黙ったまま、肩を並べて、二人は歩いていた。
綱吉は隣にいるリボーンをちらりと見た。
「!」
真正面に顔を戻すと舌打ちが聞こえて、恐ろしさと何とも言えない申し訳なさが胸の中を支配する。あと、ほんの少しの、もどかしさ。
『幼馴染なんだよ、お前ら』
そう言った彼の顔は何か含みがあって、どこか後ろめたそうな――
「おい」
「、っはい!」
「………いや、何でもねー」
「………!(怖えー!)」
そうは思いながらも、少しだけ、ほんのちょっとだけ、綱吉はリボーンとの距離を縮めた。
リボーンがぴくりと肩を揺らしたのには気づかず、綱吉は思考の波にたゆたう。
『俺が言うのも何だが、仲は良かったぜ。校内で有名になるほどには』
『ゆっ、有名て』
『冗談なんかじゃねえぜ、コラ』
『………』
『お前の気持ちもわかるけどな、ちょっとは考えてやった方がいいぜ。アイツの気持ちも。てゆーか早いとこどうにかしろアイツを』
『なにが?』
『……………』
こいつの気持ち。
………わかんねー。
「あの……」
「何だ」
素早く反応が返ってきたのに少し戸惑いながらも、綱吉は勇気を出して聞いてみた。
「オレ、たち、ってさ、普段、どんな…」
「あ?」
「………いやっ、なんつーか、その、いつもは……」
「……………」
「………………えーとだからそのーつつつつつきあい方とゆうかあの」
「…………………」
バゴッ!
「痛ってええええええ!何すんだ!」
「いや、イラッとしたからつい」
「ついじゃねえ!お前、もーちょっと優しく出来ないの!?仮にも幼馴染が記憶とかなくしちゃってんだよ!」
「面倒くせーやつだな、遠慮とか今更過ぎるだろ」
「この、ドS…」
「何か言ったか」
「いえなんにも」
クソッタレ…とぶつぶつ呟きながら家に着いて、当然のように家の中にリボーンが入ってきて、これまた当然のように綱吉の部屋に向かうのにも、確かに違和感を感じない。
綱吉は思った。
(おさななじみ、ねえ……?)
変な感じだ。
胸の中が、こそばゆい。
(………まあ、そのうち思い出すだろ)
いい加減気を使うのも疲れる。
それに、向こうも多少慣れたようだし。
リボーンの刺々しさが抜けたのに気づいたのは流石だが、その理由と若干残っている苛立ちにはまだ気づけない綱吉だった。
事件は風呂の時間に起こった。
「おい、上がったぞ」
「あー、うん………」
雑誌に夢中だったのを中断されて何気なく顔を上げた綱吉は、リボーンを見て固まった。
上半身裸でタオルだけ引っさげ、「ビールビール」とかほざきながら勝手に冷蔵庫を漁るその姿を見て。
「………ん、んめー」
勢いよく飲み干して少し零れた液体を拭い、缶をゴミ箱に捨てた後、リボーンは綱吉の視線に気づいて首を傾げた。
「どうした」
「………………」
呆けた顔が自分を見ている。
リボーンは妙に思い、綱吉に近付いた。
「………ツナ?」
「………ッ!!!」
勢いよく立ち上がり、綱吉は叫んだ。
「風呂、入ってくる!」
「………おお」
ドタドタと走り去る後姿をみて、今にも転びそうだと不安を感じながらリボーンは床に落ちた雑誌を拾った。
『ときめき★恋占い!〜貴方の愛の行く末はどこ?〜』
「………………………」
何となくその雑誌を縦に破り(厚さ2センチは超えていた)、びりびりに引き裂くリボーンだった。
(ああああああああああああああああああ)
無我夢中で全身を洗い流しながら、綱吉は悶絶していた。
「あがああああアアアアアーアア…」
かなり動揺している。とりあえずというか頭を数回叩いてみるも、鈍い痛みしか感じられなかった。
先ほどの光景が脳内を支配していた。
引き締まった体、上下する喉。きりと結ばれた口元。ほんのり色付いた目元。
「……………ぎゃひぃ!!!!!」
(いやオレ、何考えちゃってんの!!!??)
「………ていうかビール…、未成年のくせに…」
常備されてるのもどうかと思うが。恐らく、母がアイツのために置いてるんだろう。なんてユルいんだ。
「……………」
なんでだ、おかしいだろう絶対に。
だが確かに、オレは。
アイツに、
よくじょうした。
「いやァァァァァァ!!!」
ふがッ!と鼻を鳴らし、綱吉は気づいた。
恐る恐る下肢を見る。
「……………………………有り得ねえ……」
近頃は碌に綱吉に触れずかなりの欲求不満であるリボーンは、せめて今夜のオカズにでもと綱吉の風呂を覗くことにした。
「おおい、シャンプー切れてなかったかー」
かなり白々しい声で風呂のドアを遠慮なしに、そして予告なしに開けるとそこには。
「………ん、………ッ!?」
「―――――――――!!!!!!!」
あろうことかG中の綱吉さんが居た。
「あああああああああああッッ!?ああああの、ここここここここれは」
ブヂッ!!
「いやそのなんてゆうか思春期ならだれでもスるよねってブヂッ…?」
「お邪魔します」
「はっ、えっちょっとおおおおおおお!!?」
リボーンが服ごと風呂場に入り込んできたという全く予測し得なかった事態に、綱吉は一瞬対応が遅れた。
あっ、という間に身体を反転させられ、タイルに直に座らされ向かい合わせになる。
「ちょ、おおおおお」
「久しぶりにやるか、アレ」
「あっ!?あれってぇッ!?」
「『どっちが早くイくか』」
びちょびちょのスウェットと下着を脱ぎ捨て、リボーンは遠慮なしに自身の股間にある一物を掴んだ。
「!!!」
「ん、」
勢いよく扱き出す大きな手が信じられない。
目の前で何が起こり始めたんだろうか。
自分のものよりもグロテスクに濡れた其処は、しなやかな指に擦られて先端から白い液が零れ始めている。
「ほら、はやく」
見入ったままの綱吉に、僅かに息を荒げ、リボーンは促してくる。美しい、切れ長の目が綱吉を捕らえる。
―――――なんて、背徳的で淫靡な光景。
気がつけば、動きを再開していた。
「…………ッ」
「、っ、ん」
声が響く。
もの凄く恥ずかしいのに、手が勝手に動く。なぜ。なんでこんな。
頭の中で疑問が渦巻いたまま、全身を縛り付けてゆく。
それでも自分の両手は哀れなほど一生懸命に、上下に動くだけ。
僅かに身体が揺れる度に、目の前のリボーンの肌と息を近く感じて、綱吉は死にそうになった。
リボーンの視線が突き刺さっている。必死なオレの姿を見ながら、
彼もまた、
「―――――、ッ」
「………………早いな」
手の中に放たれた、自分の精液。身体が熱い。
はあ、はあ、はあ、という荒い息が、反響して脳を侵してゆく。
(……ていうか、久しぶり、って…)
本当にやってたのだろうか。とても信じがたい……。
呆けていると、リボーンが徐に身を寄せた。
「付き合えよ」
(え、)
合せられたモノが異様に熱くて、思わず悲鳴が零れた。震える体は思い通りにならず、浴槽の縁にずるりと掛かるだけ。
そして、リボーンは。
「――――――ッあっ!」
身体を、そこを、擦りつけてきた。
「ひゃッ、あっ、あッ……!」
「っ、声、抑えろ。ママンに気付かれる」
嘘だ。
訳が分からなかった。
当たり前のように行われる行為も、女のように高い声をあげる自分も、そんな自分に圧し掛かっている彼も。
首が浴槽の縁に当たって、痛い。身体が揺れている。声が侵蝕する。
彼の大きな手が、自分のものを掴んで、彼のと、擦れて、
恥ずかしくて、恥ずかしくて、消えてしまいたいと思った。
出る、と思ったと同時にどろりとした温かいものが股間を濡らし、ゆっくりと覆い被さってくる体の重みを感じて、綱吉は意識を手放した。