おはようございます。沢田です。テンション激低です。気にしない方向で。
朝の喧騒の中、綱吉は珍しく遅刻もせずに席に着いていた。
だがクラスの生徒はそんな沢田綱吉に気付く事無く、彼ら彼女らの日常風景を描いている。
綱吉は窓の外を見た。穏やかに体を包み込む温かな日差し。柔らかく耳をくすぐる小鳥の囀り。
「・・・・・・・・なーみだくん、さよなーらー」
「早いな」
突然降って聞こえた近い響きに、思わず顔を勢いよく向ける。
何時の間にやら隣の席の人物が座っていた。
「お、おはよ」「チャオっす」
ビビッた。初めて声を掛けられた。
綱吉は顔が熱くなるのを感じて、両手でほっぺを押さえた。隣のイタリア人は気にする風でもない。
「おはよーリボーン!」「り、りぼーんくん、これ今日のお昼に食べて・・・」「土曜のバスケの試合、助っ人頼みたいんだけどっ」
席に着いて一分も経たない内に、様々な生徒から様々に声を掛けられる。こんなのは彼の周りでは日常茶飯事だった。綱吉から見れば。
わいわいと隣を取り囲む様をぼーっと眺めながら、綱吉はふと左手首を見た。
サイテイだ。
黒光りする無機質な輪っかは静かに存在を主張する。思い出したくも無いあの忌まわしい出来事。あれから半日とちょっとしか経っていない。
昨日の光景を思い出し、綱吉は唸りだした。
隣の席に群がっていた生徒たちがぎょっとした顔で綱吉の方を見たと同時に、「はい席についてー」と呑気な担任の声が響いた。
「おはようございまーす。急なんだが、転校生が来ました」
「マジでっ!」「男?女?」「カッコいい!?可愛い!?」
「はっはっは皆落ち着けー。おーい、入って来い」
がらりっ。
「クフフ、初めまして六道む」
ゑごりゅっ!
「・・・・・・・・・・・・・・・・沢田、大丈夫か?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい」
周りの「何やってんだコイツ」な冷めた目線にはお構い無しに、何とか体を起こしながら、綱吉は机越しに天敵を見た。
にっこりと微笑を浮かべた悪魔がいる。どす黒い角と羽が見える。
「改めまして」
悪魔が発した一言は、一気に教室中に静寂をもたらした。
「六道骸と申します。黒曜中学校から転校してきました。仲良くしてくださると嬉しいです」
止めとばかりに貴公子スマイル。キャアアアアアアア!と歓声が上がった。
「うーん、じゃあ六道の席は・・・・・」
「あっ僕、沢田君のとなり「せんせい!オレ隣のクラスに行きたいです!」
綱吉は、今まで生きてきた中で最も真剣な表情で叫んだ。瞳には炎が灯っていた。
「あーっアレですか、ツンデレの開拓ですかっ?それも胸にギューンとキますがちょっと寂しいです」
「せんせい、六道くんは気分が悪いそうです」
「昨日もあの後いきなりいなくなっちゃったじゃないですかー、もっと堪能したかったのにぃ〜メ」
「せんせいィィ!変態に効く薬が必要だそうです!保健室連れてきます!」
クラスのみんなを置いてけぼりにし、二人は出て行った。否、綱吉が転入生を引き摺っていった。頭を鷲掴んで。
「沢田って結構元気なんだなあ」
担任の感心した声が場違いに響いた。
「沢田君」
「・・・・・・・」
「さーわーだーくーんー」
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・綱吉」
「!!!」
綱吉は耳を押さえながら振り返った。怒りか何かで顔は真っ赤で、六道骸は満足げに目を細める。
「くふ、耳弱いんですね」「黙れ脳内お祭り男」
誰もいない廊下、少年二人は対峙した。綱吉は目の前の人物を睨んだ。が、当の相手は何処吹く風だ。
「おい、このブレス外せ」
「うーん無理です。これ、一度嵌めたらもう外れない構造に作ったんです」
「ふ、ふざけんな・・・・・・・・・」
「何怒ってるんですか?いいじゃないですかメイド服。可愛いし、似合ってましたよ」
「お前それオレの立場で言われたら嬉しいのかどーなんだ」
「僕は何でも似合うから良いんですよ、わかりきったことです」
答えになっていない答えを吐き、六道はニッコリ微笑んだ。教室で見た笑顔とは若干違う。さらにドス黒くなったオーラに、綱吉は思わず後退した。
「昨日、僕は妙な予感がしました。人生を変える何かが起こりそうな気がしたんです。それで運命の出会いを求めて散歩に出てみたら」「お手軽すぎだろ!」「並盛の校舎前に着きましてね。ちょっと偵察・・・じゃなかった、持ち前の社交性で他校の生徒さんたちと仲良くなろうと」「明らかな嘘つくなこの変態!」「木に登ってみたら偶然君が通りかかりましてね。顔を見た途端、こう・・・・・・・何か体に走ったんですよね。ビビビッと。あれは不思議な感覚でしたね・・・・・・・それで声をかけようと前のめりになったとたん」
ああなったわけか。
途中途中の不穏な単語たちはスルーし、綱吉は頭を抱えた。
出会って僅かな時間だが、この、無駄に顔がキレーで笑顔がウツクシイこの男は、とても――――実際に自分が考えているよりもかなり。
面倒くさそうだ。
教室を抜け出した手前保健室に六道を押し込めようと強行しかけたら、どっか消えた。ちくしょう!
耳に残る独特な笑いを振り切るように頭を振り振り、教室に戻る。ちょうど休みに入ったようで、廊下や教室はざわついていた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
うん。オレ、実は友達いないんだよね。
あ、知ってた?
そりゃこんな駄目でドジで話しても面白い会話も成立しない、どーしようもない人間だし。
普通に会話するクラスメイトは何人か居るけどさ。
一緒にメシ食ったり一緒にダベったり一緒に帰ったりとか。
そーいうの、無いわけよ。
綱吉は一人、席へと着いた。何と無しに溜息が零れる。
ほんの少しだけ、あのスチャラカ男に期待してしまった自分に気付いていた。が、今となってはもの凄く恥ずかしい。情けない。
だって、アイツの目は。
僅かにオレを見下した目をしていた。
「六道は」
「―――――!?」
右を向くと、リボーンは正面を向いたままだった。だけど、あの声は間違いなく彼のものだ。だって、その深い声色の響きは中学生にしては艶やかで、聞いたら一発で忘れないからだ。
声をかけられたのは本日二回目であり、今までで二回目であった。綱吉は上擦った声で答えた。
「ど、どっかいった」「ふーん」
それきり、リボーンは口を閉ざしたので、綱吉も黒板を眺めてみようとした。
頭の中ではリボーンと六道骸の二人が手を繋いでダンシングを始めていたけれど。