「ツナ」
リボーンの口から出た己の名前は、何だかいつもと違う響きで。
綱吉は瞬いた。
珍しく、リボーンが言った。
「散歩でも行こうか」
綱吉は新しいゲームに夢中だったので、上の空に返事した。
「いってらっしゃい」
両耳を引っ張られて、すぐに終わることになったけれど。
「イタイイタイこのバカ!あ、嘘ですスイマセン」
「わかればいーんだ」
土手を歩く。
いつかの夕暮れを思い出し、綱吉は隣に並んでいる男を意識した。
あの後、永久就職なんて言ってしまった己を恥じたが、最近は一層それが恥ずかしく思えた。
唇にそっと指を添える。
薄い肉はガサガサだった。
「学校はどうだ」
「へ」
いきなり声をかけられ、よろけた。
「何してんだ」
呆れたように言われながら、腕を掴まれる。
思わず、体が硬くなった。
リボーンは一瞬動きを止めたが、何も無かったように支えた。
「ぼーっとしてんな」
「、うん」
夕陽が真っ赤に燃えている。赤い。
綱吉はサラサラと、穏やかに流れる川を見詰めた。
掴まれた場所が、熱い。
「楽しいよ、獄寺君も、山本も仲良くしてくれるし」
「そうか」
沈黙が落ちる。
それは穏やかで、どこか切ない空気だった。
何なんだろう。
自分がわからない、と思う。
後見人である男に対して、時折感じるようになった、感情。
あの事故のような接触があってからだ。締め付けられる。
こんな気持ち、知ることも無かった。今までは。
綱吉は何となしに上を見上げた。
きらりと光るものを見つけ、意図せず大声を上げる。
「あ、一番星!」
クツリと笑った声が聞こえ、顔を赤らめた。思わず隣を睨む。
口元に手をやったリボーンが、こちらを見ていた。何かが満ちた、眼差し。
「あれは宵の明星だ。金星」
「ふーん」
恥ずかしい。そんな目で見るな、と言えなかったので、自分から顔を逸らした。
未だ笑う気配を感じたが、無視してずんずん先へと歩く。
リボーンの目。『慈愛』だ、と気付いた瞬間、視界が曇った。
綱吉は涙を堪えながら、この気持ちが何なのか、唐突に悟った。
何とも理不尽だとは思うが、自分の気持ちを認めてしまった。
オレは。この男が好きらしい。
理由なんて知らない。
根拠なんて、全神経が男に集中しているかのように錯覚することだけだ。
「ツナ」
リボーンの口から出た己の名前は、何だかいつもと違う響きで。
綱吉は瞬いた。
「何?」
やや間を空け、振り向く。
リボーンの顔は、夕陽に照らされて真っ赤に染まっていた。
「お前、幸せか」
何でそんな事聞くんだろう。
疑問を口にすることはなく、首を縦に振った。
「そうか」
後見人のほっとしたような、どこか哀しみを帯びた表情が、色鮮やかに目の奥に焼きつく。
綱吉は空気を振り払うかのように、「変なの」とそっけなく、大きい声で叫んだ。
その後リボーンに小突かれ、そのことに安心しながら土手を歩く。
平和な日々は淡々と過ぎ。
そして、彼は、唐突に。
少年の前から、姿を消した。