うわ、

きた。


「―――――――!!!」

突然襲いかかって来た物凄い渇きに、全身が悲鳴をあげた。

荒い呼吸の音が耳元で響いている。否、体の中から聞こえている。

少年は、霞む視界の中、夜空にぼんやりと浮かぶ青白い、丸い物体を睨んだ。

失敗した。早く、家に帰るべきだった。

無意識に唇を舐めて、舌に歯が当たったことに顔をしかめた。痛い。

何だか視界が赤いような気がして、目を擦った。渇きは収まらない。
























「並盛町のリボーン」と言えば、ちょっとした有名人だ。
知ってる人は知ってる、知らない人は知らない、といった感じだが、その規模は一県クラスだった。
ご町内の皆様は、聞けば当然のごとく「ああ、『あの』人ね」と言うし、二週に一度くらいの割合でどっかのお偉いさんがスーツ
姿でにこやかに彼の前に現れる。いわゆる『青田刈り』ってヤツだ。
そんな人気者がなぜ人気者かと言えば、単純に『神童』だったせいもあるし、トラブルメーカーだったせいもあるし、まあそこ
はかとなく目立つ存在だったからだ。
物心ついた時にいつの間にか周囲が騒がしくなっていた事に内心舌打ちを打ったものだが、今はその環境を適宜最大限に利用して
いる。まあその辺りが彼の彼たる所以だ、と、友人Cは語っており、その時隣りにいた当事者と言えばニヤリと美麗かつ恐ろしい
笑みを浮かべていた。




そんな男―――リボーンは、現在、これまでの人生においてめったに遭遇しなかった場面にいた。

危機一髪。










「おい!」

抗議の声をあげてみたものの、無意味だとすぐに悟った。
襲いかかってくる相手は、一見した容貌とはまるでかけ離れた力をもって、己の全身を押さえ付けている。
一瞬でも気を抜いたら負ける。

思った瞬間、全身に走った冷たいものと同時に、込み上げてきたものがあった。

(俺に向かってくるか。いい度胸だ)

僅かな高揚感を脇にのけ、リボーンは相手の腹に足をかけ、力一杯投げ飛ばした。
並べられた机が派手な音を立ててその列を崩し、突っ込んだ少年は呻きながら倒れ付した。

「ぐおっ!」
「何だってんだ!」




珍しく、夜の教室に用があった。

あるクラスの生徒から相談を持ち掛けられて(実は生徒会長なんてやっていた)その教室にこっそり監視カメラをしかけようと
忍び込んだのだ。持ち掛けられた相談は、「最近変な事が起こるんです」。あまりにも抽象的過ぎて一笑に付したのだが、その
生徒――おどおどした学級委員長だ――は、そりゃあもう懸命にしゃべり始めた。
『授業中いきなり、耳鳴りがするんです!それで倒れるひとも出て来て!』
『夜、忘れ物を取りにいった人が、教室中いっぱいにコウモリがひしめいてるのを見たって!』
『それだけならまだしも、いつの間にか怪我してるって人が増えたんですよ!腕やら首やらにちっちゃい傷ですけど、なんだか
不気味で!傷口が独特って言うか、こう、等間隔に二つ刺された感じで、まるで』





少年は、フラッと立ち上がった。その顔が月の明かりに照らされて―――


一番初めにリボーンの目に入ったのは、燃えるような緋の色だった。

(日本人だよなこいつ)


教室に入った途端、いきなり襲い掛かってきたこの人間に驚きつつも、記憶の糸を手繰り寄せた。

が、全く知らない。誰だっけこいつ。恐らくこのクラスの生徒だろう。


だが今目の前にいる生き物は。
まるで、どっかの都市伝説に出て来る血を吸う化け物みたいではないか。



取りあえず、リボーンは話しかけてみた。
「ちょっと聞きたいんだが」
「!」
「最近このクラスで妙なことが起こるらしい。テメーか?」
「いきなりだな!」
意外と元気よくツッコミをいれてから、少年はうなずいた。
「あー、何とかならんのか。耳鳴りコウモリうんぬんはまだしも、生徒を襲うってのはなあ」
「オレだって!いきなりこんなんなって、どーすりゃいいのか!」
どうやら訳ありらしい。
リボーンが近付こうとして一歩足を踏み出すと、なんだか悲鳴をあげられた。
「取って喰うわけじゃねーぞ」
「ちちちち近付くな…」


苦しそうだ、と思った。
と同時に。こう、少しだけ嗜虐心を疼かせた自分に、リボーンはちょっとだけびっくりした。


目の前の少年は、額に汗を滲ませている。
やけに肌が白く感じた。
つ、と小さな水玉が頬を流れ、顎の線を伝って、ぽたりと床に落ちてしみをつくる。


リボーンが固まっているのにはお構い無しに、少年は意を決したような顔をつくり、次の瞬間信じられない台詞を吐いた。

「頼む!ちょっと襲わせて!」

「センセェェェ!このガッコ、変態が居ますぅ!!」
「違う違う!そーじゃない!ちょっそれオレがピー(自主規制)みたいじゃん!」
「世の中には色んな人間がいるよな、世界は広いんだなァ!身をもって知った!」
「ふざけんなァァ!ちょっとした言い間違いにシビアになんのはよせェ!おかーさん泣くよ!?」
「『ちょっとした言い間違い』が『襲わせて』になるかァァ!どこのピピー(自主規制)だテメェェ!!」
「あんま大人用語連呼すんのやめてェ!何だかトラウマになるから!ガラスのハートが粉々だから!あー、もう、面倒くせ!」


そして再び襲い掛かってきた少年は、運動神経が桁はずれのリボーンを吃驚させるような動きをもって彼を再び組み敷いた。

「おいコラテメー!どこ触ってんだ!」
「変な言い方するなァァ!おい、ちょっと暴れんなって!すぐ終わるから!」
「女子高生にハアハアしてるおっさんみたいな言い方はよせ!ッ、」

首筋に顔を埋められ、リボーンは本格的に鳥肌を立てた。
触れる柔らかいものは、想像しなくてもわかる。再び全身を駆け巡ったものは、今度は何かわからなかった。


「ごめん」

僅かな痛み。窓の外に、美しく円を描いた月が浮かんでいた。

そして「忘れて」と呟きが耳に入り、世界は一気に闇へ。



















「ん?」
起きると其処は自室のハンモックの上だった。
朝日が嫌に眩しい。
もぞりと体を起こしながら、床に降り立つ。なんだか、理不尽な感覚が体を支配していた。
昨日の自分の行動が、途中から思い出せない。夜に学校に忍び込んだはずではなかったか?
首を捻りながらも、登校準備に取り掛かった。






「ん」
「!!!!!」

目が合った瞬間、思い切り逸らされた。女子には『キャーリボーンさんと目が合っちゃったあー!』的な感じでよくされるのだが、
今回は男子だ。しかも思い切り青褪めている。何か、気に喰わねえ。

「おい、あいつ誰だ」
「ああ?」
隣で呑気に焼きそばパンを頬張っているコロネロに話しかける。金髪の少年はチラリと視線をやって、「ああ、綱吉か」と言った。
「つなよし?」
「アレだ。沢田綱吉。通称『ダメツナ』」
「知り合いなのか」
「最近話すようになった。結構面白いヤツだぜ」
「・・・・・・・・」
聞いたことはある。何をやっても並以下のヤツがいるぞ、と。
だが何か引っ掛かる。そんな当たり前の情報とかではつくられない、何か。
ぼんやりと形を成しそうで消えていく其れは、リボーンをイラッとさせた。


「おい、どーした」
いきなり立ち上がり歩き出したリボーンの背にコロネロが声をかけるも、振り返らずにリボーンは足を向けた。彼へと。
リボーンがこちらへ向かってくるのを認めた少年は一瞬白目を剥き、僅かな躊躇の後に背を向けて走り出す。
リボーンは、不適に笑った。額には青筋。偶然目にした生徒が恐ろしさでバンザイをした。

なんだ。俺は。だが、アイツに何か報復しなきゃあ気が済まないと思った。後、なぜ『報復』なんだと首を傾げる。
この俺が。記憶は無いが。



胸いっぱいに空気を溜めて、届けとばかりに怒鳴った。

「おいこら待てそこのサイヤ人!!!」

「ぶっ殺す―――!」


遠くから聞こえた絶叫にほんの少し満足感を抱き、リボーンは駆け出した。

もちろん、理解不能の苛々の原因に天誅を下すためだ。



















あとがき補足≫あれ、ツナリボ?最近ブラッドオブボンゴレ(吸血鬼の血)(てきとう)が目覚めた沢田綱吉。超音波、こうもり呼び、血を吸って記憶を消す)
など一気にSFちっくな体質になる。理由は不明。この後はきっとリボーンと色々あって最後はくっつくと思います。(てきとう)
拍手リクをくださった方にささげます、その方のみお持ち帰りください〜こんなんですいまっせええん!