登場人物 (高校生設定)
沢田 綱吉 : 何のとりえもなさそうだがトラブルの渦中に居るかわいそうなひと。リボーンが好きだったが、最後らへんはどうだろう。
リボーン : 男女問わず学校、ご町内の人気者。ちょっと変態。たまに心が狭い。
雲雀恭弥 : 実は校内で最も初心説が一部で囁かれている。趣味はお菓子作り。お返しは絶対手作り派。
獄寺隼人 : 一途過ぎて変態。愛の大きさ故の空回り具合は、周りの同情を誘う。
山本武 : 爽やかさを武器に正当に攻める。好きな相手には良い印象を持たれている。でも「良いひと」で終わりそうな気配。
チッ、 チッ、 チッ、
ポー・・・・・・・・・ン
バリィィン!!
「んなァァ!??」
「沢田さあぁぁっぁぁぁんん!」
日付が変わったその瞬間、窓を叩き割って入ってきた闖入者に綱吉は目を剥いた。
「な、ご、獄寺くん!?」
「こんばんは!夜分に大変失礼します!」
じゃあ来んなよ!とも言えず、綱吉はベッドの上で固まった。
てか、こんなにスマイリーな彼を見たのは初めてだ。嫌にニッコニコしている。なぜ。
「第一印象は、笑顔が大事だと聞きまして!」
聞いてもいないのに勝手に答えながら、非常識人はずずいっと何かを差し出した。
「・・・・・・・・・・・・・・・何ですかコレ」
「何も聞かず、受け取ってくださいィィ!!」
(おい。手編みのマフラーって。しかもハートの刺繍入り)
柔らかなオフホワイトにショッキングすぎるピンクのハートを散らしたそのマフラーは、まるで精巧な機械でつくられたかのように美しく編みこまれていた。
それだけでも眩暈を起こすには十分すぎる材料なのに、ついこの間まで碌に話もしなかった男が顔を真っ赤にし且つ真顔で迫ってくるのだ。ハートのマフラーを差し出して。
綱吉は倒れた。
「!!!」
沢田さァァん!!?大丈夫ですか!?
獄寺の叫び声は綱吉に届くことは無かった。
小鳥のさえずりが聞こえる。瞼の裏が、明るい。何だ。太陽か。てか、寒い。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、――――ハッ!」
ガバッ!と跳ね起きる。自分の部屋に居る事を認め、綱吉は起きて早々安堵の溜息をついた。
「夢か・・・」
何だか夜中に有り得ないものを有り得ない人からもらった夢をみた気がしたが、気のせいか、と綱吉は額の汗を拭った。
窓を見た。割れていた。
「・・・・・・・・・・・・・イヤァァァァ・・・」
悲壮な呻き声を漏らしながら、綱吉は泣きそうになった。オレが何したってんだ。
枕元にあった毛糸のかたまりが、パサリと床に落ちた。
教室に入ると、綱吉に駆け寄ってきた人物が居た。迷惑ヤロウだ。
「沢田さん、おはようございます!アレ、どうですか?触れ心地は抜群ですか!?」
「・・・・・・・・・・・・・ゴメン、まだ使ってないんだ、いや、あのー、その、勿体無くって」
『ゴメン』と聞いた時点でもの凄い顔をした獄寺に慌ててフォローを入れながら、綱吉は疲労感を感じていた。
オレは被害者だ。何でこんな気ぃ使ってんだ。
「そうですか!じゃあ、明日是非使ってください!」
「よー、はよ!」
「あ、おはようー!」
「!」
ヒーローよろしく爽やかに現れた山本に綱吉は(助かったー!)と笑顔を向け、それに反応して獄寺が白目を剥いた。
「ツナ、これ」
「ん、ん?」
山本が出してきたのはハンカチに包まれた四角い何かだった。
「何これ?」
「まー、見てみ」
ガサゴソと開けて出てきたのは、
「や、っ・・・・・・・・・まもとォォォ!」
「なんつーか、お礼?」
綱吉は目を潤々させながら山本を見上げ、山本は照れくさそうに鼻の下を掻いた。
出てきたのは色とりどりのちらし寿司。真ん中に具で『ツナ』と描かれてあった。
「ありがとう、ありがとう・・・!オレ、大事に食うよ!」
感激して手元を見つめる綱吉の横で、獄寺が泡を吹いていた。
「・・・でも、お礼ってオレ何かしたっけ?」
「え、だって今日アレじゃん、」
ぴんぽんぱん、ぽーん♪
山本の声は呑気なメロディに遮られた。
『1−A、沢田』
いきなりの校内放送に綱吉はビクリと震えた。
『至急、応接室まで来るように』
ブッ!とマイクが切れた音が響き、なぜか教室に静寂が広がった。
「え、なんだろ、オレなんかしたっけ・・・?」
「・・・応接室って、風紀委員の部屋、だよな」
「!!!」
まさか。まさか。いや、そんな。まさか。
ぴんぽんぱん、ぽーん♪
『二分以内に来ないと噛み殺す』
「・・・・・・・・・・・・・イヤァァァァ・・・」
悲壮な呻き声を漏らしながら、再び綱吉は泣きそうになった。てかちょっと泣いた。
ホント、オレが何、したってんだ・・・・・・・!
「遅い」
「す、す、すい、すいませ、」
室内にでんと置かれたソファの中央、手足を組みながらジロリと睨みつけてきた風紀委員長。綱吉は震えすぎてパンツが少しずり落ちた。
フンと鼻を鳴らし、雲雀は「座れば」と自分の隣を指した。
(よりによって隣かよ・・・!)
嫌な予感はメーターを振り切ってすでに壊れかけている。
ゆっくりと、座った。
雲雀は至って普通だ。綱吉は思った。何で二人きりなんだろう。
「ん」
「・・・・・・・・・・・・・」
デジャヴを感じながら、綱吉は恐ろしさも忘れて横に居る男を見つめた。
男は何かを突き出している。白い箱。高級感満載。白レースが飛び出していた。
「なんですか、これ」
「ん」
更に突き出されたブツを受け取り、恐々と、ゆっくり上蓋を開いた。
何の変哲も無い、可愛らしいクッキーが綺麗に並べられていた。
恐ろしい予感が形づくられていく。
これは、もしや。
「・・・・・・いただいて、いいんですか」
「どーぞ」
(何でだ!)
叫び声を呑みこんで、綱吉は顔色を青に染めた。
毒とか入ってないだろーな。手作り感があるのは果たして気のせいだろうか。
室内が、というよりも隣の人物のオーラが、なぜか非常にピリピリしてゆく。怖い。
綱吉は、意を決した。
「い、いただきます!」
めっちゃ見てくる雲雀を意識しながら、ひたすら下を向きながら、綱吉は其れを口に入れた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・おいしい」
途端、部屋の空気が変わった。
「そう」
「ありがとうございます、美味しいですコレ!」
恐怖も吹き飛ばして笑顔で顔を上げ、絶句した。
あの、あの風紀委員長が。
真っ赤だ。耳まで。
「ひ、ひばりさ」
「黙れ」
ガヅン!と思い切り殴られ、しかもそれが見事こめかみにクリーンヒットしたもんだから、綱吉はぶっ倒れた。
意識を失う瞬間、雲雀の慌てた顔が見えた、気がした。
雲雀さんでもそんな顔、するんですね。
思った後。ブラックアウト。
(・・・・・・)
やけに体が温かい。
体が癒されている、と感じた。
まどろみの中、もっと寝ていたいという思いと、それとは別に(起きろ、起きろ)と脳裏で何かが訴えている。
いや、オレは眠い。寝よう。
スヤスヤと聞こえてくる寝息につられよう、と、綱吉は再び心地よい眠りに意識を委ねた。
スヤスヤ?
ばち、と目を開く。
いきなりのアップに思わず悲鳴を上げそうになり、咄嗟に両手で口を押さえた。
「ん・・・」
目の前の男が僅かに眉を寄せる。綱吉は心臓が体を突き破って飛び出すんじゃなかろうかと思った。
なぜ、彼が。なぜ。
てか、ここ、どこだ?
ゆっくりと、周りを見回す。
白い天井、更に真白いカーテン、独特のツンとした匂い。
保健室だと気付いた。
(・・・・・・・・・そういえば、倒れたような気が)
いや、そんな事はどーでもいい。とにかく、一刻も早く。この状況を打開しなければ!
こんなに近くに好きな人が居るだなんて、有り得なさ過ぎることが起こっていることに、綱吉は感動を通り越して不自然さを感じていた。
体を動かそうとして、何かに気付く。
(――――!!!)
やばい。何だか熱いものを鼻の奥に感じた。鼻血じゃありませんように。
抱き枕よろしく腕と足を巻きつかれていて、がっちりと固められていたのだ。
綱吉は、本日幾度目かの涙を流した。
誰でもいい。まじで、まじで、助けて・・・!
「・・・・・・・、」
「ヒィ!」
端整な顔が僅かに動き出し、深い闇色の瞳がその姿を現す。
綱吉は固まった。目を逸らしたいのに、その美しさに釘付けになった。
「起きたか」
掠れた声が耳元で響き、綱吉は次の瞬間沸騰した。
ダメだ。死ぬ。
尋常じゃない速さで上体を起こし、そのままベッドから飛び出そうとした。が、
「待て」
ガシリとズボンを掴まれ、綱吉は頭から床に落っこちた。
ブヂン!
「あいでェ!」
脳に火花が飛び散った。
想い人の顔が視界いっぱい、逆さに映っている。めっちゃ見られてるような気が。何か、黒いものを―――黒い、もの?
「―――――――――――ギャァァァァァァァァァァ!!」
それを認めた瞬間、綱吉は絶叫した。
リボーンは綱吉のズボンを握っていた。その下の、パンツごと。
イコール、
丸剥かれ?
「だ、だ、な、あ、」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・ピンク」
それが何を指しているのかを瞬時に理解し、綱吉は卒倒しそうになった。
最悪だ。最低だ。死にたい。
体制を変え、逃げ出そうとした。が、腕を掴まれた。
「離せ!」
「まあまあ」
まあまあ、じゃねー!こっちはもう恥ずかしすぎて意識が飛びそうなのを踏ん張ってんだ!
「サボってたらテメーが偶然保健室に来たもんでな、先月のお礼にと思って添い寝してやったんだ」
ありがたく思え、と傲岸不遜に言い放った男に、綱吉は涙目で訴えた。
「そんなことどーでもいいから!先月がどーだか知らないけどお願いだから離してくださいそしてもう二度と近付かないでこの通り!」
あんなに好きでたまらなかったのに、その相手に下半身を見られたことによって(あまつさえ「ピンク」と呟かれた)綱吉はリボーンに対しトラウマを抱いた。
もう、いい。この恋は終わりでいい。とりあえずこの場を離れたい・・・!!
「近付くな、だって?」
地を這うような低い声色に、綱吉は息を呑んだ。
リボーンは目をギラリと光らせて、綱吉を見据えていた。
「この俺様をそこまで否定したヤツは、テメーが初めてだ」
「き、気に障ったなら、謝る!ゴメン!離せ!てかパンツ返せ!」
「どーせ履くのはまだまだ後だ」
ぽーいとベッドの反対側に投げ捨て、リボーンは綱吉をベッドの上に引き上げた。
状況が全く掴めずに呆気に取られた綱吉の顔を引き寄せ、リボーンはあくどい笑みで囁いた。
「バレンタインのお返しは、俺でいいか?いいな」
吐息が唇にかかり、背筋に何かが走った。
あ、そういえば、今日ホワイトデーか、とか。だからみんな色々くれたんだな、律儀だなあ、とか。
綱吉は、ぼんやりと現実逃避しながらブルブル震えていた。
リボーンはその端整な顔を歪めニヤリと笑みを見せてきた。
この男、嫌がらせしてやがる。
オレ、リボーンのこと好きだと思ってたけど。たった今、嫌いになった。うん、確定。
矛盾してる、って?恋なんてそんなもんだ。何かめっちゃ鳥肌立ってるし。
「あ、ハハ、何言ってんですか!あ、オレ、ジャガイモの芽を観察する時間なんでそろそろ」
「往生際悪りーぞ」
視界が反転した。押し倒された、と気付いたのは、視界に広がった白いものが、天井だ、と気付いたときだった。
「最高の思い出にしてやるぞ」
べろりと頬を舐められた。
お母さん、今までありがとう。親孝行できなくて、ごめんなさい。
それが、綱吉の思考の最後だった。