春うらら。桜も散って入学シーズンが終わり既に初夏へと足を踏み出そうとしている今日この頃。
 季節の変わり目は、風邪を引きやすいので注意が必要です。外出後のうがい手洗いは忘れずに。
 もしも風邪を引いた場合は速やかに病院へ行くことをおすすめします。その際是非、




病院選びは慎重に。




「………、へっくしっ」
「あら、ツッ君お風邪?」

 リビングでしたくしゃみにも関わらずキッチンへも小さく聞こえたのか母さんがひょっこりと顔を覗かせた。
 お風邪ってそんな小さな子に聞くみたいな……
 少し呆れながらも母親のこの言い方は昔からの癖。言っても治らないので中学生の時に既に諦めている。心配そうにぱたぱたとスリッパを鳴らして近づいてきた母さんの手を自然に避けてオレは自らの手を額に当てた。
 母親に熱を測ってもらうなんて小学生じゃあるまいし…

「どうかな…熱はないけど」
「喉は?痛い?ちょっと母さんに見せてよ」
「ヤダよ… 喉は少し腫れてるぐらい。大したことないし大丈夫だよ」
「ツッ君のケチ。でももうすぐテストだし、心配だわぁ」

 一気に二種類の会話をするとは何とも器用な親子だなぁと自分で感心してしまう。たびたび向かっている腕をひょいひょいと避ける。母さんは意外としつこい。
 ついに諦めたのか可愛くないと漏らした母さん(可愛いなんて言われたくないよ!)はそうだ、と手を打った。如何にも名案が浮かんだわと顔に書いてあるが彼女のその文字が現実になったことは数少ない。

「ビアンキちゃんの病院へ行ってみたら?」
「え…ビアンキのところ?」

 にこにこと笑みを浮かべる母さんが言ったことは既に自分の中での決定事項らしい。電話の子機を手に取り手帳をぱらぱらと捲っている。

「母さん連絡しておくから、大学の帰りに絶対寄るのよ?」
「…わかったよ」

 基本的に諦めは良い方、だと思うんだ、オレ。




 駅から自宅への帰り道にある少し小さな病院。アルコバレーノ医院。
 院内に自動ドアから入り込めば病院独特の消毒液のような、鼻を刺激する匂いが漂った。オレはこの匂いがあまり好きではない。好きな人間は稀だろうけどね、ほらマニアックな人とか。
 受付へひょっこり顔を覗かせると目当ての人物を発見。

「どうしま…あら、ツナ。奈々から連絡があったわ。風邪ですって?」
「そんなに大したことないと思うけど…」
「一応見てもらった方がいいわよ、学生なんですもの。それに、うちのドクターは優秀だから」

 今オレに笑いかけているナース服が恐ろしく似合っているのがビアンキ。何処で出会ったかは知らないが母さんの友達でなかなか仲が良い。
 何度も家に遊びに来ているせいか何処となく家族の様な感覚もする、不思議だ。それにオレの大学の同級生である獄寺君と異母姉弟らしい。獄寺君にはビアンキに大してひどいトラウマがあるらしく今では姿を見ただけでもひどい腹痛を起こして気絶するがビアンキ自身はその事実に気づいていない、彼女は極度のプラス思考者だ。

「じゃあ少し椅子に座って待ってて」
「うん。………なに?」

 じっと自分を見つめるビアンキを訝しむように見上げれば(生粋のイタリア人である彼女はオレよりも背が高い。だってイタリア人!)、彼女はしみじみといった様子で窓口からオレの頭を撫でた。まるで弟にするそれのようだ。

「ツナ、男にもてない?」
「んなっ! そんなことないよ!」

 確かに変な人に絡まれるけど。大学生になっても学ランを肩に掛け理不尽な理由でトンファーを振り回している黒髪の男とか。クフフ笑いで綱吉君は可愛いですねえ食べちゃいたいぐらいですよと気持ち悪いことをほざく南国フルーツの髪型の男とか。
 うわ、思い出しただけでも鳥肌だ。

「そう?また奈々に似てきたんじゃない?父親の遺伝子、入ってる?」
「……入ってるよ。やっぱり似てるかな?今日山本にも言われたんだよね」
「………山本武に?」
「え、うん。…あ」

 返事をした後に気が付いた。ビアンキは何故かオレの友達、山本武を敵視している。理由は全く分からないのだけれど。
 気のせいか、おどろおどろしいオーラに加え綺麗な髪の毛がうねっている恐い恐いですビアンキさん。
 こんな時は話題を反らすに限る。ビアンキの意識を反らし且つビアンキを喜ばせる話題。

「そうだ、ビアンキ。今日夕飯食べに来ないかって母さんが」
「奈々が?」

 一瞬で怒気が抜け落ち、ビアンキの髪は元のさらさらなそれに戻っていた。一安心だ。

「そう。何時に終わるの?」
「今日は早いわ、六時」
「じゃあ母さんに伝えておくからおいでよ」

 久しぶりにビアンキと一緒に食べたいな。二人だけの食事は味気なくって。
 本心のままに笑顔を浮かべて言えばビアンキは少し顔を綻ばせて分かったわ、と頷き患者さんが切れたから診察室へ行ってと告げた。
 ビアンキが病院で働いていたのは知っていたが実際に来るのは初めてだが彼女は嘘を言わないからドクターは本当に優秀なのだろう。そういえば朝から患者さんが外で待っているのを見たことがある。
 優しそうなおじいさんかな?
 それっぽい人物像を想像しながら廊下を進み、突き当たりにあった診察室のドアを軽くノックした。渇いた木の音の後にどうぞと入室を促す声が掛かる。おや、随分と若いぞ?
 声だけではよく分からないなとドアノブに手を掛ける。

「失礼しまーす」

 声と同時に診察室のドアを開けた。白衣に身を纏った男性がいる、ビアンキが優秀と褒めていた此処のドクターだろう。白衣が似合う、そしてかっこいい。
 思わずドアを閉めてしまいそうになるほどに。
 いや、実際に閉めてしまった。
 自ら閉めてしまった時点で少し気まずい。どうしようと固まっていたら自然とドアが開く。
 …自動ドア?
 そんなわけはない。ドクター自ら椅子から立ち上がりわざわざ開けてくれたのだ。なるほど、こういう些細な優しさが人気の秘密かも知れない。

「す、すみません…」
「………入れ」

 数秒オレの顔を眺めた後、ドクターは中に入るよう促した。ぎしりと音を立てて椅子に腰掛けたドクターはなかなかな無愛想だ。
 カルテを眺めたドクターはチラリとオレを見、再びカルテに視線を落とした。何処か悪いのだろうか。いや、頭は元々悪いのだけど。

「…沢田綱吉……ツナでいいか?」
「あ、はい。大抵の人はそう呼ぶんで」

 そうかと返事を返したドクターは今度こそ身体の向きを変えオレを見た。
 おお、見れば見るほど美形。オレの近くにいる人たちはみんな美形だけど(獄寺君然り山本然り例の二人然り)それらに引けを取らないほどの美形だ。寧ろ勝っているかもしれない。

「リボーンだ。Dr.リボーンでもリボーン先生でも何でもいいぞ」
「分かりました、リボーン先生」
「で、今日はどうした?風邪か?」

 首に掛けていた聴診器を耳に当て椅子ごとオレに近づく。細い銀色フレームの眼鏡はリボーン医師に良く似合っている。うん、まあ近づかなきゃ心音は聞けないし、それはそうなんだけど…
 少し、近すぎやありませんか? いやいや、オレは過敏になり過ぎているんだ。そりゃあ周りにいる連中が変な奴らだから。隙あらば爽やかにセクハラしてきたり急に永遠の忠誠を誓ったりね!

「あ、はい。大したことないと思うんですけど…一応テストが近いので」
「用心に越したことはねえからな。熱は?」
「あ、そう言えば計ってな、」
「……熱はねえな」

 目の前にある切れ長の黒目が伏せられている。うわ、睫が長い。全てに置いて整っているなんてなんて男だこの人は。

「すいません…」
「あ?」
「ガラ悪いなおい……じゃなくって顔近いですよ先生」
「……ああ、コレがうちでの熱の計り方だぞ」
「絶対嘘でしょうそれ」

 ケロッと言い張る先生に反射的に返してしまった。仕方ない、オレの属性はツッコミだ。だって受付に体温計があった。計れと言われなかった時点で変な気はしたんだけれど。
 こう、見ただけで体温が分かる超人なのかと思ったのに!(とんだ期待はずれだ)
 近かった顔が離れ(と言ってもオレ的にはまだ近いと思う)、先生は聴診器(先の丸いところね)を手に取った。う…アレ冷たくてちょっと苦手……

「もうちょいこっち寄れ」

 十分寄っていると思いますが。
 心の中で返しほんの少しだけ椅子を前に移動した。相手は医者、ドクター。オレの周りにいる連中とは違うんだ。自分に言い聞かせシャツの釦を外して前を開けた。アレ、全文脱ぐべきなのかな。学校(高校)の内科検診の時は全部脱いだけど、まあ先生が何も言わないからいいのかな?
 スッと自然に伸ばした手はシャツを潜り背中に回される。
 ちょ、ちょちょちょちょっと、そんなに引き寄せる必要があるんですかって言うか手つきが怪しい気がしないでもないなあ!

「ん。ちょっと早いな」

 それは今現在オレの背中を緩く撫でている貴方様のせいだと思うんですけど! ……ちょ、なんか変な気分になって来ちゃうから。
 じんわり広がる熱に、ああこの人絶対女慣れしていると核心した。や、オレは男だけど。そんなオレでもなんか、その、

「……先生」
「何だ?」

 低く心地よい声が直接耳に入り込む。いつの間にこんなにも顔が近くなっていたのだろうか。掠れた声にオレは思わず、


 拳を振り上げた。




「……痛ぇ」
「…………すいません」

 折角の美形なのにも関わらずぐしゃりと入った自分の拳に自分でビックリしてしまった。条件反射って恐ろしい。
 冷やしたタオルで赤くなった先生の頬を自分にとっては精一杯の優しい動作で冷やす。うぅ、恨みがましい視線が痛い。

「…なんだ条件反射って」

 アレ、オレ口に出してたっけ?

「いえですね、ちょっとオレの友達って変わってて」
「へえ」
「こう、身体をすり寄せて来たりケツ触ったり変な視線を向けられたりと」
「…で?」
「気持ち悪いじゃないですか。つい手が出るんですよねえ。コレ、オレの中にある唯一の父親の遺伝子ですから」

 男は拳で語れ!な父親の。ほらビアンキ、オレにだって父さんの遺伝子が入ってるじゃないか。
 再びタオルを洗面器に張った水で冷やして絞る。今度はそれを先生に直接渡した。ただいまの時間5時54分、もうすぐビアンキの仕事が終わる。どうせ同じところに行くのなら一緒に行ってもいいだろう。
 不思議そうな顔をする先生にぺこりと頭を下げて自分で自覚が出来るほど引きつった笑みを向けた。

「えと、じゃあ本当にすみませんでした。風邪も大したことなさそうなので失礼します」
「診断してねえぞ」
「いえもうお腹いっぱいなんで」

 自分で言っておいて意味不明だ。寧ろ減ってるっていうのに何だお腹いっぱいって。あ、先生の色気でか。

「あぁ頬が痛ぇ」
「……だからすみませんてば」
「誠意が感じられねえ」
「誠意って…」

 正直、困ってしまった。確かに悪いことをしたとは思っているけど本人に自覚がないとは言えそう言う素振りを見せた先生も悪いのではないだろうか。…言えないけど。
 先生は先ほどから機嫌よさげに鼻歌を歌っている。何か、欲しがっていたおもちゃが手に入るような子供みたいな。変だな、先生はもう大人なのに。

「ツナ、お前明日から暫く此処でバイトな」
「え!?」
「オレに怪我させたんだぞ。その身体で償え」

 でも、学校。

「終わった後でいい。だから、手伝えよ」
「えー……あ、はいわかりました」

 渋った声を上げれば先生はオレに見せつけるように左頬を指した。もう、分かってる分かってるってば!

「……なあ、ツナ?」
「はい?」
「オレはな、気に入ったモノは絶対に手に入れる主義なんだ」
「はあ…それはまた……」
「で、今まで手に入らなかったモノはねえ」

 まあ心から欲しがるモノなんて片手で余るぐらいしかなかったけどな。
 先生の言葉にちょっと驚く。オレには欲しいモノが沢山あるのに、先生ってば大人。って、先生何歳?

「22」
「…へ、うそ。オレと三つしか違わないの?ってかオレまた口に出してた?」
「……お前19なのか?」

 お互い驚いた年齢。でもそれよりも驚いたのは、

「お前は絶対手に入れるぞ、綱吉」


 変態医者のこの言葉、でした(やっぱり意図的に触ってたんじゃないか!)。



 病院選びは慎重に。医師の性格を知っておくことも必要です。
 決して、自分勝手な医師の元へ行くことはお勧め出来ません。
 それでは、皆様。お大事に。



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医者リボと患者ツナというマニアックなリクエストに見事応えてくださいました。
もう・・・本当にありがとうございます。大好きです。ラブ!ありがとうございました!!