朝の空気が好きだった。
ピン、と張り詰めた、透き通った、精錬された、清清しさ。
散歩をするのは、ここ最近日課になっていた。
近くの公園に入ると、ジョギングしている年配のおじさんに出会う。
もう顔見知りになったその人に会釈をしながら、綱吉はベンチに向かった。
ああ、そらがとおいなあ。
唐突に、綱吉は泣きたくなった。
先日、両親が亡くなった。
奇しくもその日は、綱吉の誕生日の日だった。
綱吉の誕生日プレゼントを二人で選びに行った、その帰り道でのことだった。
生活に無気力だった綱吉を心配して、両親は日々話し合いを試みた。
それに反発した綱吉は、両親のことを毛嫌いし、引きこもり気味になっていった。
だが、両親の真摯な姿勢に、次第に心を打たれていった綱吉は、ついに、両親と話し合った。
泣きながら「ごめんなさい」と繰り返す綱吉を、家光と奈々は思い切り抱きしめた。
その夜は、三人で泣いた。
家族が生まれ変わってから、始めての誕生日だった。
登校間際、「別に何も要らないから!」と、照れくさくて大声で怒鳴った綱吉を、奈々は笑顔で送り出した。
「気をつけてね、早く帰ってきなさい」、と。
綱吉は、無意識に手を握り締めた。
その途端、手の中の感触に気付き、あわてて力を緩める。
手の中には、バースデーカードがあった。
事故当時、原型をほとんどなくした車のそばに、奇跡的に燃えずに残っていた。
「綱吉へ
お誕生日おめでとう。
生まれてきてくれて、ありがとう。
これからも、よろしくね。
愛してます。
家光・奈々」
「愛してます」だなんて、ロマンチストな父さんと母さんがいかにも言いそうだな。
なんだよ、恥ずかしいじゃんか。
思わず笑ってしまったのを覚えている。
とうさん、かあさん。
あなたたちの言葉は、残ったのに。
温もりが、伝わらない。
プレゼントなんて、いらなかったよ。
なんで、いないの。
とうさん、かあさん、
「大丈夫か」
顔を上げると、男が立っていた。
顔がよく見えない。
「なにが」
「涙」
言われて、自分が泣いていることに気付いた。
「こんな朝早く、中学生が何やってんだ」
「別に」
どうでも良かった。
親戚はオレを引き取るか施設に預けるか、揉めている真っ最中だ。
自分がどうしたいと言ったところで、聞くような人たちじゃない、と思った。
「奈々はいい女だったな」
家光なんかにゃもったいなかった。
綱吉は、信じられない気持ちで目の前の男を見詰めた。
涙は止まっていた。 この男は、両親を知っている。
黒スーツを着こなした男は、綱吉に向かってニヤリと笑った。
嫌な感じはしなかった。
「お前、俺んとこ来るか」
綱吉は間抜けな顔をした。
男はそれを見て声をあげて笑った。