色々省略・おまけの北海道旅行

 

 

北海道旅行 一日目

 

新千歳空港に降り立った高校生二人組は、何だかやたらとはしゃいでいた。

「うおお、雪、雪!リボーン、雪だるまあ!」

「ダメツナ騒ぐな!お、この雪だるま、何となく獄寺に似てるな」

飛行機に同乗していた女子大生三人組が、リボーンを見てきゃっきゃとしているが、二人とも慣れっこなので全然

気にしていなかった。

「六時に、ビール園に集合、だっけ」

「ショボいな、『グルメツアー』が夕食一回カニ食べ放題のみ、とはな」

「えー、でも破格の値段だし、こんなもんじゃない?それより、オレ昼はラーメン食べたい!」

綱吉は目に見える上機嫌ぶりだ。リボーンは、そっと安堵した。これで、文化祭の一件は何とかチャラだな、と。

リボーンが商品としてもらった『北海道グルメツアー二泊三日』の要項には、実際には初日の夜にカニを食べ放題の

事項のみであり、その他の時間は全部フリーだった。添乗員もいない。

なので、かなり融通の利く旅行となる。 綱吉は三日間リボーンを奴隷に出来る権利を得たので、早速命令した。

「即刻プランを練って、満足のいく旅行にしろ」と。

ものの十五分でタイムテーブルをプリントアウトしてきたのには驚いたのだが。

 

+++

 

「んふう!ぶぬふうへんふもひ!」

「わかんねえよ」

この味噌ラーメンの味、最高すぎる!!

綱吉は今、猛烈に感動していた。

隣では、リボーンが醤油味を堪能している。二人とも、無心で食べていた。

食べ終えた綱吉が、満足そうにお茶をすする。リボーンが、「おい、」と言って、綱吉の口元を拭った。

「ありがと」

「今だけな」

 

+++

 

夜、カニに対するリボーンの手捌きは、神のようだった。

「何でそんな綺麗に身が取れるの!?」

綱吉は悪戦苦闘していた。

「お前・・・本当に不器用だな」

「心の底から言わなくていいよ!」

「どれ、貸してみろ」

ひょいっと奪われたカニの殻から、みるみるうちにプリプリとした身が出てくる。綱吉は見入った。

「おい、口から出てる涎を拭け」

「あ、ごめん!カニありがとう」

礼を言って、食べ始めた。

「上手い!生きてて良かった!」

「お前の分も全部取ってやる」

「まじで!?お前、実はいいヤツだったんだな」

「今だけな」

 

+++

 

「あー食った食った」

「おい、ちゃんと歯磨けよ」

「わかってるって」

ホテルに着いた二人は、ベットに座り込んだ。ちなみに、ツインの部屋だ。

「リボーン、先に風呂入ったら?」

「ああ、じゃあそうする」

浴室に入る際、リボーンが綱吉をちらりと見た。

「お前、寝るなよ」

「だーいじょうぶだって」

 

 

「寝るなっつったのに」

綱吉は見事に爆睡していた。揺さぶっても起きない。

「おい、コラ、起きろ」

リボーンはふと思いついた。耳元で囁く。

「キスするぞ」

ばちん!と音が鳴りそうな勢いで綱吉が目を開けた。

「風呂入ってくる!!」

ばたばた、バタン!がさ、ドン、ゴス!あいた!

色んな音が聞こえてきたが、リボーンは聴かなかったことにした。

 

はあ。シャワーを浴びながら、綱吉は溜息をついた。

あれからそんなに時間も経っていないのだ。忘れたくても忘れられない。

(大体、何でオレがこんなに悩まなくちゃいけないんだ)

確かに『口をつけた』のは綱吉自身からだったが、あれは鍵を取る、という脅迫があった上での行為である。

(リボーンなんか、舌思いっきり絡めてきたし!何考えてんだアイツ!)

怒りに任せて頭を洗っていた綱吉だったが、ある事実に思い当たる。

(・・・・・もしかして、酔ってた、から?)

そういえば、リボーンは朝からビールを飲んでいた、とコロネロが言っていた。

『口をつけた』時はよくわからなかったが、もしかしたら酔っていたのかもしれない。

(・・・・・なんだ、よかった・・・・・・・・・)

何となく、胸がちくりと痛んだような気がした。が、綱吉は気にとめなった。

(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・待てよ、オレ、だとしたら、リボーンを殴ったのはまずかったかな)

いくらムカつく事を言ったからって、本人が酔っ払っていたんじゃどうしようもない。

綱吉は、申し訳ない気持ちになった。

(リボーンに、謝ろう)

 

風呂から上がると、リボーンはビールを飲んでいた。 綱吉に気付くと、手招きをする。

「?」

とてとて寄っていくと、リボーンの足の間に座らされた。手にはドライヤー。髪を乾かしてくれるらしい。

「あー・・・」

「気持ちいいか」

「うん」

なんか、のんびりするの久しぶりな気がするな。文化祭は大変だったしな。 あ、やばい、ねむい。ねそう。

「・・・・・・ツナ?」

綱吉は寝ていた。

リボーンは溜息をついて、頭をぽすんと叩いた。

 

+++

 

北海道旅行 二日目

 

二人は温泉に来ていた。 市街地から少し離れたところだが、広い上にあまり人もいない穴場だった。

「うっひょー!」

「走るな!」

綱吉は興奮のあまり露天風呂にダイブし、「ヴオ!」と悲鳴を上げていた。脛を強打したらしい。

「バカツナ・・・」

「痛ててて」

中に入ったまま足を出してさすると、「入れてろ」と沈められた。

リボーンはすらりとした肢体を惜しげもなく晒していた。少しどきりとする。

「なんか、リボーンと風呂入るのって久しぶりだね!」

「そうだな」

「こういうのもたまにはいいねえ」

「そうだな」

「このお湯って白いんだねー」

「そうだな」

さっきから「そうだな」しか返さないリボーンに、少しむっとした。

「ねえ、聞いてる?」

近寄ると、なぜか後退した。どこかあさっての方を向いている。

「・・・・リボーン?」

「いや、何でもねえ気にすんな」

「ふーん?」

「・・・お前、少しは運動しろ。もっと日に焼けろ」

「えー、めんどくさい」

「だからいつまでたっても運動音痴なんだ」

「うっ!これから、頑張るし!」

「ああ頑張れ」

 

「今度はみんなで一緒に来たいねー」

「それはダメ」

「なんで」

「なんでも」

 

+++

 

「少し早いが、食事に行くぞ」

「うん、どこ?」

「レストランだ」

「レストランー?」

もっといいとこあるんじゃないのー? 綱吉のブーイングを一笑に付して、リボーンは言った。

「絶対気に入る」

 

 

「ど、ど、どうしよう、美味しそう過ぎて選べない」

「メニューなんざどーでもいい」

一言で切り捨て、店員を呼んだ。

「このコース二人分で」

「おい!横暴だろそれは!」

「大丈夫だ美味いから」

それより、外を見てみろ。

言われて窓の外に顔を向けた。

 

「うわ・・・・」

夕陽が落ちかかっている、何とも言えぬ美しい色合い。窓ガラスに映っている景色は、まるで一枚の絵画のようだった。

陽が落ちたその瞬間、まっすぐに伸びた道路に、光が灯り始める。

それは色を増していき、まるで宝石箱のようにキラキラと輝いていた。

綱吉が絶句して見入っている、その傍でリボーンが言った。

「季節限定のイルミネーションだそうだ。ここは絶好のスポットだぞ」

「すごい、感動した・・・!ありがとう!」

満面の笑顔で礼を言うと、リボーンが微笑んだ。

「どういたしまして」

 

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ホテルへの帰り道。

「ねえ」

「ん」

「あの時、酔ってたんだよね」

「・・・・・?」

「だから、その・・・・・キス、した時」

「・・・・・」

「だから、よくわかんないことしちゃったんだよね、それなのに、オレ、リボーンのこと殴ったりして、ごめんなさい」

「酔ってねえ」

「へ」

「酔ってなかった」

「・・・・!じゃ、あ、なんで、あんなこと・・・したの?」

「・・・・・・・・ノリだ」

「・・・・・・・・ノリか」

 

『ノリ』、だって。

怒りを通り越して、呆れてしまった。何というか、ある意味彼らしい答えだ。

 

そんなもんか。

なんか、考えるの馬鹿らしくなってきたな。

 

「ふふ」

思わず笑った綱吉を、リボーンがちらりと見た。

 

+++

 

「おい、ツナ、ここに来い」

風呂上り、リボーンに呼ばれて髪を乾かしてもらう。

(リボーンに髪を触られると、眠くなる)

「おい、終わったぞ」

ぽすん、と頭を叩かれた。そのままずるずると寝そべる。

リボーンの胡坐の上に、頭を乗せた。

「リボーン」

見上げれば幼馴染の顔。逆さまに見ると、どんな顔をしているのかよくわからない。

こうして、ダメなオレなんかの傍に、いつも当たり前のようにいてくれる。

でも、オレたちはいつか大人になって、それぞれの道を歩んでいかなければならないのだ。

その時がいつ来るかなんて、オレには全然想像もつかないけど。

でも、リボーンはそんなオレを笑い飛ばしながら、背中を押してくれるに違いないのだ。

「ダメツナ、しっかりしろよ」と言いながら。

 

綱吉は、不覚にも泣きそうになってしまった。

急に黙り込んだ綱吉を見詰め、リボーンは琥珀色の髪に手を入れた。

乾かしたばかりの髪は、さらり、と流れた。

 

綱吉は、リボーンに何かを伝えたかった。

己の中にある、形にすることは出来ないが、温かな色を持つ、何か。

でも、上手く言葉にすることが出来なかった。

 

「おやすみ」

リボーンが静かに笑った。

「おやすみ」

 

 

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最終日、帰り

 

帰りの飛行機の中、綱吉は寝こけていた。

隣に座っているリボーンの肩に、頭が落ちる。 それに気づいたリボーンが微笑んだ。

リボーンは、じっ、と綱吉の顔を見詰めた。

その瞳は稀に見る真摯な光を放っており、どこか切なそうに、しかし鋭く輝いていた。

寝ている綱吉の耳元に、何事か囁く。 綱吉が、微かに笑った。

リボーンは、綱吉の頭に自分の頭を寄りかからせるように、眠りに入った。