ブラウン管の中のリボーンをぼーっと眺めながら、綱吉は手の中のグラスを呷った。

女子アナの問いに笑顔で答える男をねめつけ、テーブルの上に散らばった書類を見た。じっとりとした目つきである。少し気持ち悪い。

一番上の紙には、やや大きめの文字で「ボンゴレ芸能の沿革」と書いてある。そばにはやたらファンシーな封筒。会長直々からのお手紙だ。中身には、ボンゴレのことが少しとリボーンに対する思い、綱吉に対するかなり熱いメッセージが書かれてある。

「………………はあ……」

溜息は誰も聞いちゃくれなかった。

 

 

 

 

「どう思う」

「いいんじゃね?」

その答えを聞いて綱吉は心の底から溜息をついた。親友の山本は「どーしたんだよ」とか言いながらバシバシ背を叩いてきて、思わず咽た。

「でもなあ、オレ、このままじゃいけない気もするんだよ」

「……どういう事だ?」

「うーん、山本は夢をかなえてるじゃん。獄寺くんや、お兄さんや、雲雀さんだって、自分の信念や目的を持ってちゃんと生きてるのに、オレは」

何だか、すごく流されているような気がするんだよ。

呟く綱吉の表情は哀愁が漂っていた。山本はひとつ唸った後、「それでもツナはツナだろ。そのままのお前を認めてくれる場所があるってすごいことじゃないのか?」と言った。

「……そうかも、」

その言葉に少し胸が軽くなった。それでもまだ腑に落ちないのは何でだろう。

 

ボンゴレの会長が尋ねてきた日は、綱吉にとって記憶に残るベストテンに入る日でもあった。

わざわざリボーンの居ない隙を狙って『沢田綱吉』に会いに来たのだと微笑んだ初老の男性は、玄関先でいきなり土下座をかましたのである。

「ちょ、ちょ、ちょ!?」

「頼む、沢田君、いやツナ君」

馴れ馴れしいなと思ったが口には出さなかった。そして老人はこう言ったのだ。

「うちのリボーンと、生涯を共に歩んでくれまいか」と。

 

 

 

「初め聞いた時は変な想像して気絶しかけたけど」

「俺はテレビぶっ壊したな。ちょうどあの男が映ってたから」

あ、だから受話器の向こうで爆発音がしたのか。ようやく解き明かされた謎だが、山本って結構リアクションでかいんだなあと呑気に思った。

「マネージャー、か……。給料とか保障もしっかりしてんだろ?悪い話じゃないぜ」

「うーん」

だって、一生アイツと一緒に仕事するんだよ。一生一緒にいるんだよ。それってどーよ。

嫌なわけじゃなかった。偶然とノリで一緒に暮らすことになれるのには時間がかからなかったし、もう家族みたいなもんだと思っている。多分。

でも、本人に許可取ったわけじゃないし、なぜか本人抜きに話を進めたがっている様子だった。

そして、マネージャーという仕事。自分がこなせるのだろうか。ていうか正直、魅力をあまり感じない。どうしよう。わからん。自分の気持ちが見えない。

 

綱吉は悩んでいた。

周りの騒音(「ねーっアレって山本じゃない?●●球団のエース!」「きゃーホントだ超カッコいい!」「へーオフとかここ来るんだ」「お前声かけろよ」「えー緊張する……」「てかあの傍のひと誰」「なんか頭すごくね?」「甥っ子とかそんなんじゃない?」など言われたい放題であった)も全く気づく事無く、綱吉はひたすら悩んでいた。

悩みに悩んで、結論にたどり着いた。本人に聞いてしまえ。

 

 

 

「お、か、え、り〜♪」

「……………………………………」

(頭でも打ったのかコイツ)

珍しく、同居人が玄関先で出迎えていたので、リボーンは気持ち悪そうな顔で靴を脱いだ。

「お風呂にする?ご飯にする?それとも」

どゲシッ!

「気持ち悪い冗談を言うな。俺は今とても疲れている」

「……………はひ」

一瞬で復活し、とりあえず夕食の準備〜♪と口ずさんでキッチンへと向かう綱吉。リボーンは首を傾げた。

 

 

「……………………あのー」

「何だ」

「リボーンて、自分の今の仕事、どう思ってる?」

「天職だな」

「……へー」

「楽しいし」

「楽しいんだ」

「ああ」

「楽しい……」

「……何なんだ?」

「マネージャーさんとも上手くやってんの?」

これだ。一番聞きたかったのは。綱吉は内心びくびくしながら尋ねた。

リボーンはコーヒーを一口飲んで、何でもないことのように言った。

「いない」

「へっ」

「止めさせた。代わったやつは使えなかったからな」

「………………………………へー…………」

「スケジュール管理なんて自分で出来るし。マネはいらねえ」

「…………………………」

ですって、会長さん。

その後もリボーンが何事か言っていたが、綱吉は遠い目で相槌を打っていた。

 

 

 

 

 

「というわけで、折角のお話ですが」「ちょっと待ったァァ!」

急に遮られ、綱吉はムッとした。

「いや、だって本人がそう言っているわけですから」

「ツナくん……………!」

両手をがっきと捕まれ、ドン引きしている綱吉にもお構いなしに、会長は涙を流して頼み込んだ。

「あの子はかなーーーーり気難しくて、マネを勤められる人間が限られてくるんだよ……!日頃から人付き合いにも積極的じゃないし」

「いやあの」

「だから、だからね、同棲している綱吉くんにならオープンになるだろうし仕事にも一層熱が入るに違いないし」

「いや同棲て」

「一緒にサプライズしようじゃないか!哀れな老人を助けると思って………!」

いい年してドッキリかよ。だから本人には何も言ってなかったのね。と思ったが、綱吉は黙って一歩下がった。

爺さんの目からぼろぼろとチワワのように零れる涙を見ないようにしながら(見たらきっと情に流されるに違いなかった)綱吉はきっぱりと言った。

「オレにはもったいない話です。ふさわしい方は他にいらっしゃいます。失礼します」

バタン、と閉めたドアの奥から、「つ、つ、つーくん……………!」と悲痛な叫びが聞こえてきたような。

(気のせい気のせい)

 

 

 

 

 

「……………………はああ」

「あらどーしたのお兄さん」

「明日が見えない………」

あらそう、と明るく返されて、綱吉は顔を上げた。どこぞから屋台を引っ張ってきたガタイの良いモヒカングラサンの兄ちゃんがおでんをよそっている。

固まった綱吉に手招きをし、おでんを置いた。

「食べなさい。何があったかはしらないけど、世知辛い世の中、たまにはあったまらないと」

「お、おにーさん………!」

 

モヒカン=怖い人だなんて、そんな常識くそくらえ!

 

新たに得た『屋台の兄ちゃん=いいひと』という方程式を胸の中でほっこりと噛み締め、綱吉はおでんの汁を啜った。

「うっ!」

「どーしたの」

「うまい……!」

「あらお上手ねェ」