もうダメなのかな。

 

ベタ過ぎる言葉は笑いを誘うものであったけれど、その時はただ喉から漏れる息を抑えることで精一杯だった。

何言ってんだよ、とか、ばかじゃねえの、とか、いくらでも揶揄できたはずなのに。俺は指一つさえ動かせず、宙を見つめているだけ。

そんな俺の様子を、こいつはどう思ったのか知らない。後ろで荷物を纏める音が、微かに響いてきても、俺は何も言えなかった。

俺が悪いのか。

付き合って初めの頃は、ずっと一緒に居た。空いた時間があれば電話をし、仕事が終われば飛ぶように帰り、休みの日は家の中やたまには外で過ごした。二人きりで。

会社で認められるようになって、家に居る時間も減り、顔をあわせるのが数えるほどになり。

そんな折、重役から結婚を勧められて、相手と何回か食事をして、最近、寝た。

家に帰ると、リビングに一人ぽつんと座りながら、こいつは待っていた。俺を。

ただいま、と言う前に顔をあげたその瞳は、俺を見ていたのか、俺の中の何かを見ていたのか。ぼんやりと虚ろに翳っていた。

 

 

「じゃあ、行くね」

 

 

柔らかい声の後に、ドアが閉まる音。

 

 

こんなにもあっけなく、簡単に、終わった。

 

最初で最後だ、と思っていた、俺の恋。

 

 

 

 

 

 

 

傍でグジュグジュと聞こえる水音に、リボーンはドン引きしていた。

でっかい液晶画面には、これまたでっかく自分の顔が映っている。次いでトップアーティストによる最新曲が流れ始めた。超盛り上がっている。

ここで隣から「うっ、ダメだ・・・!ずびゅっ」と悲痛な嗚咽が。ティッシュじゃ間に合わなくなる予感がして、リボーンはソファの心配を始めた。

 

〜 3分後 〜

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ふー」

綱吉は瞼を腫れあがらせ、満足げに息をついた。リボーンはエスプレッソを飲みながらぼけーとニュースを見ている。

「映画って、凄いね・・・CMだけでこんな泣くなんて、初めてだ・・・」

どんだけ繊細なんだよ。とは突っ込まない。突っ込んだら負けである。この男が外見よりも図太いのを知っている。

リボーンは己に言い聞かせ、テレビのボリュームを僅かに上げた。

「だけどこの監督、すげーなあー。お前なんかが主演なのに、たった15秒で感動を味わえたんだぜ」

ボリュームを上げた。

「ていうか、『リボーン初主演!』てそんな大々的に言うことかー?要は中身じゃね?あっでも相手役は超可愛かったなあーあの子今売れてる若手女優だっけいいなーなんでコイツばっかこんな良い目に」

ボリュームを上げた。リモコンがミシリッ、と軋んだ。

「ていうか『失恋』なんて似合わなくね?ミスキャストじゃ」

バキリッッ!!

 

どこからか●ッドファー●ーのテーマが鳴り響き、綱吉は顔を上げた。途端、ガッ!ともの凄い勢いで顎を掴まれた。

「―――――!!!」

おどろおどろしい形相で、家主が笑っている。口から不気味な音が出ている。白い煙も一緒に出ている。ちょっと大袈裟。

「お前さんは、この可愛いお口を縫われたいのかなァァ?」

「じゅ、じゅびばじぇん」

吐かれた台詞に何か違和感を感じながらも、綱吉は素直に謝った。

リボーンと住むようになって、速やかに謝るのだけは段々と上手くなっているような気がする。

処世術を身につけられるのは、嬉しいのか哀しいのか判断に困るところである。

だが折角謝ったのに一層締め付けられる顎。痛い。かなり痛い。

綱吉は耐えられず、思わず叫んでいた。

 

「も、も、ダメかひゃ?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はっ?」

 

緩んだ手からスルリと抜け出し、慌てて距離をとる。リボーンは意味がわからない、といったように眉を顰めて見た。

「もう、ダメ、かな」

「・・・・・・・・・・・・・」

「オレたち」

 

 

絶句するリボーン。綱吉は息を荒げながら、リボーンを見つめた。

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・俺が悪いのか」

 

その言葉を聞き、綱吉はにやんと笑う。

「荷物纏めてくる!」

「ほざけ」

ソファから飛び出そうとした足を反射的に引っつかむと頭から落っこちて白目を剥いた綱吉がその内本気で出て行きそうで、ちょっぴり薄ら寒くなった。