綱吉は、最後の力を振り絞り、リボーンの肩を思いっきり突き飛ばした。

リボーンの体が離れた。

(今だ!)

震える足に叱咤しながら、何とか駆け出す。

今は、この場から逃げることしか考えられなかった。

リボーンが追ってくる気配はなかった。

 

 

 

 

家に向かう道中、綱吉は思い出していた。

リボーンの表情、声、瞳の色、手の感触、体の温もり。

体が火照ってくる。

 

(とっくの昔から、って、どういう意味だったんだろう)

 

ビアンキと会った、昔からってことだろうか。

それとも、ビアンキが来たときから、綱吉がビアンキに近づくのが我慢ならなかった、ということだろうか。

 

(・・・・・・・・もう、どうでもいい)

 

何にせよ、あそこまでビアンキを想っていることを知ってしまったからには、失恋確定だ。

あんなに必死に誰かを盗られまいとする彼は初めて見た。

 

 

彼と、昔のような関係に戻れるだろうか。

綱吉がビアンキを好きではない、という誤解を解いたなら、リボーンはきっとまた前と同じように接してくれるだろう。

だが、自分は。

綱吉は自信が無かった。

 

『ダメツナ』

リボーンに励まされたような気がした。

よりによって彼にだなんて、矛盾してるな、と思った。

 

 

 

「こんにちは、沢田綱吉さん」

誰だ、人が浸っているときに。

どんよりと振り向いた綱吉の後ろには、変な男がいた。

誰だ、このカッコつけたキザ男。 服の趣味がよくわからない。ど派手な牛柄のシャツなんて。

「初めまして。ランボと申します」

「・・・・・・・・・・・イタリアの人?」

「おや、よくご存知で」

ランボなんて名前、「リボーン」並に変わってる。

幼馴染を思い出し、綱吉は落ち込んだ。

 

目の前の男は構わず喋り続ける。

「お暇ですか?もしよろしければ、お茶でもどうですか」

(・・・・・・・・・・・・帰ろ)

くるりと踵を返す綱吉に、男は慌てた様子で引き留めようとする。

「ちょ、ちょっと!待って下さい!」

それでも無視して遠ざかる綱吉の背に向かって「うう・・・・・が・ま・ん・・・」と涙目で呟きながら、ランボと名乗る男は

駆け寄った。

ガシッ!

「!うわ、何すんだ、下ろせ!」

「少しの辛抱だ、アンタには餌になってもらう!」

「え、何の!?オレなんて食べても美味しくないよ!」

下ろせー!と叫ぶ綱吉を肩に抱え、男はダッシュで去っていった。

 

 

 

「・・・・・・・」

リボーンは、沢田家の玄関を開けた。

台所から、奈々とビアンキの笑い声が聞こえる。

のろのろと入っていくと、奈々が「あら、お帰りー」と微笑んだ。

「そういえば、リボーンちゃんにお手紙、来てたわよ」

はいコレ、と渡されたその手紙には、汚い字で「果たし状」と書いてあった。

「馬鹿ね、リボーンに挑戦する命知らずがいるなんて」

ビアンキが鼻で笑う。

リボーンはいつもなら中を見ずに破り捨てるところだった。

だが、何となしに封を開け、手紙を読む。

 

「―――ママン、ちょっと出てくるぞ」

「え、ええ・・・・」

リボーンの只ならぬ雰囲気に驚いて、二人は顔を見合わせた。