ソイツは、突然現れた。

「いらっしゃいま、」

まで言った綱吉は、入って来た客を見て、ビシッと音を立てて固まった。

「沢田君、一体どうし、」

まで言った店長も、入ってきた客を見て固まった。ただし、こちらは瞬時に全身を真っ赤にした。

入り口に佇む男は、明らかに浮いていた。オーラが常人のそれでは無い。

しかも、サングラスに渋めのコートと言った、センスは良いが中々厳つい格好だった。

だが、見る人が見れば明らかに正体がわかった。

特に、チャームポイントのもみあげで。

 

雑誌コーナーでたむろしていた女性客二人が、段々黄色い喜びの悲鳴を上げ始めた。

ちょっと!あれ、もしかして!?

え、人違いじゃない!?

でも激似だよー!!

店長(女、年齢不詳)もどうやら彼の大ファンらしい。接客云々を放棄して今にも倒れそうになっている。

 

綱吉は声を大にして叫びたかった。

(何で来るんだよ――――――――――!!!)

でも叫べなかった。

知り合いだとバレるのは、お互いにとって何かと都合が悪すぎる。

平常心だ、平常心!

綱吉は顔に脂汗をびっしり浮かべながら、無表情を保っていた。

 

男は興味深げにぐるりと店内を見渡した。

ぼそりと呟く。

「シケてんな」

(じゃー来んなっつーの!!!)

咄嗟に突っ込んだ綱吉の心の声は、とーぜん届いていない。

入り口にあったスポーツ新聞を選びもせずに適当に取り、そのままレジへと歩み寄ってくる。

(来んな、来んな、来んな、隣行け、来んな)

来た。

必死に目を合わせまいとしながら、新聞を受け取る。

「120円です」

震えながら差し出した途端、

 

ガシッ!

なぜか手を掴まれる。

 

きゃああ!と女性客が叫び声を上げた。

隣に立っていた店長が、フラリと崩れ落ちた姿が視界の端に映った。

だが、綱吉はそれどころじゃなかった。

痛い、痛い、痛いんだよコンチクショウ!てめーオレに何の恨みがあんだよ!言ってみろよ!

目が合った。ぎらりと光った黒い瞳が、自分を見つめている。綱吉は戦慄した。

 

「テメー夕方オレのプリン喰ったろ」

「・・・・・・・・は」

「帰ったら覚えとけよ」

 

周りに聴こえない小さな声でボソリと言い残し、男は優雅に去っていった。

レジには万札がポンと置かれている。

客はうっとりして頬を染めて入り口を見ているし、店長は明らかに気絶していた。

が、綱吉はほんとーにそれどころじゃなかった。

手が真っ赤に腫れている。思わずブルリと震えた。

 

帰ったら、殺される・・・・・・・・・・・・!!!

 

 

どうしよう。

今日、山本ん家、泊まろうかな。

 

 

ポケットの携帯が震えた。

嫌な予感がして、本当はダメなのだがこっそり覗き見る。

 

『帰らねーと十倍返し』

 

(あの男怖えェェェェェ!!!!!)

綱吉は真っ青を通り越して真っ白になりながら、とりあえずプリン三個買って帰ろう、と思った。