『音楽』というものについて人間が抱く思いは千差万別であるが、自分は其れに対して比較的良い様に考えていると思う。

人というものの嗜好の中に其れが含まれているのは真に不思議であるが、奏でられるハーモニーの絶妙さや技巧の

素晴らしさに耳を傾け、宇宙のリズムと一体になったような世界に浸されていくのを感じたとき、ああ、人間でよかった、

と心から思うのだ。

 

 

「ラヴェル?」

「ええ」

「獄寺君、好きだね」

 

机の上で書類を片付けていらした十代目はこちらを向いてニヤリと笑った。

俺は知らず手でリズムを刻んでいたらしい。それはもう癖のようなもので、ある時十代目に何の曲かと尋ねられた。

その時のことを覚えて下さっていたのだろう。

 

『仕事』で外に赴く時やこれから戦闘開始だという時は、俺の中では必ずと言って良いほど曲が流れている。

時と場合によって様々だが、大抵はクラシックだ。昔の影響が未だ残っているのだろう。

それに、好きな所為もあるだろうが、脳が冴えて気持ちが落ち着くのだ。

世の無常さ、その中で生きることの意味、自分の存在について。そういったことがほぼ一瞬にして脳を駆け巡り、全身が

高揚する。

 

そして仕事の結果は、必ず白星だ。

 

 

「オレはあまりクラシックは聴かないなあ」

「ぜひ聴いてみて下さい。美しい音楽は魂を満たしてくれる」

 

俺の頭の中では、未だスネヤの音が響いている。

単調ではあるが無数の響きで表現されるそのメロディーを無意識に口ずさみそうになり、抑えた。

仕事の邪魔をしてはいけない。

 

「ドイツオペラなんかも素晴らしいですね。ワーグナーはぜひ一度」

「ローエングリンとか?」

「はい」

「じゃあ、今度の休みにでも連れてって」

「喜んで」

 

 

図らずもデートの約束を取り付けた。

また、白星だな。

思わず口の端を上げる。

 

スネヤは止まない。