海岸沿いを歩きながら、獄寺は空を見上げた。
いい感じに快晴、曇った表情も見せる様子は無い。
ビュオッ、と風が吹き、髪を靡かせた。纏めれば良かったと思いながら掻き揚げる。
「ごくでらはやとおー!」
遠くからの最愛の人の叫び声を拾い、声の方を向いた。 遠くから綱吉が走ってくる。
(転びそうだな)
思った瞬間躓いて一瞬焦る。が、すぐに起き上がって笑顔を向けてきた。
(うわ、)
綱吉の一挙一動は獄寺の心を揺さぶる。その度にどうしようもない切なさと愛しさに満たされて、獄寺は胸を押さえるのだ。
「獄寺隼人、元気?」
「元気ですよ。ところでどうして今日はフルネームなんですか」
「何となく」
えへへ、と笑った綱吉の鼻の頭に砂が付いていた。獄寺は「十代目」と言って優しく払う。
「ありがとう」
「どういたしまして」
「獄寺隼人、は、優しいな」
海を見詰めながら言葉を落とす目の前の人間は、自身が柔らかく温かく獄寺を包むことを自覚している様子はない。
くす、と獄寺は笑った。
離れた所に、一組の男女がいた。
女が男に何やら強請っている。男がしぶしぶ、といった様子で徐に動き――
「おお、すげえ!オヒメサマ抱っこしてる!」
「バカップルですねー」
女の方はとても嬉しそうに笑っている。男は無表情だが、遠目にも顔が赤いのがわかった。
「ねえ、オレにも何かして!」
途端、獄寺は顔を顰めてみせた。だが、綱吉はそれが照れ故のポーズだと知っている。
「嫌ですよ、横抱えなんて・・・恥ずかしい」
顔を赤くしながら抗議だなんて、説得力が無い。
「照れ屋だなー。それに、アレじゃなくて、」
ちょっとしゃがんで!と一方的に言い放って、綱吉は獄寺の後ろに回った。
獄寺は頬が緩まるのを必死に押さえながら、しぶしぶ、といったようにしゃがむ。
途端、頭と肩に衝撃が来た。
「ちょ、十代目!」
「えっへへへー」
(だめだ、ホント可愛すぎる)
獄寺は綱吉を肩に乗せたまま、首の横から生えた太腿を掴んでゆっくりと立ち上がった。
「どうですか?」
「すげー高い!」
綱吉は先ほどより十割増しでテンションを上げている。
獄寺の頭に手を置きながら、すげーすげーと無邪気に笑うその様子は中々見れないものだった。
「あはは、さっきの女の人、オレ達のこと指差してる」
「彼氏に強請ってますね。俺達の勝ちです」
二人して笑いながら、海を見ている。
こんな他愛も無い時間が、どれだけ幸せだろうか。
獄寺は不覚にも目頭を熱くさせた。
「獄寺隼人、走れー!」
「え、マジっすか!」
言いながら海岸を駆け出す。
ぎゃははは!と男二人の笑い声が響いた。