瞼の裏が明るい。
リボーンは目を開けた。
もぞり、と体を起こす。
慣れない香りに隣を見やると、女がぐっすり眠っていた。
ああ、昨日寝た女だ。
ぼんやりと思い、時計を見た。
(・・・・・・)
身支度を済ませ、気付かれないよう部屋を出た。
「あ、お帰りー」
アパートに戻ると、綱吉がお茶漬けを食べていた。
(・・・・・朝茶漬け)
「リボーンも食べる?」
「食う」
ちゅんちゅんと囀るスズメの鳴き声を聞きながら、男二人、狭いキッチンでお茶漬けを啜っていた。
「・・・仕事、まだ行ってないの」
「そのうち戻る」
しれっと返すリボーンに、綱吉は溜息をついた。
「よくわかんないけど、周りの人探してんじゃないの」
「まーそうだろうな」
「・・・・・・・お前って・・・」
「気にすんな。禿げるぞ」
「禿げねえよ!」
「ツナ」
「んー?」
「もし仕事に戻ったら」
「うん」
「自宅に帰ろうかと思うんだが」
「うん?うん」
「お前の都合つく日を言え」
「・・・うん?」
「業者に連絡しないといけねーからな」
「何が・・・?」
「だから、引越し」
「・・・・誰の」
「お前の」
綱吉は口を開けた。
リボーンは顔を顰めた。
「汚ねーぞ」
「あ、ごめん」
口の周りを吹きながら、寝起きの頭で考える。
「・・・」
わからない。
「あのー・・・・・、何でオレが引っ越すの?」
「誰が俺の飯を作るんだ」
今度こそ、綱吉は呆気に取られた。
なんだ、コイツ。
どこの王様だよお前。
「じゃ、行ってくる」
「、行くって、どこに」
「仕事」
「!!」
「『リボーン様、復活』だ」
ニヤリと笑って、漆黒の男は出て行った。
(あの男は勝手過ぎる!)
綱吉は憤慨していた。
今日だって朝帰りしたんだ、どーせどっかの女のとこに決まってる。
その人とかと暮らせばいーじゃねーか!メシ作ってもらえばいーじゃねーか!!
そこまで考えたとき、綱吉はいつかのリボーンの言葉を思い出した。
『女は面倒くせー』
何とも腹立つ言葉だ。
綱吉は茶漬けの残りを啜り、溜息をついた。
タクシーの中で、リボーンはつらつらと考えていた。
社長とマネージャーにぶっ殺されそうだな。
まー、何とかなるだろ。
コートのポケットに手を突っ込むと、指先に硬いものが触れる。
取り出した。男物の香水だ。
(・・・アイツか)
今朝方寝た、名も知らぬ女がこっそり入れて置いたのだろう。
意味もない執着心の現われに、リボーンは鼻を鳴らした。
最近、綱吉のアパートに戻るのが、どこか息苦しかった。
あの呑気な顔で躊躇せず突っ込む男と一緒に過ごすうち、リボーンは時々自分のペースが掴めなくなるのに気付いた。
朝はトーストとサラダ、ハムエッグ、最後にエスプレッソと決まっていた。
茶漬けなんて考えたこともなかった。
コンビニプリンなんて、論外だった。
意外といける自分に驚いた。
それを甘んじて、どこか喜んで受け入れている自分。
以前の自分はそんな男ではなかった。
リボーンは舌打ちした。
運転手がびくりと肩を震わせたが、スルーした。
恐らく、あの空間がいけないのだ。
二人で暮らすには狭すぎる、あのアパートが。
時間の流れも雰囲気も全て、所帯じみている。
だったらこっちのペースにすればいい。
自分の領域なら、己が崩れることは無い。
リボーンは妙な対抗意識を持っていた。
ペースどうこう以前に、『一緒に暮らす』前提には、何の疑問も抱かずに。