「生涯、愛することを誓いますか」

 

「誓います」

 

柔らかい光の中白いベールに包まれて、柔らかく微笑んだ笑顔。

見守る視線たちは羨望、僅かな嫉妬、それを上回る心からの祝福。そして、

 

絶望に満たされたひとつの、顔。

 

 

 

 

沢田綱吉はひたすら顔を強張らせていた。隣に座る獄寺隼人が時折気遣うように視線を寄越してくるが、心遣いに応える気力も無い。

人生で一番、不幸な瞬間を迎えている、と確信していた。

 

中学の時からずっと想い続けていた女性が、今日、結婚する。てか、してる。

 

眩しいほどの白の中、女性は人生で一番美しい、綺麗な表情をしているだろう。綱吉は見ることが出来なかった。見たらきっと泣く。

自然と視線は相手の男へと向く。スラリとした長身、輝くオーラか何だかを放ちながら佇む男は、こちらも中学から思いつづけていた人物だった。

但し、想い人とはかなり逆の方向で。

綱吉は男の背を睨みつけた。絶対に気付いているであろうヤツは真正面を向いたまま微動だにしない。

そういう男だ。クソッタレ。

 

綱吉は唇を噛み締めた。

膝の上に置かれた拳はカタカタと震えていたが、止めようとは思わなかった。

 

いやだ。京子ちゃん。どうして。

 

こんなことなら、死ぬ気で、

 

 

 

『告っときゃー良かったって?』

「!!!??」

 

思わず振り向いた。バージンロードの上に見えた、一つの影は。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

『天使だ』

「マジで!?」

『マジだコラ』

 

突然現れた金髪碧眼少年(推定30センチ)は浮いていた。綱吉は状況を一瞬忘れ、喉から出そうな心臓を引っ込めながら鳥肌を立てた。

そっと周りを見渡すと、なぜか真っ暗になっていた。しかも皆、止まっている。

『時間を止めたんだ』

「な、なんだって!」

『その方がイロイロ都合がいいからな。便利だろ天使って』

少年は淡々と言葉を紡ぐ。背中の羽が可愛らしかったが、綱吉は妙に違和感を感じた。こう、もっと、殺伐としたものが似合いそうに思ったのだ。

『中学の時からずっと物陰で見つめて7年、手紙を書いては破り捨てた回数108回、笹川京子に話しかけようとして目の前の男に邪魔された回数695回』

「!!!」

『お前、未来を変えたいか?』

「な、なにを」

『そんなぁー、アナタのぉー、願いを叶えます!』

突然の裏声で叫びだした少年はなにやら棒状のものを取りだした。先端にはちゃっちい星。この上なく怪しさ爆裂!

『これは魔法のステッキなんだ』

「怪しッ!しかも古!てか無理あるよ!」

『これを一振りすればあーっという間に・・・』

「・・・・・・・・・・!(ごくり)」

『過去へ戻れる』

「デタラメ言うなァァァァァ!」

『試してみるか?』

爛々と瞳を輝かせながら、少年は口の端を上げた。

『テメー次第では過去を変えることによって未来を変えることが出来る。もしかしたら京子と結婚、できるかもだぜコラ』

徐に手を振りかざす。スポットライトが当てられたように少年の周りだけが明るく、星は胡散臭げに輝きを放った。

『いってらっしゃい見てらっしゃい、ちちんぷいぷいシャランラー!コラ!』

「何だそりゃああぁぁあああああ――――ッッ!?」

 

叫びながら消えていった男が居た空間を見ながら、少年――もとい、天使はニヤリと笑った。

『変えろよ。未来』

 

 

 

 

 

 

 

「――――ぁぁぁっぁあぁあああああッッ!?」

 

いきなり外に居た。綱吉は叫びながら呆然と上を見上げた。どこかの建物、の、屋上だ。

しかも妙に懐かしい景色。ここは。もしや?

「ツナ君?」

「――――!!?」

横には笹川京子が立っていた。なんて都合のいい感じ。しかも、懐かしき制服姿。感激のあまり、目頭が熱くなった。

「きょ、きょ、きょ」

「あはは、ツナ君ていつも面白いねえ」

屈託ない眩しい笑顔に、思わず目を細める。

信じられないが、本当に過去に戻れたらしい。

 

これは。チャンスだ!

 

「きょうこちゃん!」「は、はい!」

滅多に出さない大声を出し、いやに真剣な表情をキメた綱吉につられ、京子は背筋をシャンと伸ばして両手を体の横につけた。

「じ、じつは、――――――――おれ!きょ、きょ、京子ちゃんのことが」

 

「青春ゴッコか?」

 

「――――――――――――――――!!!!!」

「あ、リボーン君」

 

どこから現れたのか、目の前には一人の少年が佇んでいた。もう何千回と見た顔だ。その綺麗な肌の下には、悪魔のごとき鬼畜な本性が隠されていると綱吉は常々思っていた。

そうだ。確か中学の時、この光景は見たことがある。

オレが京子ちゃんと話してるとき、またコイツが邪魔をしたんだ。そのせいで京子ちゃん、先に教室に戻っちゃって!確か通算132回目だった、邪魔されたの!

 

いちいち数える己もどうかと思うが、飽きずに間に割って入ってきたこの男もよくわからない。

大体、自分からは積極的に話しかけることもそれほど無かったくせに、オレが京子ちゃんと話そうとするときだけ必ず邪魔してきやがったんだ!

 

苦悶の表情で頭を抱えた綱吉を他所に、リボーンと京子はなにやら仲睦まじげに話している。

ようやく葛藤から抜け出した綱吉は、ハッとした。このままじゃ、また同じだ!リボーンと京子ちゃんが、結婚してしまう!

 

「オレ!」

思い切り声を張り上げた綱吉を、二人はぎょっとした顔で見た。

綱吉は少し怯んだが、決意は変わらなかった。

「す、」

思い切り息を吸う。

 

「好きなんだァァァァ!」

 

その告白は校舎中に鳴り響き、某風紀委員長はティータイムを邪魔されたと憤慨していた。

 

 

 

 

「ぜー、はー」

「・・・・・・・・・・・・・・つ、つなくん」

京子は顔を赤くして、綱吉を見つめていた。傍に立っていたリボーンは、珍しく呆然としていた。

 

やった。やっと、想いを。告げられた。

まさに、七年分。長かった。

 

胸の内の何かをじーんと噛み締めていると、京子が顔を真っ赤にしたまま、ふるふると震えだした。

「――――――――――――!」

(もしや、拒絶反応!?)

よく考えたらその確率の方が非常に高い。綱吉は青褪めた。告白したら状況が良くなると一瞬でも信じた自分を呪いはじめたその時!

 

「お、おめでとう・・・・・!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は」

「良かったねえ!リボーン君、嫌われてたわけじゃなかったんだね!」

バシンバシンとリボーンの背を叩きながら、京子はもの凄く嬉しげに興奮していた。リボーンはひたすら呆然としている。綱吉は全く状況についていけず、二人を交互に見やった。

「ツナ君とリボーン君いつもケンカばっかしてたから、ちょっと気になってたんだ。でもツナ君、リボーン君のこと好きだったんだねえ」

「え、え、え、え?」

「『オレはツナに嫌われてるから』って、リボーン君の言葉に反応しちゃったんだねえ」

「は、いやその、え?」

二人の会話は全く聞いてなかった。が、どうやらリボーンが自分に関してなにやら言っていたらしい。

何て!何て、間の悪い!

「いや、京子ちゃん今のは」

「ほんとーに良かった!じゃあ私、教室戻るね」

京子なりに最大限に気を利かせ、なぜか足取り軽く去っていった。

スキップする京子ちゃんもかわいい!と思いながらも、綱吉は落涙していた。かみさまってひどい。

「――――お前のせいだからな!お前がよけーなこと言うから、・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」

キッ!と振り向いてリボーンに怒鳴りつけた綱吉は、男がなにやら様子がおかしいのに気付いた。

ずっと固まっている。なぜ。

「おい、無事?」

目の前でひらひらと手を振る、だが反応は無い。

「おーい!」

バチン!今度は目の前で手を叩いて見た。リボーンは瞬いた。

「おい、どーしたんだよ」

訝しげに近付くと、途端リボーンは後退さった。口を押さえている。なぜか真っ赤。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

非常に嫌な予感がした。

「おい、もしかして、何か誤解」

 

暗転。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、――――――――!!!」

気がつけば、其処は光の中だった。

逆光で見えにくいが、目の前には僅かに影がある。十字の形をしていた。

『未来は変わったぜ』

声が聞こえ、慌てて周りを見渡そうとすると、鋭く止められる。思わず体を固くした。

『もうオレの役目は終わりだ。まあこれもアリだ、これからは末永く、お幸せにな』

「ちょ、待て!オレ何も出来なかったんだけど!」

「汝、この男を愛すと誓いますか?」

「誓います」

「――――――――!!!!!!」

隣から聞こえた声に、思わず全身の毛穴が開いた。

京子ちゃんの可愛らしい、鈴のような声色ではない。

どっちかといえば、そう、低くてよく響く、女の人にとても騒がれていた――――

 

 

「それでは、誓いの口付けを」

「ふんむぐぐぐぐ!!!」

神父が言った途端に容赦なく、口内にぬるりと入ってきたものに、綱吉は蹂躙された。目の前にはどアップで顔。しかも、この顔。この、顔!!

 

いや、まさか。嘘だろ?

 

「お前はもう、俺のもんだ。髪の毛一筋までな」

唇に触れたまま。その声が体に響いてゆく。

ツンとたった前髪が白い指先に遊ばれるのを、どこか人事のように視界に入れた。

 

歓喜溢れる雄たけびの中、(一角からは悲鳴も聞こえた)目の前でニヤリと笑った男の顔を見て、綱吉は気絶した。

 

 

 

 

 

 

ツ ッ コ ミ  は 聞 か な い !

(このドラマ、見たことないです)