「・・・・・・ねえ、いい加減放してほしいんだけど」

「まだダメです」

「なんで・・・・・・・」

綱吉は頭を抱えようとして、自分の両腕が縛られていることに気付き、溜息をついた。

(ここ、どこだ?)

綱吉のよくわからない道を通って辿り着いたその場所は、海沿いにある空き倉庫だった。

「場所のセレクトもベタだなー」

「だって!ここしか空いてなかったから」

ランボは泣きそうな声で返す。

綱吉は両腕を縛られながらも、ランボに事情を聞いていた。

元々ランボはリボーンをライバル視していたそうだ。 リボーンがイタリアを訪れる度、挑戦状を叩きつけていたらしい。

「まあ、アイツはいつも現れず、オレっちの不戦勝って形になってたけどな!決着は着けたかったしな!」

ガハハと笑うランボに、綱吉は同情の眼差しを送った。

(アイツ、無視してたな)

そして、決戦の時は再びやって来たそうだ。 どうやら、日本での『仕事』をリボーンに横取りされたらしい。

「ねえ、その『仕事』って、一体何のこと?」

「お前、幼馴染なのに、知らないのか?」

きょとんと尋ねられ、決まり悪げに目を逸らした。

(・・・・・・・・・仲、良いのかな、オレ達)

実際、リボーンがよくわからない事をしているのは知っていたが、教えてもくれない。

いつかは話してくれるだろうと気長に待っていたが、リボーンは最後まで教える気はないのかもしれない。

多分、今だって、助けに来てくれるかどうかも怪しい。

来てくれたところで、自分としては非常に顔を合わせたくない。

(・・・・・・・・あー、へこむ・・・)

急に黙った綱吉を訝しげに見ながら、ランボは言った。

「アイツは、裏の世界ではとても有名なヒットマンだぞ」

 

「ひっとまん?」

何それ、美味しいの?と言わんばかりに、綱吉は首を傾げた。

 

「たぶん、国家機密を荷う日本でも重鎮のスパイも兼ねてるぞ」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんだそれ」

 

「マジだ」

(そんなわけ、ない・・・・・・)

 

(・・・・・・・・・いや、アイツならそれくらいやってそうだな)

 

黒衣に身を包み、闇の中へと姿を躍らせる。

ハマり過ぎて怖い。 綱吉は思わず身震いした。

「あんまし、驚かないんだな?」

「いや十分ビックリしたよ!・・・・・まあ、でも、リボーンなら有り得るなあと思って」

「ふーん・・・・・あのヒットマンにして、この幼馴染有り、か」

「ところで・・・・・・この縄、外してほしいんだけど」

「それじゃ人質の意味ないだろ」

「万が一リボーンが来たら、逃げられないじゃないか!」

「だからそのために縛ってんだよ!あ、足も縛らないと」

「間抜けだな・・・いや、そうじゃなくて、リボーンから逃げたいんだよ!」

 

 

 

「暴言吐くじゃねえか、ダメツナ」

 

「「!!!!!」」

 

綱吉は一気に青褪め、ランボは瞳を爛々と光らせた。

 

倉庫の入り口に男が立っていた。

逆光を背にしているので顔は見えないが、一体誰か、なんて愚問過ぎる。

 

 

「テメエは眠ってろ」

「ぎゃぴ!」

ボスンと殴られ、一発でランボは気絶した。

(つ、使えねえ!!)

 

リボーンが、ゆっくり歩み寄ってくる。

綱吉には、死を宣告する死神のように見えた。

 

「ぐっ・・・・・・・死ね、リボーン!」

倒れていたランボが、最後の力を振り絞って何かリボーンに投げつけた。

全く見る事無く、リボーンはそれを跳ね飛ばす。

それが壁に当たった瞬間、

 

ドガシャアアアンッッ!!

 

爆発した。

 

(―――!)

 

綱吉は思わず立ち上がり、壁に開いた穴の中へと飛び込んだ。

 

 

(に、逃げなきゃ!)

 

今アイツの顔なんて見たら、どうにかなってしまいそうだ。

 

 

 

 

 

 

はあ、はあ、はあ

 

倉庫の間を駆け抜ける。

 

(もう、大丈夫かな)

 

「いい度胸だな」

 

声は、すぐ近くで聞こえた。

 

(!)  

 

ガッと足払いを掛けられ、思わず後ろに倒れこむ。

 

(ぶつかる!)

 

衝撃はやってこなかった。

 

恐る恐る目を開けると、

 

 

目の前には、

 

 

彼の男の、顔があった。