どうせ、誰もオレを見ない。 昔は其れがとても苦痛で苦痛でしかたがなかった、どうしてオレはダメツナなの、ねえ、どうして、母に幾度も聞いてみたけれど、宥めたり諭したり元気付けようとしたりする母の瞳は、その度にゆらりと揺れて、物心ついた時にその事に気付いたオレは、もう母に何も言わなくなった。 だって、哀しむもの。 ある少年がいた。 クラスでも比較的人気者で、みんなの輪の中でいつも笑っていた。 時々「沢田!」と声をかけてくれ、それによって何とか自分の存在は保たれていた。 オレは感謝したのだ、そして憧れた。 彼はすごい、こんなどうでもいい人間にだって優しさを与えてくれる。 その彼が。 放課後の教室でオレの話題が出た友人たちの中で、『ダメツナ』について熱く語っていた。 アイツは鈍くさい。 アイツは見ててイライラする。 アイツはせっかく自分が声をかけてやったのに、薄ら笑いを浮かべて一言も礼を言いやしない。 甲高い笑い声の合唱が、廊下まで響いていた。 体操着を忘れて教室に取りに戻ったオレは、入り口の影で、ひたすら、佇んでいた。 悟った。 ああ、ダメな人間は、もうどうにもならないんだなあ。 自分がいくら自分を認めてあげようとも、それはたくさんの感情だとかに押しつぶされて、消えてなくなってしまうのだなあ。 それに抗えない、面倒くさい、もうどうでもいい、 疲れた。 だから、『親友』とか、わからないんだって、正直。 昼休みの屋上は、今や三人にとって定番の居場所だった。 いつものように獄寺が売店の妙な新商品を買って食べてみたり、山本は牛乳を飲みながらそれを茶化したり、綱吉は切れた獄寺を宥めたりする。 山本がふと言った。 「来年もクラス、一緒だといいなあ」 終業式まであと一週間だった。 「そうだねえ」 上滑りに答えているのを自覚しながら、綱吉は返した。 「なれますって絶対!」 獄寺は目を爛々と光らせて鼻息も荒い。獄寺はいつだって綱吉を肯定する。綱吉はその事に苛立ちを感じた。今は、特に。 「俺等、親友だもんな」 山本が当たり前のように言って、獄寺は「誰がテメエなんかと親友か!」と返し、綱吉は立ち上がった。 「ツナ?」「十代目?」 「ごめんちょっと」 綱吉は足早に屋上を後にした。残された二人は、綱吉が姿を消した屋上の扉を、ぽかんと口を開けて眺めていた。 「ダメだ」 綱吉は頭を抱えて蹲った。 彼らのキラキラした言葉ひとつひとつ、自分の胸に突き刺さっている。 重い。 自分に向けられる温かい感情のようなもの、それを綱吉は正面から受け止めることが出来なかった。 へらへらとした自分、付き合ってくれる彼ら、何を考えているのか、自分も、彼らも、まったくわからなかった。 うん、そうだよね、だってオレ、ダメツナだもん。 考えたってわかるわけないし、面倒くさい。し、 怖い。 自分は一生、孤独なのかもしれない、と、思春期特有の情緒不安定な思考に陥ったとき、遠くから聞こえた自分を呼ぶ声に、綱吉はどうしようもなく叫びたくなった。 声を押しとどめる。 足音はだんだんと、近付いてきた。 ねえ、ねえ、 オレがもし、 ―――――、ても、 君たちは笑い飛ばしてくれますか。 名前を、呼んで、くれますか。 三秒後には笑顔を見せなければ、と思いながらも、綱吉は真っ赤になった泣き顔で、階段の下、蹲っていた。 |