「本日付で百里基地第7航空団配属になりました、沢田綱吉です。よろしくお願いします」

どんなヤツかと思ったら。

獄寺は、そっと肩の力を抜いた。

 

F−15に乗ることを許されるくらいだから、それなりに屈強な体格を想像していたのだ。

ひょろりとした体型と顔の白さが、やや異質にも思える。

背は獄寺より若干低いと言ったところだろうか。

目は大きいが鼻が低く、典型的な日本人の顔立ちだった。と言うか、『平凡』だと思った。

瞳の色のブラウンが、やや強めなのが目に留まるくらいだ。

髪の色と同じなので、おそらく遺伝であろう。

 

獄寺は瞬間的に、勝った、と思った。

 

 

 

 

「テメエら、まー仲良くしろや」

シャマルの言葉に、綱吉は少し顔を顰めた。

小学校の教師みたいな台詞だ。

 

「沢田一尉」

目の前に一人の男が歩み寄ってくる。

「獄寺隼人二等空尉です、一尉と同班になります。よろしくお願いします」

「・・・・・・・・よろしくね」

自分を見下ろす視線が、いやに挑戦的に思えるのは気のせいだろうか。若干見下されている感もある。

そんなに睨まれる筋合いは無いと思ったが、怖くて何も言えない。

こういうところが『ダメツナ』と呼ばれる所以だな、と綱吉は内心溜息を吐いた。

 

「じゃー沢田、獄寺。シュミレータに入れ」

(――来た!)

獄寺は唾を飲んだ。

この時を思って興奮し、夕べはあまり眠れなかった。

 

「どっちから入るか?」

「もしよろしければ、俺からで」

獄寺はチラリと沢田を見た。

「よろしいでしょうか」

「ああ、うん、お先にどうぞ」

ぼへら、とした顔が、妙に勘に触る。

獄寺は勇んで中へと入った。

 

三基のシュミレータが並んでいるその右側に、F-15用の機体と同様のそれが設置されたのは割りに最近のことだった。

隣室を潰して、シュミレーションルームを拡大したのだ。

小さなビルのワンフロア並の広さがある其処は、航空自衛官にとって実際の任務に近い訓練を受けることの出来る、

血が踊る場所であった。

シュミレータの内部はコックピットと同様に精巧に作られており、操作中のモニター、計量器等のデータはそのまま外のモニタリングブースに

ある大きな画面に出る。

モニタリングブースでは、一佐であるシャマルが指示と言う名の茶々を出し、その周りを他の隊員が群れるように囲んでいた。

 

獄寺はヘルメットを装着した。

シャマルの笑い声が聞こえる。

「がんばれー」

やる気のない声援にムカッとしながらも、発進準備に取り掛かった。

 

 

「湾岸戦争のシナリオで行く」

敵機はミラージュF-1、F-4を撃墜した経歴のある機体だ。

F-15は湾岸戦争でミラージュを二機撃墜した。 獄寺なら余裕でクリアできるだろう。

『プリスタート・チェック完了。エンジン・スタート、準備良し』

スピーカーから声が聞こえた。シャマルはマイクに向かって指示を出した。

「了解。スタート・ユア・エンジン」

 

 

エンジンの音がやかましい。

これがF-15か、と獄寺は納得した。

レーダーを確認する。三つ、影が表示されている。

『まずはこんなもんか』

シャマルの声が耳元で聞こえる。

舐められたもんだ、と獄寺はニヤリと笑った。

三機のミラージュが獄寺の前に現れた途端、獄寺はいきなり攻撃を仕掛けた。

「敵機確認、現在三機。攻撃開始」

真ん中の敵気が、一発で空爆する。

『指示出してねえっつうの』

シャマルの呆れたような声が聞こえたが、獄寺は無視した。

残りの二機が画面から姿を消した。 これは後ろに回られたな、と獄寺は降下する。

ゆっくりと大きく旋回し、予測をつけて上昇した。

(ビンゴ)

両サイドから敵機の後ろ側が見える。

「攻撃許可を」

『あー行け』

やる気のない許可を得、獄寺は左側の一機を打ち落とした。

またもや一発で命中。

 

 

「うわ、獄寺さんすげー・・・・・」

隊員の誰かの声がモニタリングブースにポツリと響く。

スクリーンを見ている隊員は、ほとんど目が釘付けになっていた。

 

「囮だ」

ミグの戦法だな。

 

ぼそりと呟いた綱吉の独り言を、シャマルがこっそり聞きとがめていた。

 

 

残り一機、右を飛んでいたはずの敵機が消えた。

獄寺は予測をつけた。

恐らく、そのまま右方向に旋回して、こちらの後ろに着こうとしているのだろう。

獄寺は左へ向かった。このまま鉢合わせて、ミサイル発射すればいい。

体に掛かるGが心地よい。いったいいつから戦闘機に慣れてしまったのだろうか。

ぼんやり考えた時、スクリーンの影に機影が写った。

「!」

それは、獄寺にはスローで見えた。

こちらに向かって、ミサイルが打ち込まれている。

それはゆっくりと飛んできた。

咄嗟に機体の左側を立てる。ぎりぎり下を掠めるように、それをやり過ごした。

 

 

「あ、っぶねーなーアイツ」

背の高い黒髪の隊員が、あまり心配していなさそうな顔で呟いた。

「獄寺、焦るな。やり過ごして後ろから攻撃しろ」

『了解、・・・・・・・と言いたいところですが』

もう目の前だ。

敵機がはっきりと見えている。

 

シャマルの命令も待たず、獄寺は機体を立て直しもせず、そのままミサイルを発射した。

 

 

 

 

獄寺がシュミレーションブースから出てくると、賞賛の声があちこちから上がった。

だが、上官から頂いたのはお叱りの言葉だった。

「この、馬鹿!あんなに至近距離で攻撃した場合、爆発に巻き込まれる可能性大だって知ってるだろうが!」

「ですが、あの場合避けるとまた戦り難くなります。結果的には良かったと思います。当たったんですし」

「・・・こんにゃろー」

しれっと答える獄寺に、シャマルは一瞬「このクソガキめ」と言いたげな顔をしたが、すぐに苦々しげな表情へと変わった。

「・・・・・まあ、今回は大目にみるか。初イーグルで浮かれすぎんなよ」

 

 

シャマルは、綱吉の方を見た。

周りがしん、と静まり返る。

確実に標的に当てることが出来、咄嗟の出来事にも結構な反射神経で対応できる獄寺の腕は賞賛の声が語っていた。

次に操縦する綱吉は、全くの未知である分、皆どう反応してよいのかわからない。

「ま、気楽にな」

ぽんっと肩を叩くシャマルに、綱吉は頷いた。

 

(・・・・・・お)

一瞬、口元が緩んで見えた。

シャマルが目を瞬かせた次の瞬間には、綱吉はもうシュミレーションルームへと向かっていた。

 

 

 

 

コックピットは、F-15そのものだった。

綱吉は、久しぶりの光景に一瞬立ちすくんだ。

そっと座席を撫でる。座った感触と共に、脳裏に様々な光景が駆け巡り、慌てて首を振った。

モニターを見やる。CGの滑走路が走っており、その上には水色の空が描かれていた。

 

(・・・・・ほんとのそらは、こんな簡単なもんじゃない)

 

胸のうちで一人呟き、ヘルメットを被った。

 

発進準備に取り掛かる。セットアップを終え、計器類のチェックを完了した。

「プリスタート・チェック完了、」

続けようとして、思わず目を瞑った。

 

『沢田?』

シャマルの訝しげな声が聞こえる。

 

息を吸う。吐く。

 

目を、開けた。

 

 

「エンジン・スタート、準備良し」

 

『了解、スタート・ユア・エンジン』