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ブラウン管にひょっこり出てきた見知った顔は、いつものように笑顔だった。
「お、『山本』」
同じ研究室の友人がオレンジジュースを啜りながら眺めている。
コイツっていつもオレンジジュースだよなあ、と思いながら、綱吉は自分もいつも飲んでいるミルクティーに息を吹きかけた。
「コイツほんとすげーよなあ、確かオレらと同い年だっけ?」
「んー」
打率四割に近く投手としても評価されている野球界期待のホープは、にこやかにインタビューに応じている。
あー、そういえば今週遊ぶ約束してたっけ。
早めに引越しの準備、終わらせとかなきゃなあ。
のんびり考える。
もうすぐ、イタリアに渡る綱吉の周辺は、当人以外が慌しかった。
一番浮き足立っているのは、表立っては獄寺、そして隠してはいるが綱吉には一発でわかった、最強の家庭教師だ。
「おーいツナー」
ブッ!
綱吉とその友人は思い切り噴出した。
ブラウン管の中の人物が、研究室の入り口でにこにこと手を振っている。
「な、」
「来ちゃった♪」
来ちゃった♪、じゃねー!
「ちょ、ちょ、取りあえず出よ!」
「えーツナの研究室見たいんだけどー」
「いーから早く!」
二人が出て行った後、呆気に取られた友人が残された。
「へー、思ったよりも広いんだな」
「ここお気に入りなんだー」
構内の裏手にある庭は、あまり学生も訪れることがなく、中々の広さだ。
そのベンチでたまに日光浴をするのが、綱吉の密かな楽しみだった。
「ごめんな、いきなり来て」
「いや、大丈夫だけど・・・・・よく来れたねえ」
「ちょっとだけ時間が空いたからなー」
ひゅるり、風が吹き抜ける。綱吉は首を竦めた。
それに気付いた山本が、首に巻いていたマフラーをふわりと掛けてやる。
マフラーの中の顔がくすぐったそうに笑った。
「あと、少しだな」
「うん」
綱吉は、頬を包む優しい温もりに、涙が出そうになった。
山本。
今まで、言えなかったんだけど。
オレ、ずっと。
言葉に出すのは何時だって難しい。
綱吉は無理矢理顔の筋肉を動かして、笑顔を作った。
「そー言えば、ニュース見たよ」
「ん、なにそれ?」
「『電撃!女子アナとの熱愛発覚!?』」
「あー・・・・・」 山本が顔を顰めた。
「すごいねー、さすが山本だね、どこでもモテまくりだし」
「ツナ」
「オレちょっとヤキモチ焼いちゃったよ、山本にこにこしてんだもんなあ」
「・・・・・ツナ」
「まーでもしょうがないか!てか、今度どこ遊びに行こっか?どーせなら海とか」
「―――、ツナ!」
はっとした様に、綱吉が山本を見詰めた。真摯さに光った黒い瞳が、きらりと光った。
「あれ、嘘」
「・・・・・うそ」
「うん、嘘。女が勝手に言ってるだけ」
「・・・・・へ、へえー」
何となくバツが悪くなって、顔を逸らした。
山本の優しい瞳の色の意味がわからない。バツイチ男に言い訳されてる一人娘みたいだ、と思った。
「イタリア」
どくり、と心臓が鳴る。
山本の口から出る『イタリア』という単語は、なぜか綱吉の心臓を跳ねさせた。
「こんなこと、俺が言うのもおかしいかもしれねーんだけど、さ、」
どく、どくどく。
山本は何を言うんだろう。
『頑張れ』?『元気でやれよ』?
『さようなら』、?
「待っててな」
「え」
「野球はまだ捨てらんねーけど、あと五年したら絶対行くから。だから、」
待っててほしい。
「おい、ツナ!?」
「・・・・・・・・・な゛に゛」
「何お前泣いてんだよ!び、っくりしたー!」
あああ、洟垂れてるし!ほら、チーンしろ!
やたらお母さんくさいプロ野球選手もいるもんだ、と思いながら、未来のボスはちん、と洟をかんだ。
その後いきなりキスされた。
『お母さんくさい』は訂正しよう、と思った綱吉だった。