「ツッ君、ほら、ご挨拶なさい」
綱吉は、奈々の後ろに隠れながら、恐る恐る目の前の子供を見た。
小奇麗な顔の男の子は、上目遣いの綱吉と目が合った途端、片眉をぴくりと上げた。
「お隣のリボーン君よ、仲良くね」
「ツ、ツナです」
「リボーンだ」
名乗りながら、おもむろに綱吉の頬っぺたをムニ!とつまんだ。
大して痛くなかったのだが、いきなり抓られた綱吉は思わず、
「ふ、ふえ、えええええええええん!」
泣き出した。
「あらあら、さっそく仲良しさんねえ」
奈々の能天気な声が響いた。
それが、出会い。
「お邪魔しまーす」
勝手知ったる幼馴染の家。
綱吉は、ぽいぽいと靴を脱ぎ、きちんと揃えて中に入った。
二階に上がる前にキッチンに寄り、冷蔵庫からお茶のペットボトルを取り出す。
そのままラッパ飲みして一息つくと、再び冷蔵庫に戻し、二階へ直行する。
「リボーン」
ノックしてドアを開けると、端整な顔の少年がベッドの上に寝そべっていた。
手には株式雑誌。嫌な中学生だ。
「母さんが呼んでる、夕飯はハンバーグだって」
「お、ママンのハンバーグ久しぶりだな。何か良い事あったのか?」
「父さんからハガキが届いた」
今ロシアにいるみたい、と、綱吉は浮かない顔だ。
リボーンはそんな綱吉の背を軽く小突き、部屋を出た。
リボーンの両親は現在海外出張中だ。何やら国際的な仕事をしてて、めったに日本に足を運ぶことはない。
年に一度帰れば良い方だ。
沢田家は、そんなリボーンに何かと構い、今では毎日食事をし、風呂も勝手に使わせている。 実は合鍵も持っている。
数度、奈々が「もうここに住んじゃえば?」と提案したことがあったのだが、さすがにそれは申し訳ない、とリボーンは
断っていた。
そもそも、小学生の時からほぼ一人暮らしをしている時点で、普通は有り得ないのだが。
そう、リボーンは普通の子供じゃなかったのだ。
いわゆる『神童』ってやつである。
容姿端麗才色兼備文武両道の見えないたすきをべたっと貼り付けたような彼は、本当に何でも出来る子だった。
家事全般は一通りこなし、ご近所付き合いにも手を抜かない。
純イタリア人のクセに、綱吉と出会ったときは既に日本語ペラペラだった。
なので、一人暮らしくらい何ともなかったのである。
そんな彼が沢田家に入り浸るのは、沢田綱吉の存在が大きかったと言える。
沢田綱吉。通称『ダメツナ』。『神童』とは全くの対比語である。
何もない道で転ぶ確率は一日に三回ほど、勉強は全くする気なし(しても成績は上がらなかった)、かけっこでも
常にビリケツ。
どんぐりのような大きな瞳が愛嬌を醸し出し、ドジをしても大抵は流されていたが。
あまり男らしいとは言えない容姿は、当人のコンプレックスの一つだった。
出会ってすぐ、綱吉のダメっぷりを察知したリボーンだったが、付き合っていくうちにほっとけなくなっていった。
いわゆる、『情が湧いた』と言うヤツである。
そんな二人は幼少の頃からずっと一緒に行動していた。もはや腐れ縁であった。
沢田家の玄関で、綱吉はなぜかもじもじしていた。
それに気づいたリボーンが、「トイレか」と揶揄した。
「違うよ!」リボーンといると、なぜか綱吉は突っ込み担当になる。
「・・・ねえ、今日、呼び出し行った・・・?」
「あー、朝の下駄箱の手紙?」
「うん」
今朝、リボーンの下駄箱の中には、女子生徒からの手紙が入っていた。二通ほど。
そのうちの一通が学年のミス二位、そしてもう一通は名前が見えなかったのだ。
綱吉は、学年、いや、学校のマドンナ、笹川京子に恋をしていた。
もし手紙の主が京子だったら、と思うだけで、今日一日いつも以上に失敗ばかりしていたのだ。
「行ったけどな、丁重にお断りしたぞ」
「え、まじで!なんでー!もったいないー!」
自分たちはオトシゴロだ。その上、リボーンなら彼女の一人や二人、とっくに出来てておかしくない。
だが、京子かどうかはわからなかったが、少なくともリボーンが誰かと付き合うことになるわけではない、と、綱吉は
ちょっと安心した。
京子のことも大好きだが、リボーンのことも、大事な親友だと思っていた。
大事な友達がそのカノジョに獲られるのは、ちょっと寂しい。
夕食の後、二人はテレビを見ながらソファで寛いでいた。
綱吉は、今日考えていた疑問の一つを、思い切って口に出す。
「リボーンってさ、好きな子いないの?」
リボーンは目をパチクリさせて綱吉を見た。
「どーした、恋の悩みか?」
「茶化すなってば!ただ、友達として気になるっていうか・・・」
綱吉は俯きながら、なんかオレ、何でこんなむきになってんだろ、と思った。なんかちょっと馬鹿みたいだ。
「今んとこはそんな暇ねえな」
柔らかな声が聞こえて、綱吉は顔を上げた。
リボーンは微笑んでいる。めったに見せない顔だった。
「ダメツナの世話とか忙しいしな」
視線が交差する。
「な、んだよ、それー!」
突っ込みながらも、綱吉は嬉しくてにやにやした。
リボーンが、綱吉のことを必要、と言ってくれてるみたいで。
(まあ、オレが実際頼り切ってるだけなんだけど)
「ま、ツナには早えーな、恋愛の何とやらは」
「くっ・・・言い返せねえ・・・」
テレビを見ながら言うリボーンは心無しか楽しそうだ。
リボーンが一番生き生きするのは自分をからかう時だ、と綱吉は思った。
「リボーンちゃん、明日休みだけど泊まってくのよね?お風呂沸いたから先入っちゃって〜」
台所から奈々の声がした。週末にリボーンが泊まるのはもはや習慣だ。
「へーい」と返事するリボーンを横目に綱吉はソファに寝っ転がった。
妙な安堵感が体に広がり、気が抜けたのだ。
(眠い・・・)
そこで寝たら風邪ひくぞ、と、呆れたような声が聞こえた。