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獄寺は悩んでいた。

綱吉に一週間口を利いてもらえなかったことはもう解決した。

綱吉は泣きそうな顔で、「ごめんね」と謝ったから。

その時の顔を思い出して、獄寺は胸をきゅんとさせた。

 

アレ以来、綱吉は人が一定範囲以内に近づくと、少し警戒気味になる。

獄寺の目には、少なくとも己にも山本にも距離を保っているように見えた。

まあ、それは自業自得なので、多少は仕方ないと思う。

だが、今の状況下では、ちょっとツライことになっていた。

獄寺は、綱吉に触りたくて触りたくて仕方なかったのだ。

あの時、舌で感じた耳の感触、頬の温かさ、そして手で撫でたときのつるんとした脇腹の感触、どうにも忘れることが出来ないのだ。

授業中、綱吉の首筋が見えた時は、騒動直後の自分の付けた跡のことを思い出し、そしてさらにその時の綱吉の火照った頬や焦点の

定まらない瞳を思い出す。

体育の準備に着替えているときは、その白い肌を見て触れた感触を思い出し、そしてさらに以下略。

 

といった具合なのだ。

思い出すだけならまだしも、夜な夜な夢に出てくる。毎日。

明け方はいつも溜息をつく状態になる。

精神的にも肉体的にも限界を迎えていた。

 

思い余った獄寺は、一番近い解決法を取った。

 

 

放課後の教室。

「触らせてください」

「却下」

途端、獄寺は情けない顔をする。

綱吉は呆れた顔で獄寺を見た。3m離れたところで。

「今日はこれ以上近づかないように」

「そ、そんな、ご無体な・・・・・・・・・!」

(ていうか、ストレートに言いすぎだろ!こっちが照れるっつうの!)

ようやく、「過去のことはもうどーでもいい、忘れよう」と自己完結したところなのだ。

わざわざ、再び思い悩む種を作ることはない。

「・・・・・・ていうか、なんでそんな触りたいの?別に普通の、しかも男の体なんだよ!」

獄寺はきょとんとした。

「なんで・・・・・・・・・・・・・・なんででしょうか??」

綱吉はびっくりした。え、理由もなしに本能のままなの!!すごく獄寺らしい。

「うーん、理由はよくわからないんですが、十代目に触りたくて触りたくて仕方ないんです」

「なにそれ!手触りの良い高級毛布を触りまくる主婦かおまえは!」

「(聞いてない)十代目・・・」

「・・・・・・・・・・・!!!(なんか、逃げた方がいいような・・・!!)」

獄寺は、じり、じり、と、両手を前に出して捕まえる体制でこちらへ向かってくる。

瞳は「キュピーン」と光っている。

綱吉は、蛇に睨まれた蛙のごとく、動くことが出来なかった。

もはや顔面蒼白だ。

(たたたたたたたたたたすけてええええ!!)

 

「じゅーうだーいめ!」

えへ!と言いながら抱きついてきた。

最高に気持ちが悪い。

綱吉はしばらく暴れていたが、疲れて大人しくなった。

非常に複雑な心境だ。 こういうスキンシップにはあまり慣れていないのに、獄寺も山本もやたらと構いたがる。

「あの、前みたいに変なことはしないので、さいきんおれ、だめなんです」

獄寺の声が、急に蚊の鳴くようなそれになったので、綱吉はぎょっとした。

「なんか、いらいらするんです。タバコ吸ってもダメで、地に足が着かないというか、すごく落ち着かなくて」

獄寺は言った。

「あの、絶対、絶対変なことはしないので、・・・・・・・・・・・・・・・・ちょ、ちょくせつ・・・・」

 

こんなことになるとは思ってもみなかった。

だが、その原因は、何だかんだ言って許容してしまう己が一番悪いのではないか、と綱吉は思った。

放課後の教室、夕陽が差し込む中、後ろの壁にもたれかかるようにして二人は座っている。

綱吉は、獄寺の足の間に入り、体を思い切り後ろに預けていた。

獄寺の手は熱い。

綱吉を苦しめないように、しかし素肌の感触をその手に焼き付けるかのように、しっかりと抱きしめている。

ちなみに、今綱吉は上半身裸である。

(・・・・・・・・オレ馬鹿だ)なんで脱いじゃったんだろう、これじゃ本当に変態じゃないか。

でも、あんな切羽詰った、哀しそうな獄寺の顔を見たのは初めてだったから、何とかしてやりたい、とほんの少し思ってしまったのだ。

綱吉は恋愛に関して早熟した方ではなかったので、幸か不幸か、獄寺の情欲が混じった濡れた瞳には気付かなかった。

「きもちいい・・・・・・」

獄寺が綱吉の肩に顔を埋めながら、柔らかな、心の底から安堵したような声を出した。

綱吉も、妙な幸福感に包まれたような気になる。

まあ、たまになら、いっかな。

 

 

―――――、いや、だめだろ!なんか絆されてるよオレ!

今日だけ、今日だけ・・・

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・おい」

「は、なんでしょうか」

「なんで撫で回してるの」

「いや、このつるりとした感触をもっと味わいたいと思いまして」

振り向かず、顔に裏拳を喰らわせた。