獄寺君は、オレの一番初めに出来たトモダチだ。

獄寺君は、とても頭がいい。

獄寺君は、とてもカッコいい。

獄寺君は、とても優しい。

獄寺君は。

 

 

もう放課後だ。 さっきから獄寺隼人という人間について、延々と考えている自分は、思考回路ショート寸前だ。

こんなにこの友人のことなんて、いつも考えていないし、考えるとしても絶対に「ダイナマイト」「目つき悪い」「顔怖ええ」といったマイナス表現が

出てくるし、そう考えた次の瞬間には獄寺は何らかのアクションを起こしているので、ストッパーになるのに必死になってしまう。

でも。

どんなに騒ぎを起こそうとも、自分のことを必死になって思ってくれる(友人として、と解釈している)彼はとても大事な人だし、これからも付き合って

いきたい人だ。

 

それなのに。

 

「なあ、ツナ」

「・・・・・・・・・・・」

「アレ、なんだ?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・さあ」

「めずらしいよなーアイツのあんな態度」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ツナ?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・オレなんかした・・・・・・?」

 

やばい、ちょっと、いや、かなり、胃が重い。

 

今日、獄寺君は朝家の前を「偶然」通りかからなかったので、オレは普通に待たずに家を出た。

まあこれは時々あるし、むしろ向こうから「じゅうだいめええええ!!今日はお迎えに…、はっ、いや、偶然一緒に登校できずすいません

でしたああ!!!」と謝ってくる。別にいいのに。

んで、HRがもうすぐ始まるなあと思いながら山本とダベってたら、獄寺君が教室に入ってきた。そりゃもう険しい表情で。

また何かあったのかなー、機嫌なおせよスモーキンボム、と思いながら「獄寺君おはよー」と普通に、そりゃもうごく普通に声を掛けたのだ。

そしたら、彼は、今までにオレに向けたことない顔を向けてきた。

いや、訂正だ。彼は、最初に視線を交わしたときのような顔をした。睨まれたのだ。ほんの一瞬だけど。

その後、はっと何かに気付いたような感じになり、目を逸らされた。でも、返ってきた声は「…おはようございます」とかなりドスの利いた低い声

だった。

そして、山本の挨拶もスルーし、自分の席に着いたかと思うと、HRからずっっっっっと無視している。オレたちを。

正確にはオレを。

勇気を出して昼休みに「獄寺君ゴハン食べよー」と声を掛けようとして「ごくで」まで発音したら、目を合わさずに顔だけ向けて(正確には斜め

45度下を見てた)、「すいません俺今日体調悪いので昼ごはん抜かしますそんで雲雀んとこで将棋をする約束があるのでちょっと行ってきます」

と淀みなくドスの利いた低い声で一気に喋り、顔を背けたまま教室を出て行った。

競歩で。

オレはバカみたいにぽかーんと口を空けたまま、『いや、そんな仲良くねえだろ』と脳の片隅で突っ込んだことしか覚えてない。 しかも将棋て。

昼からのサッカーだって、オレがヘディングし損ねてすっ転んで「まーたダメツナがやってるよー」とクラスの連中に野次られてた時も、離れた

ところでこっちを見もしなかった。いつもだったら、「大丈夫ですか十代目お怪我はありませんか!?やいこらテメエら沢田さんを馬鹿にすんじゃ

ねえよ地球のクズの塊みたいなツラしやがってぶっ殺すぞおらあ!」くらいはワンブレスで吐き出すのに。

 

胃は最大級に重い。重い。

 

「・・・・・・・はぁ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」

「うおっ、どーしたツナ!?」

「ああめんどくせえええええ!!!」

ちょっと屋上行ってくる、多分いるはずだから!

そういうと、山本はきょとんとした顔を満面の山本スマイルにし、送り出してくれた。

「おう、行って来い!!」

 

 

「獄寺君」

「なんすか」

その態度はないんじゃないの。

口には出さずに胸の中で呟く。そう思った後で、目頭が熱くなっている自分に気がついた。

彼の人は、顔さえこちらに向けようともしない。ただ、フェンスにもたれてタバコを燻らせているだけだ。

もう一度、「ごくでらくん」と声をかけながら近づいた。耳に入った自分の声はすこし掠れていた。目の前の空気が少しずつ硬さを増していく。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ごくでらくん」

 

返事は返ってこない。オレは自分の足元を見た。上履きには獄寺君の字で「十代目」と書かれてある。

その字が見えたとたん、視界が曇った。

やべ、泣きそう。

 

「無視すんなよ」

・・・・・・・・・・・・・

「ねえ、ってば」

・・・・・・・・・・・・・

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・さいあく・・・・・」

 

 

 

 

「『最悪』はどっちだよ」