へ?
思わず顔を上げると、獄寺君が、苦しそうな、何かを吐き出したいような、辛そうな表情でこっちを見ていた。
視線を交わしたのは今日二度目だ。矛盾してるようだけど、オレはその眼光の鋭さに背筋を冷たくしながらも、どこかでホッとしていた。
獄寺君が見てる。オレを。
「、ねえ、おれ」
「そうですよね、十代目は俺の、ボンゴレの次期ボスですし、素晴らしい方だと思ってました。俺はボンゴレの右腕候補としてまだ未熟だし、
でもこれから頑張って認められる存在になろうって、思ってました」
ごくでらくん、なきそうだ、よ。
「…うん、ごくでらくんはじゅうぶ」
「でもあの手紙はないんじゃないんですか」
・・・・・・・・・てがみ?テガミ?
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なにそれ」
「今更何をとぼける必要があるんすか」
ズカズカと距離を縮めてきた彼に対して少し緊張しながら、手にしたものを見た。
「昨日、十代目の部屋で数学の勉強した後、間違って十代目のノート持って帰りました」
「え、気付かなかった」
「そんでこれ見つけました」
ノートに挟まってました。 ずい、と目の前に出された紙切れ、て、手紙かこれ?
『でもさ、山本は獄寺君のこといいやつって言ってるけど、オレは正直ちょっと苦手かも。 だってさ、乱暴だし怖いし、いつも周りに迷惑かけてるじゃん。イタリアから来たからかな、何か合わない気がするんだよねー。 てゆうかさ、んー、苦手っていうより、うざったい?て感じかも。マフィアってのも迷惑だしさ。おれには関係ないし。 リボーンに言われてなかったらここまで付き合ってないって。まあ来年なったらクラス変わるかもしれないし、もう少しの辛抱だけど。 あの笑顔がさ、たまにイヤミったらしいんだよ、ほんと。はは、気持ち悪い。一人ですぐ熱くなるしさ、バカみたい。 ここまで苦手意識持ったの初めてかも。もう一緒にいるのさ、疲れるんだよ。そんで』
そこまで読んで、手元から紙は消えた。獄寺君が抜き取ったようだけど、オレは視界に入らなかった。
ただ、あっけにとられてた。字はオレのに似てるけど、オレはこんなことなんて絶対書かない。書きたくもない。
オレが、獄寺君のことを、うざったい?気持ち悪い?合わない?
そんなこと、考えたこともない。
「俺は、他人からどんなに蔑まれても、別に気にしたことなんてなかった。イタリアでは当たり前だったし」
獄寺君の手の中で、手紙はぐしゃりと歪んだ。
「でも、日本に来て、あなたに会えて、自分が変わっていくのがわかった。この居場所を失いたくないって、思ってた」
握りしめた拳は、微かだが震えている。
「なのに、」
あなたは、結局、大して周りのヤツラと変わらねえ、そんな人だったんですね。
獄寺君は吐き捨てるように呟き、踊り場へ向かった。
いやだ。
ちがう、ちがうよ。誤解だ。オレは、そんなこと
「思ってない」
動いていた気配が、止まった気がした。
「オレ、獄寺君のこと、大事だ」
ゆっくりと振り向くと、獄寺君は背中を向けたまま、立ち止まっていた。
「親友だろ」
オレの声は、みっともなく掠れていたけど、ちゃんと伝えたかった。必死だった。
なんか、どっかの青春ドラマの1シーンみたいで、もしオレがこのドラマを見てたら「恥ずかしくてこんなセリフいえねー」なんてぼやいてるかも
しれない。 でも、今口にしている言葉は、オレの心の中心のものだ。本当のものだ。
なぜかはわからないけど、大切な人が離れてしまう、二度と戻らなくなってしまうかもしれない、そんな分岐点に立っていることくらい、ダメツナな
オレでもわかる。
死ぬ気で、この人に言いたい。わかってほしい。お願いだ、わかってよ。
「大事だ」
もう、景色がぼやけている。頬に温かいものが伝わり、それはそのまま口の端まで落ちた。
なんか塩辛い。
泣いてるのかオレ。
獄寺君はゆっくりと振り向いた。
視線が絡む。夕陽を背にした彼の表情はよくわからない。でも、眼光だけは鋭く、どこか透明に光っているのはわかった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・沢田さん」
ぽつり、と獄寺君の口から零れ落ちた、オレの名前。
その響きには、苦しさや悲しさ、辛さといったマイナスの感情は伺えなかった。
ただ胸にすとん、と落ちてきた。沢田さん、って。
「・・・・・・・・・・・・・・・・その、えーと、手紙って、言っとくけど書いたのオレじゃないよ。信じてもらえないかもしれないけど」
そして、しっかり相手の目を見ていった。声は嗚咽で震えそうだけど、頑張ってはっきり出した。
「オレは、絶対に、そんなこと書かない」
信じろ。