どこだ、ここ。



綱吉は理解できなかった。

傍ら、『二十代〜三十代の女性に聞きました!最も抱かれたい男ランキング1位』の男は、非常に機嫌が良さそうに口笛を吹いている。

「・・・・・・・・・・・・・・あの、」

「リビングの向こうにはダイニングとキッチンだ、使ってねえからキレイだぞ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あの」

「部屋は奥だ、お前は客間でも使っとけ。もったいねえが他に部屋も無えしな」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」





目が覚めたら、所々に茶ばんだシミが見える慣れ親しんだ木目の天井の代わりに、真っ白な色を背景にした、小さな、シャンデリアチックなライトが見えた。しかもかなり遠くに。

慌ててガバリと跳ね起き目を擦るも、やけに高級そうなセンスの良い調度品やら壁一面に広がる大きな窓やらは一向に消える気配を見せず、自分がモフッとした大きなソファに寝ていたことに気付いたとき、奥のドアを開けて覗かせた顔はもはや見慣れたものだった。

呆然としている綱吉にリボーンは「お、起きたか」とのんびり声をかけ、そしていきなり説明を始めたのだ、どうやらこの建物、この部屋の間取りを。

「りぼーんさん・・・・・・」

「どーした、ダメツナ」

いろんな突っ込みどころもスルーして、綱吉は自分の疑問解決に全力投球した。

「ここ、どこ?」

「俺の家だ」

なんとなく感づいていたことを言葉に表され、綱吉は「あ、やっぱりね」と少しテンションが下がった。

「オレ、何でここに居んの」

「寝てたから」

「意味わかんねー!」




以前の会話の後、それとなく話題を避けていたら、向こうも話を振ることはなかったので安心していた。


てっきり、『一緒に暮らそうぜ』うんぬんは、アレは冗談だったんだなあと。

一ヵ月後にいきなり不意打ちが来るとは。恐るべしリボーン。


立ち上がった綱吉を見て、リボーンは声をかけた。

「トイレは廊下の奥だ」

「違っがう!かえるの、家に!」

途端に『訳がわからない』といった風に眉を顰められたもんだから、綱吉は余計に腹が立った。

「何言ってんだお前、」

「もうお前とも会う事もないかもね、まー仕事に無事戻れておめでとう会もしたし、十分」

「ありゃーワンカットケーキにろうそく一本立ててテメエが歌っただけじゃねーか」

「祝ったからいいだろ!もう、いい!オレをお前のペースに巻き込むな!オレは一般人のダメツナ!」

一方的に捲くし立て、最後は自分のダメさを一生懸命言い聞かせて、綱吉はビュン!と部屋を出て行った。

リボーンはポカンとした顔をしていたが、ニヤリと笑った。

世の中の女性がそれを見ていたら『クールだわ!』と赤面し、綱吉がそれを見ていたら『何を企んでんだお前ェェ!』と叫ぶに違いない顔だった。








「うそだろオイ」

高級マンションの最上階から脱出した綱吉は一人、『元』木造アパートの前で佇んでいた。

そこは見事に潰れていた。比喩でなしに。

「ここのアパート、昨夜不審火で全焼したんですって」

「ウチも気をつけなきゃねえ、死人は出なかったみたいだけど」

「大家の方が重症らしいわよ、逃げ遅れたんですって」


道端で大きなヒソヒソ話をしているおばちゃん達の声が、右耳から入って左耳から出て行った。

残骸を眺めながら、人の良さそうで、でも不幸なオーラを背負っていた大家のおじさんを思い出した。


まじですか。









「で?」

「住まわせてください」

組まれた長い足の元、綱吉は土下座していた。

美しく輝いている床は綱吉の苦渋に満ちた顔を反射し、綱吉は「誰が床を磨いてんだろう」とどーでもいい疑問を持った。

「俺は呑気に寝てるお前を避難させてやったんだぞ」

ビクリ、と綱吉の肩が揺れる。

椅子に座ったまま、リボーンはお構い無しに続けた。

「『もうお前とも会う事もない』、だっけ」

「スイマセンでした」

「『お前のペースに巻き込むな』とか聞こえたような」

「申し訳、ございませんでした」

「男一人抱えて、寒空の下、ああ、風邪ひいたかもしれんなあ」

「嘘付け、この・・・」

「何か言ったか?」

「いえなんでも」

もはや主従的な位置になっている。最悪だ、と綱吉は胸の内で嘆いた。


「ま、とりあえず」


無遠慮に面白がった笑い声で、リボーンは言った。


「コーヒーでも入れろ、家政夫」

「了解です、ご主人様・・・・・・」


自棄でノッた綱吉にリボーンはギャハハと笑い声を上げ、綱吉はウウ!と悔しげに顔を潰した。