その日の夕食の時、リボーンは無言で食べていた。

綱吉とビアンキがチラチラと視線を投げかけるが、ひたすら無視でもくもくと箸を進めている。

「そういえば」

いきなりの発言に二人ともびくりと痙攣するが、いち早く反応したのはビアンキだった。

「な、何!?」

「ビアンキ、お前仕事は明日あるんだよな」

「ええ」

「俺も手伝うぞ」

「えっ本当!?」

やった!とビアンキは色めき立っている。綱吉はショックを隠しきれず、箸を落とした。

「おい、行儀が悪いぞ」

「リ、リボーン!明日は休みだから一緒に映画に行こうって言ったよね!?」

「言ってねえぞ」

「あ、間違えた!買い物付き合ってくれるって言ったよね!?」

「言ってねえぞ」

「間違えた、コスプレ喫茶」

「言ってねえぞ」

(ううう)

綱吉は箸を噛んだ。まるで、夫の浮気を止められずどうすることも出来ない妻のようだ。

リボーンはギロリと睨む。

「お前、ついてくるんじゃねえぞ」

「え!な、なんで」

「補習あるだろが」

(そういえば・・・・・すっかり忘れてた)

「ね、リボーン、帰り買い物付き合ってほしいの」

「ああいいぞ」

(何か扱い違くないか!?)

綱吉のイライラは極限に達していた。

「ごちそーさま!」

「あら、ツナ、おかわりは?」

「いらない!」

ドスドスと台所を出て行く綱吉の背中を、リボーンは深い闇色の瞳で見ていた。

 

 

 

(あ゛あー・・・・・・・つかれたー)

補習も終わり、部活へ行く山本を見送って、綱吉は椅子の背にずるずるともたれた。

教室には誰もいない。光が窓から顔を出し、室内にキラキラとベールを被せていた。

(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はっ!)

思わずリボーンのことに思考が行き着いた綱吉は、ぶんぶんと頭を振って頭の中から追い出す。

補習中も気を抜いたらリボーンとビアンキのことを考えてしまい、頭を振りすぎて教師に「新手の嫌がらせか?」と

注意された。

(別に、俺には関係ないんだけどさ)

「ツナ君?」

「!!!」

いきなりの声に綱吉は思わず立ち上がった。入り口には、並高のマドンナの笹川京子が立っていた。

「きょ、京子ちゃん」

「やっぱりツナ君だ!補習?」

「う、うん・・・・(うわー恥ずかしい!)」

「私、明日の数学に使う参考書忘れちゃって・・・」

照れた様子の京子のはにかんだ顔を見て、綱吉の心は少しだけ軽くなった。

「ツナ君、大丈夫?」

「えっ、何が?」

「何だか元気ないみたい・・・」

そんなに落ち込んだように見えるだろうか。 そういえば、部活に行く直前、山本にも「大丈夫か」と言われた。

「何か悩み事?」

「えっ!いや・・・・・」

綱吉は目を伏せた。琥珀色の瞳は憂いで揺れており、それは京子に哀しみの色を訴えた。

切なさに満たされた表情はどこか美しくもあり、思わず京子は息を呑んだ。

 

「何だかツナ君、誰かに恋してるみたい」

 

「え」

 

なんだって?

 

恋?オレが?

 

誰に?

 

 

 

脳裏に浮かんだ顔は、一つしかない。

 

 

 

瞬時に顔が真っ赤に染まる。

体が「熱い」と悲鳴を上げているようだった。

(え、え、)

 

(まじ、で?)

 

「ツナ君!大丈夫!?」

立っていられなくなり思わず座り込む綱吉に、京子が慌てて駆け寄った。

だが、応える余裕すらなかった。

だって。よりによって。

アイツかよ。

(・・・・・・なんだ、そうだったんだ)

「あ、はは」

思わず笑いがこぼれる。こんな嘘みたいな話、あるだろうか。

「ツナ君?」

オロオロと見下ろす京子に、綱吉は微笑んだ。

「ありがとう、京子ちゃん。オレ、自分の気持ち、わかった」

 

 

ガタン

 

 

「あ、リボーン君」

「!!!」

入り口にはリボーンが佇んでいた。なぜか黒いスーツに身を包んでいる。

リボーンがスーツを着る時は、決まって修行する時やイタリアへ行く時だったのだが、綱吉は彼の服装に注意を払う

余裕はなかった。

 

彼は綱吉を見ていた、否、見据えていた。

さながら蛙を睨む蛇のような、兎を仕留める狼のような、獲物を捕まえる肉食動物の目だった。

黒い瞳の中に爛々と燃え盛る焔を見つけ、その美しさに綱吉は声を失った。

「美しい」と感じる自分は、どうかしてる、と思いながら。

 

「じゃあ、私もう行くね」

二人とも、また明日。

空気に気付かぬ京子がのんびりと声をかけ、去ろうとする。

綱吉は慌てて、「ありがとう!」と礼を言うと、京子は笑顔で「バイバイ!」と応えた。