二十四時間、戦えますか?

 

■ストレスと戦う■ 十年後のみなさん

請求書を出してください/嵐と雨と

上司の意志を尊重してください/雲と霧と

せめて三分指示を待ってください/晴と雷と

壊滅させろなんて言ってねえ!/黒と金と

ついに胃潰瘍が見つかったらしい/守護者たちと共に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

|||請求書を出してください|||

 

右腕と左腕のコラボレーションは、時に華麗に発揮される。

あんまり良くない方向へ。

例えば?

商談時、クラブの地下で、大乱闘、とか。

 

 

「テメー、さっき十代目に唾吐いてたよな?」

バギッ!ドガン! ズゴォォン・・・

「あー、ごめんなホント。でもうちのボスに手ぇ出したからなー」

ズゴッ!ブシュッ! ドガシャァン!

 

 

綱吉は呆然と立ち尽くしていた。白目を剥き掛けている。

周りにはもう誰も居ない。残った人間はほとんど床に伏している。

商談相手が悪かったのか、連れて来た幹部が悪かったのか。

綱吉には、もう判断がつかなかった。

「十代目!ここは俺たちに任せて、ゆっくりなさってて下さい!」

「ツナー、怪我するかもだから、もーちっと下がっててな」

二人の笑顔が眩しい。飛び散る鮮血に彩られ、生き生きと輝いている。眩暈がした。

 

 

傍に、オーナーが近寄ってきた。

日頃から懇意にしている、気心の知れた間柄だ。

 

「・・・・・・・」

「あの、ボンゴレ・・・」

「・・・・・・・何でしょうか」

「大変、申し上げにくいのですが・・・」

「いや、こちらこそ本当にスイマセンでした、もう幾らでも支払います。どうか、」

 

 

 

請求書、出してください。

ホントすいません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

|||上司の意思を尊重してください|||

 

「なんでコイツとなわけ?」

「不本意ですが右に同じです」

「・・・・・・・・」

 

机に両手を投げ出して、綱吉は上目遣いで二人を見やった。

普段なら絶対にしない。だが、今はもう疲れきっていた。

「・・・・・人手がちょうど足らないんです。獄寺君はこないだの商談の事後処理で、山本はアメリカで、お兄さんは北で」

「あーもういいよ」

雲雀が片手を上げて制した。

「取りあえず、三時間だけ我慢すればいいんでしょ」

「そうです、頑張って仲良くお願いします」

骸の片眉が上がった。

だが、綱吉は綺麗に流した。

 

「じゃ、行きましょう。先方がお待ちしています」

「綱吉くん、疲れているんですか」

骸が唐突に声をかけた。

「はあ、まあ」

「手を貸しましょう。掴まってください」

右腕に自分の左腕を絡めてきた。

綱吉は疲れもぶっ飛んで目を剥いた。

こんな事一回もされたことない。てか、優しい骸なんて想像すらしたことない。

ジャキン、と音が聞こえ、綱吉は咄嗟に身を引いた。

己が居たところに、トンファーが振り下ろされていた。

「な、な、な、」

「群れるな」

「おや、焼きもちですか」

あからさまにからかっている口調の骸に、雲雀はトンファーを構えなおした。

 

「戦るかい」

「勝てるとでも?」

 

次の瞬間、ガキィン!と各々の武器が交差し、綱吉は顔を青くした。

いつもならともかく、今日は本当にやめてほしい。

取引先の相手は時間にかなり厳しい男だ。

 

 

「あの、お願いですから、仲良く!」

 

誰か、助けて・・・!

 

悲鳴は破壊音に掻き消された。

 

 

上司の意思を、尊重して下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

|||せめて三分指示を待ってください|||

 

「ボンゴレ、早く終わらせたいです」

「だからもーちょっと待てって!まだタイミングが合わないんだよ」

「沢田!新しい技を試したくて試したくてたまらんのだが」

「お兄さんももーちょっと待ってくださいってば!まだ、幹部全員揃ってないんですから!」

物陰に身を隠しながらひそひそと呟く男三人の姿はもの凄く怪しかった。

「いくら裏切り者への制裁って言っても、ボンゴレ十代目が出てくることはなかったのでは?」

「そーはいかないよ、やっぱり示しはつけなきゃ。相手が相手だってのもあるけどさ」

懇意に付き合っていたファミリーのまさかの裏切りは、ボスを筆頭にファミリー全員を憤らせるものだった。

 

 

広い屋敷の会議室に、わらわらと人が集まってきた。

「まずはランボ、雷で全員死なない程度に攻撃」

「わかりました」

「お兄さんはその後側近の幹部をお願いします。俺はボスを」

「任せとけ!」

「その後はすぐ逃げよう、制裁は最小限に」

「ボンゴレ、行きますよ!」

「え!ちょ、待て、まだ途中」

 

ドゴォォォオン!!

 

「ラ、ランボォォ!お前何やってんだよ!何で手榴弾なの!?」

「えっ、全壊滅じゃないんですか?」

「ちゃんと聞けよ!どんどん投げ入れるなァ!違う、最小限にすんの!無駄に死なせるのはダメだって」

「きょぉぉくげえぇぇん!!!」

「おにーさんんー!!待って下さい、そんな生き生きと突っ込んで行くなァァ!」

「俺も行きます!サンダーセット!!」

「うわホントちょっと待て!始末するのは幹部とボスだけだってば!」

 

大混乱の真っ只中に、二人は嬉々として身を投じていった。

「うわ・・・・・どうしよ、収集つかねーなコレ」

「何者だ!?」

「げっ」

背後に下っ端らしき男たちが数人。慌てて体を動かし、何とか昏倒させた。

「・・・・・」

二人を見やる。止まる気配は一向に無かった。勝手気ままに暴れている。

 

ダメだ。

取りあえず、とっとと終わらせてアイツらは引き摺って帰ろう。

 

綱吉は、沈痛な面持ちでグローブを嵌めた。

 

 

 

せめて、三分指示を待ってください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

|||壊滅させろなんて言ってねえ!|||

 

綱吉は、呆然と、ひたすら呆然と佇んでいた。

敵の屋敷が、綺麗さっぱり崩れ落ちていく。

その様子が綱吉にはスローモーションで見えた。

 

「大分すっきりしたな」

「ストレス解消になったぞコラ」

黒と金の子供たちが、晴れやかな笑顔で笑っている。

(や、全然笑えねーんだけど)

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・コレって、事後処理・・・・・」

「頑張れよ、『十代目』」

すれ違い様、肩を叩いて去っていく。キラキラとしたオーラが全身に突き刺さった。

 

胃が、握りつぶされたかのように痛い。

綱吉は頭と腹を抱えて蹲った。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!!!!」

 

 

壊滅させろなんて言ってねえ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

|||ついに胃潰瘍が見つかったらしい|||

 

「っ、ツナァァァァァァ!!!」

「黙れこの、アホ!」

 

寝室に駆け込んだ伊達牛男を、ボンゴレボスの右腕が思い切り殴った。

「ブベラ!」

思い切りよろめいたが、ランボは空中で器用に体制を整えた。

「が、ま、んん」

「静かにしろ、十代目は寝ていらっしゃる」

「いやー、何だか脂汗びっしょり掻いてるけど?」

ベッドの淵に手を掛けた山本が、綱吉の顔を覗き込んでいた。

だが綱吉は目を開けない。 悟ったような静かな表情に、びっしり汗を乗せている。

「辛そうですね」

壁に寄りかかっている骸が嬉しそうに呟いた。

「おい骸!妙な気起こすんじゃねーぞ、十代目の大変な時に」

「僕だって弁えてますよ。寝首を掻くような卑怯な真似はしません」

霧の守護者の物騒な台詞に、獄寺は舌打ちした。

ベッドへ歩み寄る。

「ああ、十代目・・・俺の天使・・・」

ポケットからハンカチを取り出し、汗を拭こうとした。

が、意識の無いはずの綱吉が顔を逸らし、あえなく失敗する。

「ははは、獄寺やめとけ。ツナ鳥肌立ってんぞー」

「うるせえ、適当な事言うな!十代目は無意識下の中、痛みと戦っておられるんだ!」

「極限!」

バタンとドアを開け元気よく入ってきたのは、晴れの守護者、笹川了平だ。

「沢田、ボクシングをすれば病気なんぞ吹っ飛ぶ!見舞いのグローブだ!」

「だァァ!テメー、こんなもん持ってきてんじゃねー!ていうか幹部全員来てどーすんだよ!」

「だったら君が仕事に戻ればいーじゃない」

ぼそりと呟いた雲雀の突っ込みに、獄寺は睨みで答えた。

「俺はボスの右腕だ!すなわちボスの付属物!すなわち、ボスと共に有り!」

 

ガバッ!!

 

「だああああああああ!うるさい!!!」

 

「十代目!意識が戻られたんですね!」

涙を流して傍に駆け寄った獄寺に向けて、綱吉は枕をぶん投げた。

獄寺が顔面キャッチして倒れた。綱吉は、枕でも攻撃力が高いことを知った。

「最初っから起きてたよ!ていうか皆なんで集まっちゃうわけ!お願いだからそっとしといて!」

「ツナァァ!!」

ランボが綱吉に抱きついた、というか綱吉の上にダイブした。

「ぐっ!・・・・・ラ、ランボ、頼むからどいて、血ぃ吐きそう・・・」

「ツナ、ツナ、俺どーしたらいいかわかんなくて、一応これ持ってきた!」

「飴玉かよ!」

「どけ、牛」

「ぐえッ!」

「沢田綱吉、君寝たふりしてたの?僕の前でいい度胸だね」

「ひひ、雲雀さん・・・いや、雲雀様!気のせいです、今起きました」

「最初からって言ったのはこの口だよ」

「いひゃひゃひゃやひぇひぇ!」

トンファーは突っ込まないで欲しい!マジで吐血しそうだから!

口には出す事無く呻いていたら、横から手が伸びてきた。

「雲雀恭弥、コレは僕のです。余計なことはしないで下さい」

「・・・・・戦るかい」

「外で」

一瞬後、二人は窓を思い切り割って、屋敷の中庭へと躍り出た。

綱吉は呻いた。胃の中にブラックホールが出来たような錯覚を覚えた。なんでこんな潰れそうなんだ。

冷や汗が止まらない。腹が痛い。

「ツナ、早く元気になってくれよ」

優しい瞳で山本が頬に手を伸ばしたが、綱吉は真っ白な顔で口の端を上げただけだった。

獄寺は動かない。ランボはべそべそ泣いている。了平はなぜかスパーリングを始めた。

(・・・・・)

遠くからリボーンの声が聞こえた気がした。

ぶっ殺されそうな予感が胸の内で膨らむ。

(よし、寝よう)

現実逃避が一番。

 

 

 

ついに、胃潰瘍が見付かったらしい。