「もう忘れよう」に行き着いちゃうのだ。
「ゆっうはーんみっそしーるあっさりーづけー」
自分を元気付けるためふんふんと歌を歌いながら校門を出ようとして―――
ズゴシャアッッ!!
綱吉は固まった。
どうしよう、空からパインが降ってきた。
そのパイナップルはなんだか妙な緑色の布に包まれている。なんだかぴくぴくしているように見えるのは果たして気のせいかそーでないのか。
じっと見ていた綱吉は、一つの結論に達した。
(帰ろう)
「待ちなさい待ちなさい」「ぎゃっ!」
傍を通り過ぎようとしかけたその時いきなり足を掴まれて、ヘタレな綱吉は思わず尻餅をついた。
ムクリと起き上がったパイナップル――のようなひとは、綱吉の足を掴んだまま非常に不本意そうに唇を尖らした。
「目の前に人が落ちてきたんですよ?普通、助けようとか思わないんですか?」
いや、人だなんて思わなかったから。
とは言えず、綱吉はまじまじと男の顔を見た。
色は白く、顔の一つ一つのパーツがバランスよく配置され、かなり美人の部類に入る。珍しい、オッドアイの持ち主だ。ただ残念なことに、額から盛大に血が流れている上に唇を尖らせている様が何とも言い難い感を漂わせている。というか、その制服って隣町の黒曜中のじゃあなかったか?あの、荒れているので有名な。
関わらないほうがいい。
綱吉は直感的にそう思った。
「オレ、そろそろペスの散歩の時間なんで帰らないと」
真っ赤な嘘だ。ペスって誰だよ、と思いながら綱吉は涙目で訴えた。
「大丈夫ですよ、ペスは今日はずっと家に引きこもっていたいそうです、そーいうお年頃なんです」
「あんたペスの何を知ってんだよ!」
「彼とは親友です」
「親友かよ!」
パイナップルさんはよっこらせと親父くさく立ち上がりながら、綱吉の腕を引っ張った。慌てて立ち上がる。あれ、そんなに悪い人じゃないのかな。
立ち上がった綱吉の制服のズボンをパンパンと掃ってあげながら、パイナップルはにっこりと微笑み。
恐ろしい台詞を吐いた。
「君、メイドになりませんか?」
あ、このひと、アレなひとなんだ。
「ぺ、ペスが待ってるから・・・・・・!」
「だーいじょうぶですって、彼は今頃夕飯前の前屈運動に勤しんでますって!」
「だからアンタはペスの何を知ってんだよォォ!ていうかペスでどんだけ引っ張ってんの!?」
必死の攻防を繰り広げながら、綱吉は逃げようと必死に足を踏ん張った。
左腕を一生懸命掴んでいる美麗な変態少年は、ポケットからなにやら取り出し、いきなり綱吉の左手首にガチリと嵌めた。
「ちょっ何、放せってギャフンッ」
綱吉はいきなり腕を放されてもんどりうった。ガバッと起き上がり睨み付けるとヘラッと笑い返される。
「いいですねえ、その顔。『御主人様の意地悪』って言ってみてください」
「キショっ!断る!」
ざくっと一刀両断し綱吉は逃げようとした、その時。
「キャアアア!泥棒!」
遠くから悲鳴が聞こえ、少年二人は声が上がった方を見た。
サングラスにマスクをした怪しげな男が、白いバッグを抱えて走ってくる。向こうには倒れた女の人が一人―――
びこんっ。
「えっ?」
その時、腕につけられた黒いリングのようなものが音を立てた。光っている。
「ちょっ、何これっ」
「早速発動ですね!今度はちゃんと成功してますように・・・・・!」
期待に満ち溢れた瞳で何やら呟いている少年に詰め寄ろうとして、綱吉はいきなり淡い光が自分の体を包み込んでいるのに気付いた。
「へっ?えっ、えっ、うわああああっ!?」
まばゆい光が霧散してゆき、その中に包まれていた綱吉があらわになってゆく。
「――――――っ!グッジョブ!」
少年が親指を立てていい笑顔なのに対し、綱吉は呆然としていた。
フリフリのエプロンドレス。ボーダーのニーソックス。なぜかハタキのオプション付き。頭に手をやると、カチューシャらしきものの感触に触れた。
「・・・・・・・・・・・・・ふ、」
「ふ?」
「―――――っざけんなああぁぁッッ!!!」
綱吉は力の限りにハタキをぶん投げた―――!
スカコーンッ。
「・・・・・・・・・・・あ」
「え?」
遠くを見やった少年につられ、綱吉もそちらを見る。お約束というかなんというか、引ったくりさんは見事に伸びていた。
バッグを取り戻した綺麗な女性は、ありがとうありがとうと何度も礼を言いながら去っていった。メイド服とか全く気にしていなかったことに綱吉は愕然とした。
「――という風にですね、悪の気配を感じ取ったその黒いリングが発動して、メイド服を装着したわけですねー」
「・・・・・・・・・」
「どこに居ても悪の気配を察知できるように改良したんですけど、今回は完璧ですね!クフ、僕って何て天才なんでしょう!」
「・・・・・・・・・」
「これでまた一歩、世界征服に向けての世界平和に繋がりました。というわけで」
愕然としたままの綱吉の両肩をガシリと掴み、少年は瞳をキラキラさせて叫んだ。
「これからも、よろしくお願いしますっ!戦うメイドさんとして!」
ていうか、まだ名前聞いてませんでしたね。あっ僕は六道と言います、六道骸。
一人くっちゃべっている少年と固まって動かないメイド服の少年の傍を、小学生の集団が彼らに向け指を指しながら無言で通り過ぎた。