カツ、とリボーンが一歩踏み出す。

 

綱吉は思わず立ち上がる。そのまま一歩後退した。

自覚したばかりの身としては、顔を見るのはもの凄く恥ずかしい。

 

リボーンが同じ空間にいるだけで、肌が焼けそうに熱かった。

(今までずっと一緒にいたのに、)

「お、お帰り、リボーン」

「京子と何話してたんだ」

 

一歩、歩み寄られる。

その分だけ、離れる。

 

「べつになにも」

「『自分の気持ち』って、何だ」

(しっかり聞いてんじゃん!)

 

もしかして、バレたのだろうか。

綱吉は胃の中に鉛を押し込まれたように感じた。

 

普通、男が男を好きになるなんて、気持ち悪いに決まってる。

それが、昔から一緒にいるヤツなら、なおさらだ。

 

リボーンは優しいから、俺が気持ちを伝えたところで嫌がるそぶりは見せないかもしれない。

けど、実際どうなるかなんてわからない。

 

それに、リボーンには・・・・・・・・ビアンキがいる。

あんなに綺麗な人に愛を囁かれて、嬉しくないはずがない。

 

綱吉の頭の中ではすでに、リボーンとビアンキが付き合っている、という事を前提として思考が進んでいた。

それに、先ほどから体中の全神経が目の前の男にアンテナを立てている。

リボーンがゆっくりと近づいて来る度に、ぞわりと肌が波打って、今すぐ逃げ出したい衝動に駆られてゆく。

(もう、やだ、おかしくなりそうだ)

 

綱吉は背に壁を感じた。

追い詰められた、と思った。

リボーンは綱吉の目を見詰めている。

綱吉は耐え切れず、目を瞑った。

 

「なあ、さっきの、誰のことだ」

リボーンの掠れた声が脳に響き、体に力が入らない。

自覚した途端これだ、と、綱吉は己の不甲斐無さに思わず舌打ちしそうになった。

「べつに、誰だっていいだろ」

「良くない」

「なんで」

「何でも」

「リボーンには関係」

ない、と言おうとして、いきなり腕を押さえつけられた。

思わず目を見開くと、目の前にリボーンの顔があった。

その近さにたまらなく恥ずかしくなる。が、目を閉じることは出来なかった。

「ちょ、うで、はなして」

「ビアンキか」

綱吉は目を見開いた。

「・・・・・・へ」

「ビアンキが、好きなのか」

何言ってんの、と言いたかったが、声は出てこなかった。

 

リボーンが、こんなに苦しそうな顔をしてるの、初めて見た。

 

そんなに、ビアンキのこと、

 

綱吉は、体の中で黒い蛇のような何かが暴れだしたように思った。

だめだ、止まらない。

 

「離せ!」

「嫌だ」

「もう、やだ!お前といると、おかしくなりそうだ!」

 

掴まれている腕が、熱い。この空間だけ空気がとても濃くて、息が出来ない、と思った。

 

リボーンの体で壁に押さえつけられた。

二人の体が密着する。綱吉は、腰が砕けそうになるのを必死で堪えた。

 

リボーンの 声。

 

掠れて、苦しそうな。

 

 

「おれは、とっくの昔から、おかしくなってた」

 

 

リボーンの吐息が、くちびるにかかった。

 

 

限界だった。