「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・あの」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ごめんね、なんか、思わずはしゃいじゃって」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「お、怒ってる?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いえ」
(嘘つけええええ!)
しかめっ面で答えた獄寺への突っ込みは恐ろしくて声には出せず、綱吉はぶるりと震え上がった。
「よー!」
同じく任務についていた山本、そして相方の笹川が追いかけてきた。
「お疲れ!ツナ、お前凄かったな!最初のあの操縦!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
獄寺の眉間の皺が一本増えたのを、綱吉は見逃さなかった。
沢田・獄寺班の初任務は無事、成功。
ロシアからのミグの領域内侵入に対し、警告をするだけの普通のものだった。
獄寺にとって初のF-15に乗った今回の任務は、綱吉にとっては久しぶりのものであり。
体にくる振動、視界に広がる澄み切った青に興奮した綱吉は、空を飛び出していきなり海上擦れ擦れに低空飛行、そのまま真上、ほぼ
九十度にロールをかけ、数回転した。
思い切り奇声を上げながら。後ろに、獄寺が居るのも忘れて。
予告なしの操縦によってもたらされた強力なGに、獄寺はしばらく言葉を発することが出来なかった。
通常の操縦に戻した後、獄寺の存在に気付いた綱吉がバツが悪そうに話しかけたのだが、返ってきた声色に思わず青褪めてしまった。
気を使って無駄口は全く叩かないようにし、無事基地に戻ってきたは良いが、獄寺が全然目を合わせてくれない。
(・・・・・・・・・・!)
綱吉は、軽率な行動をとってしまった事を激しく後悔した。
山本に続き、笹川も話しかけてくる。階級は、確か同じ一尉だったはずだ。
初対面の時から滲み出る熱血ぶりに、思わず後退った記憶は新しい。
「沢田!お前、すごいな!ボクシング同好会に入らないか?」
「(意味わかんねー!)いや、慎んで遠慮させていただきます・・・」
引き気味に、だが少しだけ楽しそうな綱吉を見て、獄寺は更に眉間の皺を増やした。
それに気付いた綱吉が慌てて真顔をつくるが、獄寺は顔を逸らした。
ガーン。
ショックを受けた顔をものともせず、獄寺は苦々しげに言った。
「貴方は、パイロットとしての自覚が幾分足りないように思います。派手な行動は慎んでください、まるで力を誇示しているかのようだ」
直球な言葉に、綱吉は目を丸くした。
「ごめん、そんなつもりじゃなかったんだ。ただちょっと」
「客観的な意見を述べたまでです」
バシリと切り捨て背を向けて、獄寺は去った。
呆れ顔の山本と状況を掴めていない笹川、そして、目を丸くしたままの綱吉を残して。
熱気が高層ビルに纏わりつき、道路には蜃気楼。
羽織っているコートがやけに暑苦しいと感じ、コロネロは無意識にネクタイを緩めた。
もう秋だというのに、焼け付くような暑さを感じるのは温暖化がどうのこうのとニュースで言っていたような気がする。
やってられるか、と思った。
日本の警察機関は欧米とは違い独特の閉鎖感がある。キャリア組は加えて上昇志向の固まりだ。
悪友の飄々とした顔を思い出した。
あの喰えない顔で、今頃アメリカの上層部から最下層まで自在に行き来しているのだろうか。
窓越しに都心部に並ぶビルを見やった。道路には人が蟻のように散らばっており、僅かに眉を動かす。
デスクに足を乗っけたまま溜息をつくと、近くに居た数人の刑事がびくりと肩を揺らした。
本来コロネロが日本に呼ばれたのは軍事テロ対策の意味も含まれている。
一時期、中東アジアのテロリストが日本に密入国したとの情報が入り、捜索に力を入れてはいた。
だが日が経つにつれ、メディアの報道も落ち着いてきたころから、上からは何も指示が下りなくなった。
いったいいつイタリアに帰れるのだろうか。コロネロは何気なく、窓の外を見やった。
ズドォォォォォ・・・ン・・・・・・・!
「!」
突然の轟音に、一瞬にして全身を緊張させた。
音のする方向――目の前にある高等裁判所を見た。その、向こう側。
どす黒い煙が、濛々と立ち上っている。明らかに何かが爆発、炎上している。
問題はその規模だ。建物を飲み込むかのように立ち昇っている様は、緊張を増長させた。
庁舎内にアナウンスが流れている。
日比谷公園にて、大規模な爆発が発生。
無機質なアナウンスの声を脳に入れながら、コロネロは拳を握った。
何が起きているのか。
見えない何かが、姿を現す事無く笑い声を上げたような気がした。
「ごめんなー、アイツいつもああなんだ」
ぽかんと口を開けたままの綱吉に、山本は申し訳なさそうに言った。
「あのタコ頭も、もっと大人になったらいいのにな」
笹川も鼻息を荒くしながら憤る。綱吉は慌てて両手を振った。
「いや、全然気にしてないし!大丈夫だよ、ありがとう」
本来あまり人の態度等は気にしない性質なので、結構流している部分もある。
絡みにくいのは、まあ、オレもだし。
「――――おい!やべーぞ」
一人の隊員が駆け寄ってきた。綱吉と笹川を見て、慌てて頭を下げる。階級は二尉だ。
「どーしたんだ?」
「とりあえずテレビ見てみろ!」
ラウンジの隅にあるテレビの電源を入れる。只ならぬ雰囲気を感じ取り、綱吉は嫌な予感を覚えた。
画面に映し出された光景に、息を呑む音が聞こえた。
真っ黒な煙で何も見えないが、どうやらどこかの公園らしい。
周りに人だかりが出来ており、喧騒と興奮の声、悲鳴、嗚咽が織り交ざっていた。
硬い声のアナウンスが流れる。
『日比谷公園で起きた突然の大規模な爆発に、現在警察が原因究明に当たっているとの・・・』
「マジでか」
ぽつりと呟いた山本の声に誰も反応することなく、黙っていた。
何だろう、嫌な予感がする。
綱吉がごくりと唾を飲み込んだ時、画面が急に切り替わった。
「――――――――――――!」
鮮烈な光景に、その場の人間が言葉を失った。
その映像はかなり揺れており、カメラマンが走っているのがわかった。
辺り一面、火の海に包まれている。何棟ものビルが崩れ、画面の中央に何やら大きな物体が見える。
爆発音が聞こえ、続いて火柱が高く上がった。
『大変です!大型旅客機が、墜落しました!場所は中央区――』
「ツナ!」
綱吉は駆け出していた。
長い廊下を抜け、階段を駆け下りる。一階に着いたところで、人とぶつかった。
「―――危ねえぞ、前を見ろ・・・、一尉」
「獄寺君、」
目が合う。
綱吉の体を受け止めたのは、先ほど別れた獄寺だった。 険しい顔で諌めてくる。
「基地内は走らないで下さい」
「ごめん、今それどころじゃないから」
口調が乱暴な綱吉の只ならぬ様子を察知したのか、獄寺は眉を顰めた。
「何かあったんですか?」
無視して綱吉は再び駆け出した。
頭の中は、舐めるように広がっていく業火と、逃げ惑い泣き叫ぶ人たちの悲痛な叫び声で埋め尽くされていた。
滑走路へと足を向ける綱吉を呼び止めた者がいた。
「沢田!」
「――――、一佐!」
シャマルは冷静な顔をしていた。
恐らくニュースを見たのだろう。そして、綱吉の行動を予測したのが感じ取れた。
「どこへ行く」
「東京です」
「ダメだ」
きっぱりと告げるシャマルに怯む事無く、綱吉は睨み返した。
「どうしてですか」
「あの爆発はテロの可能性が高い。この機に空から侵入されたら、誰がそれを撃墜するんだ」
「誰でも出来ます、そんな事」
吐き捨てるように呟いてジェットに向かった綱吉を、シャマルの腕が押さえ込んだ。
「東京へ向かうのは、お前の仕事じゃない。救援部隊の仕事だ」
「一佐は、放っておけと言うんですか!今でも、助けを求めている人が大勢いるのに!」
滑走路に、綱吉の悲鳴が響く。
獄寺が遠くから駆け寄ってくるのを視界に入れながら、シャマルは諭すように囁いた。
「お前は、戦闘機を操る沢田一等空尉だ。それ以上でも以下でもない。自分の仕事を全うしろ」
ギリ、と音が聞こえ、シャマルは下を見た。
硬く握り締めた拳から、ぽたりと赤い雫が垂れていた。
綱吉は、滑走路に有るジェットをまっすぐ見つめながら、琥珀色の目を大きく見開き、僅かに震えていた。
「一佐」
獄寺が近付いてきた。シャマルは「こいつを頼む」と言い残し、その場を去ろうとした。
その隙を狙い、綱吉は駆け出した。
「――――おい、待て!」
シャマルの声の後、獄寺が動いた。
綱吉に追いつき、肩を掴んで引っ張った。小柄な体は、簡単に引き寄せられた。
「失礼します」
獄寺は、綱吉の鳩尾に思い切り拳を叩きつけた。
呻き声をあげて、体が崩れ落ちる。
それを受け止めた獄寺を見ながら、シャマルは深い溜息をついた。